第289話 ドワーフのS級冒険者ジグスは見た(中編)
「という訳でまずはA級パーティー『ポークレットファミリー』の皆さんに先発していただきます」
ぱらぱらとした拍手、
しているのは冒険者ギルドの職員か、
奴隷エルフも仕方なくといった感じでしている。
(もったいねえ、あのエルフ三人、絶対にもったいねえ)
「二番手は『クリスタルフォース』の皆さん、
三番手は『ディープディープトレジャー』の皆さん、
最後が『ダークネスバスター』の皆さんの順で入って貰います!」
結局、ダンジョンは狭く奴ら貴族のパーティーは、
大所帯で入るのでしばらく待ってくれという話だった。
次に入る『クリスタルフォース』のリーダー、キーリアが確認する。
「入ってどのくらい待てば良いのでしょうか?」
「そうですね、敵が弱い早朝に入りますから、
そのさらに翌朝までに帰ってこなければ」
「……では帰ってきたらすぐ入って良いと」
とても帰ってこられるとは思えねえ、
いや戻ってくるとしたら主人が死んだ後のあの奴隷エルフたちか。
(何とか、やばくなったら逃げろと伝え、ても無理か)
奴隷は主人に従うもの、
あの首輪、下手すりゃ主人が死ぬと同時に絞めつける奴もある、
かといってあの坊ちゃんに交渉できないものか。
(おお、ジャロー殿が動いた!)
「ふぉふぉふぉ、ポークレット侯爵殿」
「はいなんでしょう、えっとジャロー様」
「さっき言っておった戦力が本当であれば、エルフの矢などいらんじゃろう、売ってくれんかのう」
うむ、本当であればだ。
「うちのエルフは有能で、矢などいらないのです!」
「……そういう事を言いたいのでは無いんじゃがのう」
駄目だ、この坊ちゃん、頭が悪い。
(よし、我も混ざろう)
「我も白金貨ならいくらでも出す、
もし聖女が二人も居るなら範囲魔法で楽できるはずだ」
「いえいえ、取りこぼしを撃ってもらわないと、あと魔力切れの時に交代して貰うので」
「取りこぼしなら女勇者の弟子の仕事ではなかったのか」
いや矛盾を突いて追い詰めるよりも、
冷静に何とか奴隷を引き受ける方向にせねば。
「リ……女勇者の弟子は最前列担当で、このエルフは最後列担当です、
僕の命ならメイド二人が助けてくれます、多分」
「フォーメーションはどうなる」
「こうですね」
冒険者ギルドの壁にあるピンで説明するようだ。
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「白いピンが僕で前が女剣士、
左右がメイドです、後ろふたりがソ……聖女、
一番後ろの三人がコイツら、奴隷エルフです」
いまこの坊ちゃん、
聖女を『そ』と言ったあたり、僧侶と言いかけたのだろう、
メイドは単なる坊ちゃんの世話係として、こりゃ深い階で潰れるな。
(ん? キーリアの恋人、ダークエルフが白いピンを抜いて坊ちゃんに投げた!)
「バッカじゃないの? パーティーは基本、八人までなのよ!
九人ならパーティー分けなきゃいけないの、そんな事も知らないの?」
「こらエルミナ!」
(……いま奴隷エルフが一瞬、殺気を飛ばしたな、坊ちゃんにか)
「ええっと、ええっと確かフルパーティーでもポーターはひとりなら」
しどろもどろだ。
「よし、ここはギルドマスターの私が皆の言葉を代弁しよう、ミスト=ポークレット様」
「あっはい」
「ダンジョン攻略の間だけ、奴隷を解放しませんか?」
おお、さすがはギルマス、タスクオンだ!
「えっと、なぜでしょう」
「考えたくありませんが、侯爵がもし亡くなった場合、奴隷エルフが巻き添えになるからですよ」
「ええっと、僕の奴隷ですよ、コイツら」
真ん中のルビエンというエルフの尻を撫でる、
おぞましいといった表情で耐えている、可哀想に。
(やはり愛玩奴隷にもしているのか)
この奴隷エルフら、そういう価値も物凄く高いのは間違いない。
「ですからほんの一時的に」
「後ろから後頭部を撃たれかねないです」
自覚はあるのか。
「でもこれまでの話ですと、聖女やメイドが護ってくれるのではありませんか?」
実際に聖女であれば、だがな。
「うーん、わかりました、考えておきましょう」
「ではここは、やはり私共『クリスタルフォース』が一緒に」
「いえ、うちはフルパーティーに追加でポーターひとり、本当に人数マックスです、
もうひとパーティーの世話できる程、余裕はありませんよ」
どれだけ虚勢を張っているのだ、
世話をされているのはこの坊ちゃんだろう。
「では後ろをついていくだけで、いざとなれば私共が」
「来るのは翌朝で良いですよ、丸一日ください、そしたら後は自由にして良いです」
一日後……願わくば瀕死の重傷で済んで、
再起不能となって奴隷エルフを譲っていただきたいものだ。
ギルマスが皆を見回す。
「もう良いですね? 勇者様、ミスト=ポークレット侯爵様はこれからお城で休まれるそうです」
「アルドライドから長旅でしたからね、ソ……聖者のふたりや女勇者の弟子とも打ち合わせがありますから」
「ふぉふぉふぉ、思い出した、アルドライドの女勇者といえばアメリアじゃろ」
「ご存じなんですか?」
「噂ではな、最も再起不能になってから勇者を貰ったと聞いた覚えがあるがのう」
それだと名誉称号ではないか。
「うちの領地で静養していますが元気ですよ、では明日早朝、
アンデッドが力が弱まり始めるタイミングで入ります、クリスタルフォースのキーリアさん」
「はい、ポークレットファミリーの勇者様」「ぷぷっ」「エルミナ!」
気持ちはわかる。
「入ってこられるなら僕らの翌朝、日が出てからにして下さいね、
それまでに撤退したらお知らせします、もし撤退したらですが」
「死んだらわからないのですが」
「その時は誰かひとりが逃げて伝えるでしょう、全滅は無いかなと」
凄い自信だ、我々とて中階層をどこまで行けるかというレベルなのに。
(奴隷エルフも身を寄せて心配そうだ)
……いっそここであの奴隷を賭けて決闘したいくらいだ、
だがあの美しいエルフ奴隷に見合う物を我らは持ち合わせていない。
「ではお城に呼ばれているのでこれまで、お前ら行くぞ!」
「はっ、はいぃ」「かしこまりましたぁ」「……ううっ」
最後、大きなエルフが少し泣きながら出て行った、
命も明日朝までといった様子か、もったいないにも程がある。
「では皆さん、順番はお守り下さいね」
ギルドマスターのタスクオンも奥へ引っ込んで行く。
「ギルマス殿!!」
キーリアは納得がいかないようで食い下がってついていく、
我はジャロー殿と、坊ちゃんがいなくなったゆえに心置きなく話す。
「朝からダンジョンに入るのは悪手だと思うのだが」
「ふぉふぉふぉ、上階層の弱い敵がさらに弱いときに入るのは愚の骨頂、
夕方以降は深く潜ると同時にアンデッドも強くなる、その状況でより強い中階層に入れば」
「死ぬな、そんな基本もわからないとは」
やはり何も知らない、単なる坊ちゃんか。
(ポーターのうえ、持っているのがあの剣であるからな、なんだアレは)
「ふぉふぉ、もしじゃ、もし戦力によっぽどの自信があって、
ボスに到着するタイミングが朝か昼になるように調整、であればまだわかるがのぅ」
「しかしそれには中で一晩過ごす必要がある、あの奴隷三人でもそこまで護り切るのは」
「そこまで行く気なぞ最初からないのじゃろう、アンデッドダンジョンの常識すら知らぬ奴じゃ、
どうせ上階層をちょろっと潜っただけで、すぐ逃げ帰ってくるはずじゃてのう」
その場合はこっそり城に戻って、
明け方にダンジョンへ再び戻って出てきたフリでもするのだろう、
さすれば嘘を暴いて『冒険者失格』を告げ、うまく奴隷を入手できないものか。
(よし、明日朝、ダンジョンの入口でせめて入る所だけでも見てやろう)
後編へ続く。




