間幕 高貴と定義されたもの
長くなりすぎたので1話を2話に分けます。その関係で間幕がもう少し続きます
迷宮に出現した魔物の討伐隊は、主に3種類の隊員によって構成員されている。討伐するための高位の探索者パーティ、補給のための別の探索者パーティ、そしてギルドから派遣される記録パーティだ。
基本編成が探索者パーティが討伐担当の4人と補給担当の3人、記録パーティが2人の計9人体勢で討伐に取り掛かる。
しかし、今回の『隻腕』討伐隊は基本の9人体勢から3人減らして6人編成で討伐にあたる。これはギルド側からの条件であった。イオニア迷宮は低級な魔物素材の生産量が多い。そのためギルドは隊員の数を減らして、素早く討伐し、イオニア迷宮の探索者活動をはやめに再開させたいのだ。
「従って良かったのか?条件といえど、ほぼお願いみたいなもんだろ。パーティ4人全員いて負けるとは思ってないが、一応強引に討伐隊の正規の人数にすることもできただろ?」
正式な依頼受注の帰り道、討伐担当パーティの4級探索者の青年、バリスがパーティのリーダーにしてバリスと同じく4級探索者のドールに話しかける。
「イオニア迷宮は小規模で難易度も低く、地図もある迷宮です。人数を多くしても進む速度が落ちるだけでしょう。」
ドールの応答に、2人の後ろに立っていた中性的な顔をした高身長な男、5級探索者ミルが付け足す。
「ま、ちょうどいいじゃないですか。留学期間もあと少ししかないんですし。補給パーティの募集してる時間もずっと待機ってのも暇ですから。」
「それもそうか。」
ドールとミルの意見を聞いてバリスはさらっと意見を取り下げ、話を続ける。
「そんで、迷宮入りの日時は?」
その言葉を聞いた、5級探索者のエリルは呆れ顔をあからさまにバリスに向ける。
「そういえばあんた、受注のための書類作成のときに後ろの壁にもたれかかって寝てたわね。」
重要な正式受注のタイミングで爆睡した事実を暴露されたが、ドールとミルは、「何時ものこと」とばかりにスルーした。バリスの質問にはドールが答えた。
「5日後の朝です。」
続けて、
「明後日までにミルは薬や固形燃料などの補充を、バリスは使い捨て魔導紙の買い出しをお願いします。エリルは明日の朝、ギルド前に来てください。記録パーティの人と打ち合わせです。」
と全員に役割を割り振る。すると
「ういー」
「はーい」
「分かったわ」
と三者三様に返事が返ってくる。
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日は飛んで迷宮入りの日。強火の太陽が燦々と輝く迷宮口前、討伐隊と関係者等が数十人集まって見送りをしていた。軽さを重視した革鎧を着たバリス、深くローブを被ったドール、大量の荷物を背負ったミル、重厚な鎧を身に着けたエリル。偏りない、模範的なパーティだ。迷宮口前の人だかりの中にはあの6級探索者もいて、不安そうな、けれど願望もこもった目で討伐隊を遠目に見ていた。それに気づいたバリスが笑顔でサムズアップした。
迷宮に入っていった討伐隊は討伐パーティと記録パーティの2つに別れる。討伐パーティから後ろに7歩歩いたところに記録パーティがいる。ギルドから派遣される記録パーティは討伐や個体の記録を取るだけでなく、討伐作戦が失敗した場合、外部に情報を伝達するために存在している。そのため討伐パーティより大幅に後ろで移動する。
「迷宮の中は何時も寒いな。」
バリスは迷宮内外の気温差によって身震いした。迷宮内は年中気温が変化せず、約10℃前後だ。それを見たミルは外套を荷物から取り出し、差し出して
「体調崩したら不味いですし。今使います?」
と提案した。
「いや、いいよ。歩いてればすぐ体温も上がるし、もし使ってる間に接敵したら、返り血とかで汚れちまう。寝るときに血で汚れたもんは着たくない。」
ミルやドールは後衛なので買った当初から今まで、普段使いしても外套に酷い汚れはない。対してバリスは前衛、返り血を浴びたら暫く洗えない。汚れを残すのを嫌ったのかバリスは提案を断った。
迷宮入りして3分ほど話していたが、明るく話をしていたバリスの顔つきが一瞬にて変わる。
「エリル。」
「気づいてる。」
エリルは鎧の顔部分の開閉部を既に閉じていた。バリスは続けて
「15歩先の交差路中央から左側に並んで3体。大きさからして小鬼。後衛2人は魔素の節約のためにここはエリルと俺でやる。いいか、リーダー。」
ドールは頷いて、肯定の意を示した。
「よし。」
ミルはカバンから何処からともなく、片手斧を出してエリルに渡す。
「投げナイフで1体もってくから、残った2体を1体づつな?」
ガチャと厚い鎧を纏ったエリルが頷く。
バリスが振りかぶってナイフを投げると中央側にいた小鬼の太腿に深く突き刺さった。小鬼は投げられた先を見て、走り出す。
バリスは短剣を片手に持ちながら、走ってきた小鬼の頭を前蹴りで蹴り飛ばし、倒れた小鬼の喉に短剣を押し込んでトドメを差した。
エリルは片手斧を薙いで走ってきたもう一方をいとも容易く斬首した。更に投げナイフで傷を負った小鬼の側まで行き、首を全力で踏み潰す。首に付いた肉が変形し、そのまま首の骨を砕く。
「投げナイフでトドメさせてないじゃない。ちゃんと殺しきって。仲間を呼ばれたら進行速度が落ちちゃうから。」
言い訳を並べようとバリスは一瞬声を出したが、エリルの圧に負けたのか、それとも言い訳の無価値さを認識したのか、素直に謝る。
「ごめん。」
やり取りの後少しして、ミルがエリルに質問をする。
「もうそろそろ下りの階段ですけど、休憩は要りますか?」
「いいえ、元々予定では睡眠までに4階まで降りる予定よ。ここで休止すると環境階層の3階で野宿になるわ。小休止は3階に降りる階段にしましょう」
さらにドールが付け足す。
「今回の討伐作戦は素早さが重要になります。だからこそ、討伐パーティの適正探索者ランクより幾分高い4級探索者を含む私たちのチームが抜擢されたのでしょう。」
その会話を聞いたバリスが、
「歩く速度上げるか?」
と聞くと、ドールは
「3階の環境階層は広いですが、降りる階段と昇る階段の距離は近いので、そう酷く時間を気にする必要は無いと思います。」
と返す。
それ以降、時々会話はあれど黙々と迷宮を進んでいった。
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細かいものを含めて、通常の階層で数回、環境階層で10回以上接敵したが、無事4階にたどり着いた。休憩場所で記録パーティと合流して、焚き火と寝床を作り、記録パーティ2人が寝についた後、少し
討伐パーティで話していた。
「一応浅い階層にいる可能性もありましたが痕跡もありませんでしたね。」
「予測どおり、5階から最後のボス部屋がある7階あたりにいるようです。」
「はぁ、留学期間も後少ししかない。今年中に4級探索者パーティになるのは厳しそうだな。」
「私とバリスが4級に上がったばかりですから、迷宮に潜るのが遅れたエリルとミルでは評価値的にまだ4級にはなれないでしょう。昇級は来年に持ち越しですね。」
「明日のうちに討伐して、帰路につきたいので、もうそろそろ寝ましょう。見張り番は私がします。」
ドールの申し出は非常に合理的だ。バリスとエリルは隻腕の攻撃を前衛で受けながら攻める必要がある。見張り番による集中力の低下は死に直結する。ミルは物資の運搬や魔物の解体、スクロールの使用など、役割が多岐にわたる。ミルの体調不良はパーティの不調だ。対してドールは魔導士兼魔法士。隻腕は動物系の魔物であり、最悪不調でも詰みはしない。しかしエリルとミルは何か言いたげだった。それをドールはあえて無視して集まりを解散させる。
「それでは解散して下さい。」
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解散して一人となったドールは独り言をいう。
「──困ったものです。探索者なのですから、そこまで気にしなくてもよいのに。」
4級探索者 ドール
またの名を
ドール・プライス・ウィンストン
ウィンストン帝国の皇帝候補の一人であった。




