第290話 ドワーフのS級冒険者ジグスは見た(後編)
(早く来過ぎたと思ったが、もうキャンプが設営されているのか)
アンデッドダンジョン、その墳墓を見下ろせる崖の上、
そこに今回攻略で入る四パーティー用のテント群が設置されていた。
「お一人ですか」
「まあな、寝付けなくて様子を見に来た、一番乗りだ」
「いえ、すでにダークネスバスターの皆さんがいらしていますよ」
メラン国の衛兵に言われてその大きなテントの方を見ると、
確かに人影が見え、出入りしている様子が見て取れる、
ジャロー殿も居るのであろう、一番最後の組なのに準備に余念が無さそうだ。
(我のパーティーも、予備含めて全員、早めに連れて来るか)
ディープディープトレジャーと札が下げてあるテントに入ると、
中は何日も、いや何週間でも滞在できそうな装備や食料が用意されていた。
「長期戦で臨めという事か」
むしろ各パーティーが何度も何度も順番に入るという事になれば、
あの美しくも力強い魔力の奴隷エルフ三人を救い出す事もできよう、
坊ちゃんパーティーがあまりに邪魔ならエルフだけ借りるチャンスもあるだろう。
(上手く口説けば、借りたままうやむやにして後から白金貨を投げつければ良い)
冒険者パーティー間の人材貸し借りは大きなトラブルの元だが、
世間知らずの坊ちゃんには良い薬になるだろう、そもそも生き残ればの話だが。
「勇者ポーターなぞ、ふざけた称号をつけておるのが悪い!」
そんな事よりここのダンジョンが凶悪なのは知っている、
順番に大穴を掘り進めるような形になるのであれば、
七日や十日で済む話ではないであろう、となれば潜るたびメンバーを変える我らは有利だ。
(そのあたり、ダークネスバスターはどうするのであろうか)
老練なジャロー殿の事だ、
何順目、何日目という事を全て計算しているに違いない。
「せっかくいらっしゃるのだ、相談に行こう」
自分に話し掛けるようにつぶやきテントを出たところで、
崖下の、ダンジョンの入口に豪華な馬車がつけられた、国王の物か?
(と、いうことは)
慌てて見に行く、
朝と呼ぶには早すぎるがまあ朝と言えない事もない、
やはりというかまず最初に奴隷エルフ三人が出てきた。
(いや、首輪をしていない、解放されている)
夜目の効くドワーフで良かった、
あの坊ちゃん、素直にギルマスの言う事を聞いてくれたらしい。
「ふぉふぉふぉ、もうお出ましかえ」
「ジャロー殿!」
「断言しよう、これであのミスト=ポークレットとかいう小僧は死ぬ、確実にな」
……だとすればあえて命を助けてその対価に、
そんな事をよぎったがジャロー殿の言う事であれば確実だろう、
ならば生き残ったエルフにあらためて交渉すれば良いだけだ。
(ん? 最初に降りてきたのは、背の高い剣士か、女だ)
身体がしっかりしている、なにより顔つきが良い、
あれが女勇者の弟子か、なるほど素晴らしいが
アンデッドダンジョンでは剣士一人がしっかりした所で……
(な、なにっ?!)
女剣士と目が合った?!
まさか、どれだけ距離が、
しかもまだ暗い夜だぞ、あちらから気付けるはずが……!!
「ふぉふぉふぉ、どうやら女勇者アメリアの弟子というのは嘘では無いようじゃ」
「ジャロー殿も勘付かれましたか」
「お主の『人物鑑定』を使えばよくわかるじゃろ」
言われた通り覗いてみると確かにこれは凄い、
S級勇者に匹敵はする、が、前衛がこの一人であれば物量で負けるだろう。
(坊ちゃんのお出ましだ)
エルフが片膝着いて迎える中、
あのおかしなおもちゃ剣を腰につけた坊ちゃんがメイドを両脇に降りてきた。
「メイド服のままダンジョンに入るのか、おかしなものだな」
「むむ、あのメイドの動き、只者ではないぞえ」
「ジャロー殿?!」
鑑定してみると驚くべきものが見えた。
(アサシン……だと?!)
しかも能力が桁違い。
攻撃力自体は女剣士の方が上だが、
素早さが段違いに凄い、アサシンの中でもトップクラスだ。
「ふぉふぉ、なるほどよのう、いざとなればあのアサシンが前衛をするのじゃな」
「確かに三人となれば多少の取りこぼしは難なく弾けますな」
だが一番肝心なのはアンデッドに対しての範囲魔法だ、
本当に聖女であれば問題ないだろうが防御魔法中心の僧侶が二人であれば、
上階層の下手すれば五階、いや三階あたりで敗走、運が悪ければ全滅となる。
(せめて賢者か高レベル魔法使いがひとり出てくれば……)
おそらくジャロー殿も同じような事を思っているであろう、
しかし次の瞬間、馬車から降りた聖女服のふたりに空気は一変した!
「な、なんだあれは?!」
「ふぉあ、ふぁーーーーっっ?!」
一気にとてつもない、膨大な魔力を感じ取ってしまった、
ひとりは姉なのか? 聖女と呼ぶには余りある魔力の量だ、
鑑定すると全属性魔法の量が振り切っていた、あれは人間とは思えない。
「なんなんだ、あれは、それと、あれも!」
妹の方か、胸が大きいのはさておき、
こちらは光属性と闇属性の魔力が半端ない、
天使と悪魔が合体しているような、これこそ人とは思えない。
(聖女ふたりというのは嘘だ、あれは聖女なんてレベルを遥かに超えている……!!)
合計九人、全員集まったようでダンジョンの入口へ進んでいく。
「ふぁっ! まずい、追いかけるんじゃ、これが最後のチャンスじゃ」
「うむ、次は無いな!」
我とジャロー殿はまわって崖下へ降り、
慌てて入口の中へと侵入しようとするが……!!
バインッッ!!
「ふぉっ、遅かったわい」
「これは、結界かっ!」
透明な見えない壁に行く手を阻まれる、
このようなものをいとも簡単に張る事ができる聖女……
我とジャロー殿に絶望感が走る。
「……してやられたわい」
「うむ、これはもうアンデッドの常識とか、昼とか夜とか言うレベルでは無いようだな」
明日の朝まで入るなという事は、
遅くともそれまでには全て完璧にかたをつけるという意味であろう。
「ふぉふぉふぉ、あの坊主、とんでもない囮と言う訳じゃったの」
「あの坊ちゃんは間違いなく無能だが、それは力の部分だけだったという訳か」
「全て計算じゃったの、まさかあの奴隷エルフが戦力的には一番下だったとはのう」
そう、坊ちゃんを除いて。
「ジャロー殿、これはもう待つのは」
「無駄じゃな、おそらく骨の欠片ひとつ残しはしてくれんじゃろう」
「……甘かった、坊ちゃんどころか、あのエルフすら油断させるための餌だったとは」
とぼとぼとキャンプへ戻る我らふたり。
(負けだ、完全に負けだ)
崖上に到着すると手を差し出してくるジャロー殿。
「ふぉふぉふぉ、手ぶらで帰るのはシャクじゃが仕方ないわい、
国王主催の闘技大会でも見てから他所の国のダンジョンへ行くとするかの」
「我は一応、仲間が来るのを待つ、下っ端のふたりを残して街へ戻るとしよう、
そうか闘技大会があるのか、何もしてないがクエスト参加料は貰えるだろうから、それで我も観戦といこう」
握手をして別れ、
準備を始めたばかりのテント内を片付ける。
(おそらくあの坊ちゃんパーティーは、あのまま一直線に攻略するであろう)
この齢にして自分の甘さを痛感する、
と同時に城に居る、おそらくこの事を知っているであろう叔父を思い浮かべる。
「一言ぐらい教えてくれても良かったのに……くそっ」
ちらりと外を見るとジャロー殿のテントも片づけを始めているようだ、
坊ちゃんの次に入る予定だったクリスタルフォースはまだ来てもいないのであろう。
(確かポークレットファミリーであったか……覚えておこう)
こうして我がパーティー『ディープディープトレジャー』の大仕事は、
何一つ仕事も出来ないまま、少ない駄賃のような参加料のみで終える事となったのであった。
「これではまるで、駄目ドワーフだ!」
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「うっわ、でかいネズミ型モンスター!」
「ミスト落ち着け、単なる『ラージラット』だ、魔物と呼べるレベルでは無い」
アンデッドダンジョンで最初に出くわしたのが生きたネズミで僕はびっくりした。
「ミストくん、ひょっとしたらボスまでで、これが一番手ごわい敵かも知れませんね」
「ですわ、とりあえずこの、地下一階のアンデッドは入った瞬間に全て浄化致しましたわ」
何匹か向かってくるネズミも居たが、
エルフの三人が魔法の矢であっけなく倒してくれる。
「あ、三人とも、酷い事してゴメンね」
「いえ、お芝居ですから」
「お尻を触られて、逆にベッドへ押し倒したくなりました、嫌がる演技はできたと思いますが」
「嘘泣きは大変でしたが、きちんと騙せたと思います」
結局、難なく一番乗りをゲットできた、良かった。
「でもソフィーさん、思ったんですが」
「はいミストくん、何でしょう?」
「いちいち冒険者ギルドであんな順番決めしなくても、さっさと先にここへ入れば良かったんじゃ」
その言葉にため息をつくソフィーさん、ベルルちゃん。
「メラン国王はわざわざスケジュールを決めて冒険者を集めたのです、勝手は許されません」
「ですわ、私達が参加しないという可能性もあってですわ、そのメンツを潰してはいけませんわ」
「じゃあ、結局順番を決めた事に重要性が……あるのかなあ?」
と話しているうちに、もう地下二階への階段だ。
「ミストくん」
「あっはい」
「侯爵になったのですから、もうちょっとメンツとか、色々考えましょうね」
この後、さんざん叱られ気味に、お説教気味にこんこんと説明された
だめ貴族だもの。 ミスト
「……ですからミストくんはこの先、結婚してからも……」
(うー、早くダンジョン攻略して、この話終わらないかなぁ~……)




