お昼休み 前半
* 【お昼休み】 *
隣の席の啓が、自分の机の端っこ持ってみたり離してみたり、なんかいじいじ動いてた。
――あ~。もしかして、机くっつけていいものかどうか迷ってる?
そりゃそうだよな。自分で振った挙句に散々泣きわめいといて、そのことを今の今まですっかり失念していた僕の方がかなりどうなんだよということで。
しかし実際何だったんだろうかあの衝動は。思春期ならではの暴走とかそんな感じだろうか。
若いな僕も。
でもそんなあれやこれやを吹っ飛ばすように、僕は自分の机を持ち上げて九十度回転させ、スコーンと勢いよく啓の机にぶっつけた。
「早くお昼食べようよ。お腹すいた」
「えっ。あ、うん!」
椎も椅子を持ってきて、お弁当を僕と啓の机の境界線上に置いた。
「あれ?」
首を傾げる啓。
「ん? どしたの?」
「椎、今日は椅子だけ? 机持ってこないの?」
「机? いるかい? 広さは足りてるがね」
「あれ?」
疑問符を飛ばしながら、啓はしばらくぼ~~っとしていた。
「なんかスカスカしてるような……?」
「お弁当の中身が?」
ぎっしりつまってると思うけど。あ、アスパラの牛肉巻きが入ってる。よし、啓が意識を飛ばしてる間に勝手に僕のちくわと一個トレードしておくか。
にしても『支給されるお弁当の中身のランクとお小遣いの額とがリアルにテストの点数に比例する』っていうこのシステム、どうにかならんのか。青のりまぶした磯辺揚げにしろとまでの贅沢は言わんが、せめてキュウリがinされたちくわでくらいあってほしい。食が貧しくなると心まで貧しくなってしまって、よけいに勉強する気が起きないじゃないか。
――まあ単に、僕の頭が貧しいせいとも言うが。
そこで「スカスカしてるって、おまえさんの頭の中身がかい?」とニヤッと笑いながら啓を見る椎の目線が、実は僕の方を向いているんじゃないんだろうかと邪推してみたり。
「もうっ。そんなのじゃなくて! んと――、もういいや。いただきます」
きちんと手を合わせる啓。
「いただかれます」「よろしゅうおあがり」
「……二人とも……。なんだかなぁ……」
それからも、スカスカな、中身なんて特にないポップコーンみたいな軽い会話を積み重ねていく。
でもいつも通りのそれは、左手にコーラ、視線は映画館のスクリーン、そして右隣に座る誰かと分かち合う紙コップの中の塩味とバター風味なふわふわ物質みたいに、なくてはならないものなんだろうな。
啓がいつも通りを続けてくれているからこそ保てているもの。
その啓の優しさに甘えて、僕は諦めることで得られたこの穏やかな日常を続けていく。
――あ、わりと美味しい。アスパラの牛肉巻きが美味なのはもちろんだが、ちくわはちくわ単体でけっこう美味しかった。それにご飯がほっこりで、僕は幸せを噛みしめるように白米を噛みしめていた。
ほんのり甘い、これがお米の実力だ。人間、『ご飯が美味しい』って思えてる間は、うん、まだまだ大丈夫。
――明日消えるかもしれない僕たちだからこそ、今の一秒一秒を大切にしよう。 『時間は大切に』。――あの眼鏡が黒板に書いたスローガンもどきの文句みたいに。
うん。わざわざ言われなくったって、今僕たちが騒ぎながらお弁当を囲んでいるこの時間を僕は大切にするさ。そうすればきっと、この一瞬一瞬が輝いているから。そう、例えば一粒一粒が白くてぴかぴか輝いている、この美味しいお米みたいに。




