第271話 ベルルちゃんが僕に感謝した理由
「ルルーシャさま!」
「わぁいルルーシャさまだぁ」
「ソフィーさまはー?」
宗教都市モラベスク、
その大教会孤児院で幼い子供たちに囲まれる少女が居た、
聖教会の聖女ベルル=ヴェルカーク、当時十歳である。
「お姉様はまだ王都ですわ、今日はわたくしだけ、こっそりですわ」
「リオネくんがぐあいわるいの~」
「みてあげて、なおしてあげて~」
「はいですわ、ん~熱っぽいですわね」
杖をかざすと光に包まれる少年、
ベルルが汗を拭いてあげ水を飲ませる。
「…あれ~? もうつらくない~」
「これで治りましたわ」
「ありがと~ルルーシャさま~!」
十歳にして飛び抜けた治癒能力を持つベルルは、
大人からも治療を懇願される程の、すでに『聖女』であった。
「ねえルルーシュさまぁ、今日はゲインくんのお別れ会だよ!」
「ゲインくん、きっとルルーシュさまに会ったらよろこぶよー!」
「そうでしたわね、噂では聞いておりましたわ」
食堂の一番奥に、
手作りの三角帽を被り、
折り紙のレイをかけられた幼い少年が居た。
「あっ、ルルーシャさまあ!」
「まあゲイン、元気そう、幸せそうですわ?」
「うんっ! あした、あさ、だんしゃくのいえにいくんだぁ」
「男爵家に引き取られるのでしたわ? それは素晴らしい! ですわあ」
「ぼくも、これできぞくのいちいんだよ!」
その日の夜は盛大と言って良いほどのお別れパーティーで、
誰もがゲインの幸せを祝った、そう、ベルルもそれを信じて疑わなかった……
「ねえルルーシャさま」
「なんですの?」
「もし、ぼくがきぞくでえらくなったら、おかかえせいじょにしてあげる!」
「夢が広がりますわね、ではまず爵位を上げないといけませんわ」
「なんだかよくわからないけど、ぼく、がんばるねえ!!」
こうして翌朝には迎えに来たサルサラバラルド男爵家に貰われて行ったゲイン、
ベルルはその笑顔を忘れないようにと胸に刻み込んでいたのだった。
(ふふ、将来が楽しみですわ)
その二か月後……
「我はグラバニアス侯爵家当主、ソヤーボ=グラバニアスだ、大教会には多額の寄付をしておる」
「噂はかねがねお聞きしておりますわ、本日は大教会本部への呼び出し、何でございますの?」
「それだがな、どうしても治してもらいたい少年がおる、ついてまいれ」
トコトコと可愛らしくついていくベルル、
その行進のに横から入ってきて合流したひとりの聖女が居た。
「ソフィーお姉様?! ……ではありませんわ」
「ええ、私はソフィーの姉の、スフィアです、妹から貴女の事は聞いていますよ」
「ほんとうに、お姉様に、そっくり……」
見とれているうちに薄暗い通路を抜け、
人気のない部屋についた、出入り口は見慣れぬ男が警備している。
(とても教会関係者とは思えませんわ)
入ると中も最低限の明かるさ、
そこには少年がふたり並んで横たわっていた。
「ルルーシャよ、こちら側はさる公爵家のご子息でな、心臓の病でもうもたない」
「まあ、それは大変ですわ」
「そこでルルーシャ、いやベルルなる聖教会の聖女が、動物や魔物を使って、
心臓などの臓器や腕や足などの身体の一部を移植する魔法施術を研究していると聞いた、合っておるな?」
「な、ななな、何のことで」
「妹のソフィーから聞いているわ、それと聖教会の知り合いにも、ね? ベルルちゃん」
暗い部屋、表情が曇るベルル、
その肩にそっと手をやるスフィア。
「これはソフィーと私からのお願いよ、人は初めてかも知れないけれど、もう時間がないの、
この公爵家のご子息は、大きな声では言えないけれど、将来のアルドライドに絶対必要な方なの」
「ま、まさか、ひょっとして王子様?!」
「そのくらいのお方だと思っていただいて構わないわ、一刻の猶予も許されないのよ」
ソヤーボ=グラバニアス侯爵が準備を促す。
「そちらの聖女スフィア様が手伝って下さる、早速、取りかかっていただきたい」
「ベルルちゃん、いえ大教会聖女ルルーシャ様、これは大教会としての物凄く大きな仕事よ」
「で、でも、隣は……?」
鼻から上が厚い布で覆われた少年、
隣の公爵家ご子息と同じように、眠らされているようだ。
「彼は最近、収賄や脱税で捕まった子爵家の配下にいた男爵家、そこの息子でな、
派閥ごと全員処刑される事となったのだが、その子ももちろんその対象となった」
「そんな、こんな幼い子供が!」
うろたえるべベル。
「アルドライド国王は不正には厳しい、家族は赤子まで生かす訳にはいかない、
これは見せしめのためでもある、わかるかねルルーシャ、これは国としての決定だ」
「ルルーシャ様、これは妹のソフィーの耳にも入れてあるの、
将来、この国を担う大切な公爵家のご子息を、取り潰しになる男爵家の息子の命で助ける、
これはむしろ名誉な事なの、きっとソフィーも褒めてくれるはずよ」
「でも、でも、でもぉ……」
眠っている少年ふたりの胸をはだけるスフィア、
他にもすでに助手の女性神官がふたりほど、
いつでも施術ができるように構えている。
「では、今から始めたまえ、私は外で待つとしよう」
グラバニアス侯爵が出たと同時に、
鋭い施術上の刃で胸を開こうとするソフィア。
「待っていただきますわ」
「どうしたのルルーシャ様、急がないと」
「……この鼻と口、見覚えがありますわ」
布を外すベルル、
その顔を見て思わず声を震わせる!
「こ、ここ、これは、この子は……ゲイン!!」
「さあ早く、誰であっても罪人は罪人ですよ」
「……目を覚ませますわ」
ベルルが魔法を少年の額に送り込むと、
目をぱちくりさせるゲイン。
「あ……ルルーシャ様!」
「やっぱりゲインですのね」
「うん、ぼく、しあわせだよ、おいしいものいっぱいたべさせてもらえて、
おとうさんもおかあさんもやさしくって、でも、いつのまにかかえってこなくなって、
やっとあわせてもらえることになって、こうやってつれてきてもらったんだ!」
思わず涙が溢れるベルル。
「そんなぁ、うそ、うそっ……」
「あれぇ、またねむくなっちゃたぁ……ルルーシュさまぁ、ぼく、きっとえらくなって、
ルルーシュさまを……お……ょ……め……」
再び眠ったゲイン。
「……話が違いますわ」
「あら、何の話かしら? どこから貰おうと罪人の子に違いはないわ、さあ、早く」
「でも、でもっ!」
「詳しい話や苦情は後でいくらでもソフィーが聞くわ、だから今は早く、
もうこっち側の子の心臓が、時間の猶予がないの、早く、さあ早く!!」
「そんな、そんなっ、そんああああああああ!!!」
(わたくしは、わたくしはどすれば……あぁ、あああぁぁ、ソフィーお姉様あああああ!!!)
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「……という事がありましたの」
「そ、それは……だから今回の、女神像での治療は」
「悲劇を繰り返さずに済みましたわ、これもミスト様のおかげですわ」
と、僕が話を聞いているのは侯爵邸の巨大なお風呂だ、
僕とベルルちゃん以外にもソフィーさんリア先生エスリンちゃんも入っている。
「それでベルルちゃん、そのゲインっていう子は結局……」
「ミストくん、そこは察してあげて」
「あっはい」
「ミスト、ちなみに今、話に上がったソヤーボ=グラバニアス侯爵はその後、公爵になり、
そして魔薬草事件に加担していた罪で取り潰し、本人含め家族全員処刑された」
「そうよミストくん、ちなみにあの姉とは思いたくないスフィア姉さんを問いただしたら、
知らなかったとか言ってなかったかしらとかしらばっくれて、ベルルちゃんを騙していたのよ」
これは随分とハードなお話だった。
「という訳でミスト様、わたくし、今回の成功で、あらためて前に進めますわ」
「う、うん、良かった」
「じゃミストくん、私達、お風呂から上がったら合同教会で良い方のお姉様たちと交代してくるわ」
「ぼ、僕も行こうかな」
「ふふ、嬉しいです」「嬉しいですわあ!」
お風呂から出た時、あんな話を聞いた直後だったのに、
半裸の美女エルフ三人に身体を拭かれてご満悦になってしまった
だめ貴族だもの。 ミスト
(学院からの最初の帰り、孤児院のお墓でソフィーさんが涙を流していた理由って、ひょっとして……?!)




