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69話 反省会

「カズト君。落ち着いて」



 そう言ってリディアは腕を上げ、カズトの頬を撫でる。

 すると治癒魔法を使いながらも負の感情の渦に飲まれていたカズトはハッとして我に返った。



「リディアさん……」

「あなたが何を考えているかは分からない。けど何か良くないことを考えているのは顔を見れば分かる。そんなに思い詰めないで」



 リディアにそう言われて初めてカズトは自分が負の感情を顔に出していたことに気が付いた。

 しかしだからといって簡単にその感情を隠せるかというとそうではない。

 もはやその感情はカズト自身でも隠すことができないほど大きく、そして強くなってしまっているからだ。

 そのため自身でもコントロールできない程の感情を胸の内に抱えているカズトは、その感情をできるだけ抑える。

 しかしそれでもまだ振り回されてる。



「……でも、僕が魔力制御の技量をもっと高めていれば、リディアさんをこんな目に合わせて苦しませることは無かったんだ。僕が日頃からもっと努力していれば、安全にマーレジャイアントを倒せたはずなんだ。これは全部、僕の怠慢が招いたことなんだ! もっと、もっともっともっと努力していれば、僕が強ければ、こんな事にはならなかった!」



 話しているうちにカズトはその感情を抑えきれなくなり吐き出すようにそう言った。

 するとその悔しさと怒りがない交ぜになったような叫びを聞いたリディアは、撫でていた手を止めた。

 そして、抓った。



「いでででで!」

「カズト君。日頃からもっと努力していればこんな事にならなかったのは私も一緒。そもそも何故全部あなたが背負おうとするの? 今回の失敗の原因は私にあった。カズト君が好きだから、あなたにもっとよく見てもらおうと無理をした。その結果引き際を間違えてマーレジャイアントに握りつぶされた。どう考えても私の自業自得」

「それでも、例えそうだとしても、僕が魔力制御の技量をもっと高めていればそれをカバーする事ができた。リディアさんがここまで酷い目にあったのはやっぱり僕の怠慢によるものだよ……」



 リディアの言葉を聞いたカズトは、そう言って顔を伏せ、唇を噛み締める。

 するとリディアは抓っていた手を止め、もう片方の手も彼の頬に添えた。

 そして、両手で抓った。



「いでででででででで!」

「そんなこと言ってたら切りがない。たしかに私達は努力が足りなかったかもしれない。それに気づいてさらに努力をするのはとても良いこと。けどそれを言い続けてたら、殆ど全ての失敗の原因がそれになる。そんな失敗をしないのは完璧な人間だけ。だけど完璧な人間なんていない。誰でも失敗する」



 リディアはそう言うと両手を離した。

 カズトは抓られた両頬を撫でながらも、彼女の言うことも正しいと思い頷く。



「…………たしかに努力が足りないって言い続けてたら、全て失敗はそれが原因になっちゃうね。完璧な人間はいない、か。それもそうだ。それなら今はリディアさんの言う通りできることをするよ」



 リディアに頬を抓られて思わず治癒魔法を止めていたカズトは、そう言って再び治癒魔法をかけはじめた。

 その顔には未だに悔しさが残っていたものの、先程までのように思い詰めた様子は無かった。

 今彼ができることはリディアに治癒魔法をかけて少しでも早く回復させることである。

 しかしそれでも口を動かすことはできるので、彼はリディアにマーレジャイアントの戦いで何か悪いところがなかったかを聞いた。

 するとリディアは少し考えた様子を見せた後口を開いた。



「悪いところ……。二人で立てた作戦は良かったけど、マーレジャイアントのタフさを甘く見過ぎていた」

「たしかにあのタフさは予想外だったよ。まさか人体の弱点を突いても効かないなんて思わなかった」

「でも作戦のおかげでマーレジャイアント相手に一方的に攻撃できていたから、それそのものは悪く無かった」



 そう言うとリディアは再び考えた様子を見せてから口を開く。



「次は……マーレジャイアントの攻撃を受けたとき、カズト君が張った結界に罅が入ったこと。もしあの時カズト君がマーレジャイアントの水の剣を消して無かったら、その時点で私達は死んでいた」

「そうだね。あれは危なかった。でも、あの時咄嗟に張った結界はあれでも全力だったんだよ。あれ以上の強度がある結界を一瞬で張ろうと思ったら、それこそ魔力制御の技量を高めないといけない」



 カズトが申し訳なさそうにそう言うと、リディアは首を横に振った。



「違う。そうじゃない。カズト君が最初にマーレジャイアントの攻撃を受けたとき、陸亀守護獣の指輪が強制的に必要な分の魔力を吸い出してくれると言っていた。その機能に任せていれば結界に罅が入ることはなかったはず。けどそうした場合カズト君の魔力がその後保つかどうか分からないから、一概にそれが正しいとは言えないけど」

「そっか……そういえばそうだったね。すっかり忘れてたよ。でも迫り来る攻撃に対して何もしないというのも不安だしな……」

「そこは慣れるしかない。これから頑張ろう」

「……そうだね。ありがとう」



 するとリディアはもう一度考えた様子を見せて口を開く。



「後は最後の爆発。あれだけマーレジャイアントはタフだったのに、その頭を一瞬で爆発させて見せた。あんなに強力な攻撃があるならもっと別の作戦を練れていたはず」

「それは……あの魔法はリディアさんがマーレジャイアントに握り締められていたあの瞬間に思いついたものだったんだ」



 カズトは再び申し訳なさそうな顔をしてそう言った。

 彼が最後にマーレジャイアントに放ったのはトリニトロトルエンによる爆発だ。

 そしてそのトリニトロトルエンはカズトがマーレジャイアントの口に放り込んだ木炭の炭素と大気中の水素と窒素を魔法で無理矢理合成し、生成したものなのだ。


 この魔法を使ったときのカズトはリディアを救うためにこれまでにない程の集中力が高まっていた。

 その状態で構築したイメージはこれまで彼が構築してきたイメージよりも遥かに鮮明だった。

 そのため彼はマーレジャイアントの頭部を吹き飛ばす程の威力がある爆発をあの一瞬で起こすことができた。


 ちなみにカズトの性格からして、基本的に新しく思いついた魔法をぶっつけ本番で使うことはしない。

 彼は事前に念を入れてその魔法の威力や規模を確認する慎重な男なのだ。

 しかし彼がこの魔法を思いついた時は他に強力な攻撃魔法が思いつかず、状況的に切羽詰まっていた。

 そのため躊躇することなく殆ど反射的に使ってしまったのも仕方がない。



「そうだったんだ。それなら仕方ない」

「もっと早くに思いつかなくてごめんね」

「マーレジャイアントを倒せて、さらに私も助かったんだから気にしてない。それより私の悪かった所も教えて」

「悪かったところかぁ……」



 リディアからそう言われたカズトは治癒魔法をかけ続けながら、昨日の戦いの記憶を掘り起こす。

 そんな風にして二人は反省会をし、それぞれどこが悪かったのか細かく分析した。

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