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銛、 広大無辺の大地より  作者: あま
汽水の濁り
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エス

遅くなりました

 霊素を切らして倒れた俺は精神世界という反省部屋にぶち込まれた。ただ広く、何もない世界は退屈を通り越して虚無を感じさせる。そんな世界に体感1日ほどいる。寝ることも食事をすることもない空白の時間だ。

「もうそろそろ出してくれないかな。」

と1人ボヤくが返事は勿論のごとく返ってこない。終わりの見えない退屈は耐え難い。


カコン

 真後ろから何か硬質なものが床に落ちたような音が聞こえる。今まで刺激がなかったので過剰に反応してしまった。

「っ!…机?」

現れたのは机。その上には書き置きが残されていた。

「少し急用ができたので、そこには居ません。説教は後でするから、そこで反省していて。」

 やっぱ反省部屋だった。霊素を全て使い切ったのは悪手だった。一瞬、霊素を使い切ったら倒れることを知らせてなかった神様に他責しかけたが、そもそも迷宮内で使徒の命綱である霊素をすっからかんにした俺がヤバい。偽宝箱(ミミック)の相手をしてしまったのも良くなかった。最初接敵した時と同じように、さっさと逃げれば良かったのだ。


「暇だ。」

 更に考え続けてたが、一向に終わりが見えない。反省点はゴロゴロと出てくるが、解決策は実行してみないと分からない。いつの間にか考えることを放棄して、寝転んで、暇を持て余していた。

「そうだ、修行でもしよう。」

 立ち上がり、銛を手に握るイメージをする。すると手に銛が握られていた。

「?」

 思い浮かべたものが出現した?今度は迷宮内で死ぬほど作った干し肉を想像してみる。意識していた場所に、まるでそこに元々あったように存在していた。拾い上げて食べてみる。

「いつものごとく塩辛いな。」

 ここで閃いた。想像したものを取り出せるなら、元の世界のゲームとかも取り出せるのだろうか。詰んでたゲームがそこそこあるから、ここで消化したいのだが。

「無理か。」

 プレイしようとゲームを起動してもゲーム画面は真っ暗なままだ。詰んでいたゲームタイトル悉くが起動してもプレイできなかった。そこで過去にプレイしたことのあるゲームを起動してみる。すると正常に起動できた。いつまで精神世界(ここ)にいるか分からないが、久しぶりのゲームにのめり込んでしまった。


 1つのゲームをクリアした後、また新しい次のゲームと繰り返す内にあるゲームパッケージを手に取った。それはいわゆるRPGゲームのパッケージ。剣と魔法の世界を題材にした、ハイファンタジーゲーム。中学生だった時の俺はこの世界に猛烈に憧れたのを覚えている。主人公は曲げない意思を持って戦い、レベルアップして、挫折しても諦めずに敵をに挑み、レベルアップしてまた敵を倒していく、うちに多くの人を惹きつけ、大義を成した。自分の思考を曲げないで障壁を打ち砕き、前に進めると思っていたし、成長も不屈の心だけでできると考えていた。でも今、俺はどうだろう。ハイファンタジーな世界に来ても、人型の敵を殺すことを躊躇し、迷宮の厳しさに身を置いてきたにも関わらず非常時に対応しきれず死んだ。


「もっと強くなろう、自我を押し通すために。」

 ゲームをしていてずっと座っていたが、ようやっと立ち上がり、銛を持ち上げる。


 そこからは時間感覚が狂うほど銛や神法の使い方を練習していた。今の俺の戦闘は脳内で作った動きをアウトプットしてできている。精神世界で訓練しようと筋力などは向上しないが、銛や神法の使い方を上手くイメージできなければ上手く戦闘などできない。


 想像上の敵を作れば「それ」は現れ、攻撃してくる。この空間は訓練にぴったりだった。


 色々な課題が湧き上がる。


 銛の穿ち方。瞬間の判断。神法の有効な使い方。神法の組み合わせ。戦闘への転用。


 時間感覚が狂うほど長い時間練習した。格段に戦闘能力の理解が深まったのを感じる。ただ、それで自信過剰になってはいけない。迷宮で学んだ最も大切なことは常に理不尽で不運で意味の分からない最悪を肌見放さず感じること。その最悪は単純な生命の危機的なものかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、それを自分の身近に置き実感し続けなければ迷宮では生きていけない。ただそれだけだったし、それをしなかったから俺は死に、再び倒れた。


 ただ、長い時間一人でいると人は狂うというのは本当の用だ。最初におかしくなったのは、発語能力だった。神法を使うとき、声を出す必要があるが、『汲水』を使おうとして違和感を覚える。

「『汲す──』?」

「す?「す」ってこの発音だったか?」


 次は聴力だ。銛を振り続けているといつの間にか風切り音がしなくなっていた。


 次は平衡感覚だ。段々とコケたり、横薙ぎした感覚で斜めに薙いでいたりした。この時、感覚が本格的に狂っていることに気付いた。

「抜け出さ無ければ、この世界から」


 地面──真っ白な床──に銛を突き刺してみるが何も起きない。跳ねて上までいっても何もない。何ならそこに床ができる。

 恐らく、物理的な移動や攻撃は意味を成さない。だったら心理的なものだろう。この空間は精神世界、出口を自分の意思で作れるのではないだろうか。とりあえず意識の中で出口を作る。

「無理か。」

 

 前回ここにきた時は死んだときだ、その時は黒くて暗い場所から降ってきたように入った。つまり意識は元々暗い場所の上側部分にあった、つまりこの空間から上に、暗い場所に出るイメージがいるのでは?


 この空間からするりと抜け出すようにイメージで。この空間を抜け出した。予想通り、あの空間の外は真っ黒な世界だ。

 泳ぐように上方へ向かい、水面のように見えるところを抜け出そうとした。

 その時目の前が真っ暗になった。

 

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