ep001:その秘密、筒抜けにつき
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Scene001【花音】
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これは一ノ瀬花音と小泉晴道の出会い(さいかい)の物語。
それは晴道が中学を卒業して、高校に入学する直前の春休みの話
それをしばし一ノ瀬花音が語る事になる。
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私、一ノ瀬花音は幾つかの顔を持つ。
一つ、会津若松にある、伝統ある“霞の宿”の若女将。
一つ、考古学者。古典文学を専門とし、特に源氏物語の研究家として有名だ。
一つ、隠密部隊“霞の者”の首。様々なクライアントからの依頼を受けて、裏の仕事をこなす。
今日は考古学者として、都内にある出版社を訪れている。
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それは先日、以前私がアメリカで発表した論文の日本語訳が出版された事に対するインタビューだった。
出版社の中に招かれ、応接室に向かう途中、高校1年くらいかと思われる少年とすれ違った。
整った顔立ちの少年、爽やかイケメンと言うのがぴったりだろう。
その少年とすれ違う時、
「花音さん?」
その少年が呟いた。
えっ、有り得ない。
確かに私はそこそこ有名だ。
しかし、今の私を認識できるはずがないのだ。
宿の若女将としてメディアにでる場合は着物姿。
考古学者としては、体の線が出ないスーツ姿。
しかし、今はもうすぐ22歳という実年齢には少々恥ずかしい、ワンピース姿だった。
しかも胸元をこれでもかと強調している。
そのギャップだけで、私だと分からないだろう。
さらに今、私は気の力で認識障害の術を使っている。
なぜそんな術を使っているかですって?
ワンピース姿が少し恥ずかしかったからよ。
だから、今は私から声でも掛けなければ、私だと認識できない筈なのだ。
私の事を余程よく知ってでもいない限り。
そう、全身くまなく知っているような関係でもない限り。
あの少年には何かある。
だから私は護衛で付いてきていた守に命令をした。
「あの少年には聞かないといけない事があるから、確保をお願い」
「承知しました、姫さま」
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インタビューは古典文学を扱う専門誌に掲載されるもので、編集長自らが行っていた。
インタビューが終わった後、その編集長が言い出した。
「あの、不躾で申し訳ないのですが、私の息子が貴女のファンでして」
「あら、そうなの?」
サインとかかしら?
「未だ中学生だったのですが、貴女の論文を原文で取り寄せて、読むくらいでして」
へぇ、それは中々ね。
「それで、少しの時間で良いのですが、この後会ってやってはいただけないでしょうか?
今、隣室で待機しておりますので」
「ええ、是非お話しさせて下さい」
私はその息子さんに興味を持ったので、会う事にした。
...そして編集長に呼ばれ、部屋に入って来たのは――。
あの少年だった。
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Scene002【出会い(さいかい)】
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私は編集長に声をかける。
「それでは少し話をさせていただきますね」
(人払いをしなさい。中の話を聞いては駄目)
そこに気の力で命令を乗せた。
編集長は一瞬、目から力を失い、そのまま部屋を出て行った。
すかさず、守が声をかけてきた。
「姫さま、ご注意下さい。
この者は危険です。
私を斉藤と呼びました」
私の名前を呼んだことより、もっと有り得ない。
守の本名を知っているなんて、里の人間以外ではいったい何人いる事か・・・・。
「貴方、私たちの事を知っているの?」
私は少年に問いかける。
「一ノ瀬花音さんに、斉藤守さんですよね」
少年は当然のように言った。
「何故、守の苗字を知っているの?」
「花音さんが呼んでいるのを聞いたから」
「嘘。私は今、守としか呼んでないわ」
「今、じゃないんですが」
以前に会った事があるというの?
そう思った時、少年の発する気に気付いた。
そして何かが胸にこみ上げてきた。
「は・る・み・ち?」
少年の顔がぱっと明るくなった。
「花音さん! 覚えているんですか!!」
「えっ、私は今、何を言ったの?」
すると少年は、目に見えて落ち込んだ。
「やっぱり、駄目なんですね。
俺は晴花に逢えるのかな」
私には少年が何を言っているのか分からなかったが、
その寂しげな様子に、ふと慰めてあげたくなった。
「ねえ、貴方の名前を教えて」
「僕の名前は小泉晴道です。
花音先生の論文が好きで、貴女に憧れていました」
「先生って……私は研究者であって、教職に就いた事は無いわよ?」
「僕にとっては先生なんです」
少年、いえ晴道……。
あれ、私なんで、いきなり呼び捨てにしているのかしら?
私はそんな混乱を誤魔化すように、少しばかり揶揄うように言ってみた。
「『憧れていました。』って、過去形なの? 会って見て、幻滅した?」
「いえ、実際に会えたら、やっぱり素敵でした。
今は花音さんの事が好きです!」
晴道の目が、私をまっすぐ捉える。
「なっ、何言ってるのよ!!」
私は自分の頬が赤くなっているのがはっきりと分かった。
「ねえ、晴道、あなたは私の事をどこで知ったの?」
私は晴道を呼び捨てにした。何故かそれが自然だと思えたから。
「それは、未だ言えないんです」
そう言う晴道は、とても悲しそうだった。
「僕が知っている事を全て話します」
「分かったわ」
「あなたたち一ノ瀬家は、表は江戸時代中期から続く老舗の温泉旅館を経営している。
でもその本当の実態は戦国時代から続く草の一族。
かつては徳川幕府にも使えた隠密のお庭番。
それが今も続き、花音さん、あなたが裏社会を切り捨てた」
そこで私は割り込んだ。
「大体合っているわ。でも裏社会を切り捨てたって?
確かにヤクザとかとの取り引きは止めたけれども、
裏の仕事は今も続いているわ」
「姫さま!」
守が止めたが、私は晴道に話すのはかまわないと思った。
「えっ、やっぱり、何かが違うんだ」
私には晴道が何と違うと言ってるのか分からなかったが、それはとても深刻そうに見えた。
「一ノ瀬一族は気を使った特別な技を使う。
特に性交渉を起点とした房中術は、秘技として一子相伝が課されている」
私は晴道が恐ろしくなると共に、強い興味を引かれた。
「そこまで、知られているとはね。
決めたわ、私はしばらくの間、晴道を監視するわ」
「えっ?」
その時、私の仕事用電話番号に着信が有った。
この番号にかける事ができるのは“上得意”だ。
私は悪戯心が芽生え、そのまま通話を始める。
「あら、総理。今回は何の用事かしら?」
目の前で晴道が目を見開いて驚いているのが心地良い。
「また、あの大統領の護衛? そんなのSPで十分でしょ」
・
「某国の暗殺集団が動いているって?
別に良いじゃない、あの大統領が死んだって、誰も悲しまないでしょ」
・
「そうで有っても、日本国内で死なれるのは困る?
まあ、それはそうね」
・
「でも私は大切な部下たちをなるべく危険な目に合わせたくないのよね」
・
「某国の暗殺集団の排除なんて、私たちにとっては赤子の腕を捻るような物ですって。
ふふふ、分かったわ受けてあげる。
予算はAランクで」
・
「高いって、Sから負けてあげてるのよ。
それに“その為に”国防費を上げているんでしょ。
戦闘機1機に比べたら安いじゃない」
・
「比べる対象がおかしいって、考えてもご覧なさい。
戦闘機が何台有ったって、大統領を暗殺集団から守れないのよ。
むしろ安いんじゃない?」
・
「ふふ、素直でよろしい。
ではいつも通りの手順で」
私は仕事の通話を終えた。
そして驚愕の顔をしている晴道に言い放った。
「さっきの、裏社会を切ったって話だけれども。
私たちは今でも、現役の隠密番なのよ」
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Scene003【調査依頼】
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私は晴道と別れてすぐ、里に連絡をした。
晴道には何か重要な秘密がある。
それは確かな確信だった。
何より晴道から感じる気はどこか懐かしく、私の胸を高鳴らせた。
「爺や、調べて欲しい事があるの」
『なんでございましょう』
「今日訪れた出版社の編集長の家系を徹底的に調べて欲しいの」
『さて、“小泉陽介”でございましたな。
事前の調査では、特にこれと言った情報は出ておりませんが?』
「ごめんなさい、調べて欲しいのはその息子なの」
『お待ちください』
・
・
・
『妻の沙織は旧姓雨宮、一人息子が晴道ですな何かございましたか?』
「気の力で認識障害の術を使っている私を一目で見抜いたわ」
『なっ、それは……』
「それに、私たち一ノ瀬家の歴史を知っていた。
それもかなり詳細に」
『なるほど、徹底的に調べなければいけませぬな』
「政府への貸しを一つ使っても良いわよ」
『承知つかまつりましたぞ』
ふと、私の脳裏に晴道の顔が浮かぶ。
「それにね、晴道から感じる気はとても暖かく、懐かしかったの。
これって不思議でしょ? だから、暫く私が晴道を観察しようと」
爺やが黙り込んでしまった。
「爺や、どうしたの?」
『今の姫さまの声が優しく感じましてな。
それに“晴道”と呼び捨てに……。
さらに、男性から感じる気を“暖かく、懐かしかった”などとおっしゃるなんて、前代未聞ですぞ。
さらにさらに、自ら“観察”したいなどと!!
これは葉月様に報告案件でございまする〜〜〜』
「じっ、爺や、違うの、これは違うのよ〜〜〜」
そう口で言いながら、私は何が違うのか分からなかった。
晴道本人には“監視”と言ったが、確かに今私は“観察”と言った。
それが自然だと思った。
そして男性から感じる気を“暖かく”感じるなんて生まれて初めてだ。
私にとって男性から感じる気はいつも、“いやらしい”か、“見下している”か、“敵意”を持っているかだ。
この時の私は、晴道に感じている、この暖かな感情が何なのか、分からないでいたのだ。
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Scene004【遭遇】
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私は里には帰らず、都内に留まった。
そう、晴道を観察する為である。
小泉晴道は普通の少年だった。
公立の中学を卒業し、都立の高校に入学する直前。
両親とマンション暮らし。
同じマンションには幼馴染みの如月千紗・氷室優香が住んでおり、近所に住む幼馴染みの高村武と里塚由美子を加えた5人で一緒にいることが多い。
そして、武と優香が付き合う寸前。
千紗と由美子が晴道を巡り、三角関係を続けている。
私は爺やに、千紗と由美子も徹底的に調査するように指示をした。
草としての感よ。
野次馬根性なんかじゃ決してないし、
ましてや、嫉妬なんかじゃないからね!
決して違うから。
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私が駅前のカフェでお茶をしていると、
晴道に“見つかって”しまった。
「花音さん、こんなところで何しているんですか?」
「何って、見ての通りお茶をしているのよ」
ふふふ、晴道を揶揄うのはなんだか楽しい。
「いや、そういう意味じゃなくて、
なんでこの町にいるんですか?」
「理由、言っても良いの?」
私は晴道の両隣にいる、千紗ちゃんと由美子ちゃんの顔を見てから言った。
「えっ、あっ、それは……」
晴道が狼狽える。
ふふ、可愛い。
「晴道、その人は?」
千紗ちゃんが怪訝そうな顔で晴道に問いかけた。
当然よね、こんな巨乳美人と知り合いだっただなんて、心穏やかじゃないわよね。
ちなみに今の私は、晴道と初めて会った時と同じワンピース。
これでもかと強調されている胸元に晴道の視線は釘付けだ。
だから、わざと見つかるような行動をしたのよ。
「大っきい……」
私は由美子ちゃんの呟きを聞き逃さず、目線を合わせて、ふっと微笑んであげる。
由美子ちゃんは赤くなって、目を逸らせた。
「千紗、由美子、俺が中2の夏に読んでた論文『Genealogical Variants in Literary Manuscripts: A Bioinformatic Approach to Scribal Lineage Reconstruction』
って覚えているかい?」
えっ、ちょっと待って。晴道が中2の夏って、論文を大学で発表した直後じゃない。
まだ専門誌にも掲載されていないから、“普通の人なら”存在すら知りようが無いわよ。
よっぽど私に注目してでもいないと……。
私は初めて会った日の晴道の言葉を思い出した。
『花音先生の論文が好きで、貴女に憧れていました』
あれって論文を読んだから憧れていたんじゃなくて、
私に憧れていたから、論文を読んだ?
もしかすると、ここは“どこで私の事を知ったのか”と恐怖を覚えるところかもしれない。
しかしこの時の私の胸は、何か暖かなものがこみ上げてきて、“幸せな気分”だった。
「それでね、こちらは一ノ瀬花音さん。
あの論文の執筆者なんだ」
「えっ、晴道がもう大学までの進路を決めた“原因”の論文の?」
千紗ちゃんが目を見開く。
「凄いライバルじゃん、巨乳なのに」
そして小声で呟くのを私は聞き逃さない。読唇術も使ったしね。
あぁ、なにこの優越感。
私ったら6歳も年下の女の子相手に恥ずかしい。
でも私の幸福感は増すばかりだった。
「それで、花音さんはどうしてここに?」
晴道の声に我に返った私はこう答えた。
「仕事の打ち合わせでね。
結果待ちだから、暫くこの街に滞在するわよ」
「そっ、そうなんですね……」
そう答える晴道。
そして小声で、
「“前は”こんな事無かったのに?」
そう続けたのも私は聞き逃さなかった。
前とは“何”を指しているのか、じっくり暴かせて貰うわよ、晴道!
この時の私は、この衝動が一ノ瀬一族としての責務から来るのか、“個人的な”晴道に対する興味なのか、区別できずにいた。
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ここで晴道が語ったのは、全作での花音の歴史となります。
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