母を訪ねてやってきた
アリアちゃんとクレイちゃんが居なくなってから数日が経った、寂しいと思うのは最初だけで今ですっかり慣れていた。
慣れていたのは俺だけでレイシアは未だに慣れていなかった、2歳で大好きな姉が居なくなった理由なんて理解できていないだろうしその状況に慣れろって言うのが無理な話だろう。
レイシアに寂しい思いをさせないために俺はレイシアと遊んでいた、魔力の操作の練習は寝る前に行っている。
「レイシア、『月』だから、きの付く言葉は?」
今も大絶賛しりとり中だ、二人でのしりとりは寂しいので母さんも交えての3人でのしりとりだ。
「き…き…?」
「そうねぇ…お家に使っている物は何かな?」
母さんや俺はレイシアが詰まった時にヒントを出したりしている、母さん曰くしりとりは言葉を覚えさせるには最適な遊びと言っていた。
「木!」
「「き」…ね、起床」
簡単なしりとりをやっていると扉をたたく音が聞こえた、リスティアさんのような女性特有のやさしさは無く、荒く大きな音だった。
「母さん」
俺の心配としてはあの豚肉がやってきたのでは無いかという事だった。
母さんも声で察したのか警戒しながら扉に向かっていた。
扉のほうで母さんの興奮した声が聞こえてきたので何事かと思って行ってみるとそこには全身甲冑に身を包んで背中には大剣を背負っている身長180㎝位の男の人が立っていた。
「ニア、こいつらがお前らの子供か」
声は低く威圧感が凄いが怖いという感情よりカッコいいという感情が先に出くる。
「ええ、後、娘が後二人居るけど今年から魔術学校に入学していないの」
「なるほど、だからアルディンス侯爵家…いや元・侯爵家が依頼を出してきたのか」
「お父様が…どんな依頼だったの?」
あの豚肉がまた変なことをしでかそうとしていたのは分かった、今度会ったら丁寧に焼いてやるとするか。
「確か、誘拐された子供の奪還と犯人の捕獲…だったかな」
「お父様がそんな事を、それでどうなったの?」
「虚偽の依頼発行の罪で侯爵家は取り潰しになったぞ」
「そう、ありがとうね」
「別にいいさ、みんなお前たちの幸せを願っているんだからな」
父さんと母さんが此処までいろいろな冒険者に好かれていると思うとうれしいな。
「立ち話もここら辺にして上がっていってよ」
そう言って母さんは男の人を家に招き入れた。
テーブルのある部屋に案内して母さんはキッチンに向かった。
「俺の名前は、ターレンス、好きに呼んでくれ」
大剣をイスにかけて席に座っていた男の人が自己紹介をしてくれる、ターレンスさんか、声もカッコいいけど名前もカッコいいな。
「トキニア・ヒュペリオ・ディノールです、トキって呼んでください」
自己紹介には自己紹介で返さないとな、礼儀は大事だ。
「…レイシア」
レイシアもちゃんと自己紹介をしていた。
「トキにレイシアか、よろしくな」
「あらあら、自己紹介は終わったかしら?」
「ああ、お前の子供とは思えないほど礼儀正しかったぞ」
「そう、自慢の子供達ですもの」
母さんはそう言って飲み物が入ったカップを置いて席に着いた。
ターレンスさんの真ん前で俺とレイシアの真ん中だ。
「昔のお前なら殴りかかってきていただろうが、子供を産むとおとなしくなるのか」
昔の母さんは相当短気だったらしい、あの二つ名も納得だ。
「喧嘩を売っているのかしら?言い値で買うわよ」
「おっと、喧嘩になると勝てないからやめておこう」
前衛の人より強い後衛って…居る場所間違えてない?
「ターレンスさん、冒険者なんですよね?」
見た目で分かっているが話の流れを変えるために質問してみる。
「ああ、そうだ、興味あるのか?」
ターレンスさんの質問に頷いて答える。
「そうだな、それじゃあ昔請け負った依頼の話をしよう」
そういってターレンスさんは昔請け負った依頼を話してくれた、ドラゴンを大人数で倒したとかオーガの群れと戦ったとかまるで絵本の世界の話を聞かせてくれた。
「そんな折に出会ったのがニアとグレンだ」
父さんと母さんは1年と短い期間の冒険者だったが実績と信頼で知らない人が居ないと言わしめた冒険者パーティだったと話してくれた。
「ニアと初めてあった時は…酒場で冒険者をボッコボコにしていた時だったかな」
なんという初接触、俺だったらそっとしておいただろうな。
「初めは危険な奴だと思っていたが実際に仕事をしてみるといい奴でな、それ以来の付き合いだ」
「グレンだが、あいつも酒場で冒険者と喧嘩していたな」
父さんも母さんと同じように危険な人だったらしい、あまり家に居ないから分からなかったよ。
「あいつも喧嘩が早かったが、仲間思いで仲間をバカにした奴をよく殴っていたよ」
ターレンスさんの話はどれも面白く、特に俺たちの知らない母さんと父さんの冒険者時代の話をよく聞かせてくれた。
「ターレンス、冒険者の話から私達の話になっているわよ?折角内緒にしていたのに」
「どうせ、知られてしまうんだ、早いほうが良いだろ」
そう言ってターレンスさんは大笑いしはじめた。
「トキの方は冒険者に興味津々だからな、将来は冒険者にでもなるか」
将来の事は考えていなかった、どうせまだ10年以上ある、そう思っていた、だけど冒険者になるのも悪くないかもな。
「駄目よ、冒険者には絶対させない」
元・冒険者の母さんから駄目とのお達しが出た、やっぱり冒険者としての厳しい側面を知っているからだろうか。
「珍しいな、ニアが駄目なんて言うなんて」
ターレンスさんも予想外の返しに驚いているようだ。
「トキ君は変に好奇心が旺盛だもの、下手に物事に首を突っ込んで死ぬだけよ」
母さんの冒険者としての酷評が来る、生き死にが懸かっているからこの評価は致し方ないか。
「そうか」
そう言ってターレンスさんは黙った。
「それにね、トキ君が冒険者に向かない理由がもう一つあるの」
「まだ有るのか、てっきり過保護から来る否定だったと思ったぞ」
「トキ君は魔力が多すぎるの、そのせいで人に狙われる可能性があるの」
魔力が多すぎて体を壊して、その魔力のせいで人に狙われるって…ひどい話だな。
「ほう、どのくらいの魔力量なんだ?」
ターレンスさんも興味があるようだ。
「散魔の指輪を指にはめていても魔力を操作できるって言ったら信じる?」
「信じられんな、そんなことができたら魔法使いを無力化する呪具の意味がないじゃないか」
ターレンスさんは信じられない者を見る目で俺を見ているが、俺だってこの呪具がはまった状態で魔力操作できるのがそこまで凄いことだなんて思わなかったよ。
「その二つがあるからトキ君を絶対冒険者にはさせない」
「過保護だな、男の子なんだし自由にさせてやればいいのに」
「冒険者以外なら自由にさせてあげるつもりよ?」
母さんは頑なに俺を冒険者にさせたくないらしい。
「母さん、それでも俺が冒険者になりたいって言ったら?」
子供特有の聞きたがりと言おうか聞いてみたい好奇心に駆られて聞いてみた。
「殴ってでも止めるわ」
実力行使に一瞬の迷いもないようだ。
「ハッハッハ、過保護ここに極めりだな」
ターレんスさんは大爆笑している、俺としては正直笑えない。
「笑い事じゃないです、本当に心配なんですよ…トキ君が大人になって冒険者として出て行くんじゃないかって」
母さんは俺が勝手に出て行ってどっかで野垂れ死ぬのが心配なんだろう。
「母さん…」
「ママ…」
俺は母さんの心から心配する声を察して声をかけようとしてもどう言ったら良いのか分からなかった、冒険者にならないよ、なんて簡単には言えないし。
レイシアもどう言ったら良いのか分からないようだ。
「ごめんね、変な空気にしてしまって」
母さんは謝罪して場の空気を変えようとしているが俺の心の中は母さんの心配そうな声と表情が残ってモヤモヤな感じがした。
「ターレンスさんもっと冒険者の話を聞かせてください、特に「殺戮の治癒師」の話を」
場の空気を変えようとして俺はターレンスさんに質問してみた。
「ハッハ、「殺戮の治癒師」なら本人に聞いてみろ、俺の知らない事だってあるだろうしな」
「トキ君、あんまり女性の過去を聞き出すとサイちゃんに嫌われるわよ?」
「トキにも女性の影か、やっぱり「夜帝」の血は争えないか」
ターレンスさんの言葉の中に気になるフレーズが有った、…「夜帝」?ホストの称号か?
「えっと、「夜帝」って何ですか?」
「グレンの二つ名だ、聞いてないのか?」
俺は頷いておく。
「ターレンス、それ以上はダメ、トキ君にはまだ早い」
母さんからストップがかかってターレンスさんはそれ以上「夜帝」に関して教えてくれなかった。
「それでニア、サイちゃんってのは誰なんだ?」
「リスの一人娘よ、覚えているでしょ?「冷閃」のリスティアよ」
リスティアさんもカッコイイ二つ名を持っているようだ、回りに二つ名を持った冒険者が三人もいるのか、多いのか少ないのか分からないが誇れることだな。
「あいつも結婚していたのか、今度会いにいくとしよう」
「そうしてやって頂戴、変わってないからリスも」
母さんとターレンスさんの思い出話が始ってからあまり興味が無いのかレイシアが俺の近くにやって来て服の裾を引っ張ってきた。
「母さん、レイシアと遊んでくるね」
母さんに一言伝えて椅子から立ち、レイシアと違う部屋に向かった、ここから先は子供抜きでの思い出話に花を咲かして貰おう。
☆ ☆ ☆
「ニアも変わらないな、昔のままだ」
「人間そう簡単に変わらないわ、ターレンスこそ変わってないわね」
最後に会ったのはあの人との結婚式であの時以来変わっていない。
「ニアの言う通り、人間はそう簡単には変わらないな」
「そうね、さっさと結婚して腰を落ち着けたら?」
最後に別れた時、ターレンスは確か…25歳だった、今は35歳だろうか。
「こんな身形だ、顔を見ただけで女性が逃げていく」
「それでも探せば見つかるかもしれないわよ?」
ターレンスの右目は昔依頼で倒したモンスターの攻撃で失っている、顔…いや体中にも夥しい程の傷が残っている。
「ハッハ、冒険者続けて気長に探すさ」
「結婚するときは呼んで頂戴ね、絶対駆け付けるから」
私たちの結婚式に駆けつけてきてくれた貴方みたいにね。
「話が変わるが、トキ、あいつの魔力は凄まじいな、散魔の指輪を付けていても魔力が操作できるなんてな」
「ああ見えても魔眼が発言しているのよ、あの子は」
ターレンスに対する話から今度は私達に対する話に変わった。
「魔眼か、また珍しいな」
「少し前に発現したのよ、その時は皆で大慌て、私は走って司教様を呼んで看てもらったもの」
あの時のことを思い出す、あの時は見たことも無い症状で大急ぎで司教様を呼びに行ったことを覚えている。
「それで散魔の指輪をはめ始めたのか?」
「いいえ、散魔の指輪をはめ始めたのは最近よ、アークライスでお父様と会ってその時に魔力が開放されたらしいの」
あまり思い出したくないお父様と出会った時、トキ君は5歳とは思えないほどの殺意と怒りをお父様に向けていたのを覚えている。
「開放された‥か、と言う事は怒ったか?」
力に目覚めるのは怒りの感情が元になることが多い、だがあそこまで潜在的に眠っていたとは思わなかった。
「怒ったってレベルじゃないわね、殺す勢いだったわ」
「大切な人を傷つけられたら怒るのはグレンにそっくりだな」
あの人も大切な人を傷つけられたら傷つけた相手に容赦が無い、あの時だって殴りかかりそうだったが相手が貴族という事もあって我慢をしていたようだ。
「ええ、本当にそっくりよ」
「それにして、レイシアはニアにそっくりだな」
「レイちゃんは昔の私にそっくりだと私も思っているわ」
レイちゃんの容姿は昔の私にそっくりだと私は思っている、性格の方がまだ幼いから分からない、どっちに似たのかが楽しみ。
「上にもまだ二人娘がいるって言っていたな、そっちはどうなんだ?」
「あの子達はあの人似ね」
アーちゃんとクーちゃんはあの人に似ている部分も多い、性格の方は私に似ているけど。
「そう言えばさっき、グレンが経営している店に行ってきたんだがな」
「そう、どうだった?」
私は久しぶりに会った冒険者仲間と時間を忘れて話した。
少しグダっている部分が目立つので近々大幅に書き換えるかもです。




