ep008:そのハーレム生活、イージーモードにつき
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Scene026【母】
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「そうだ、母さんにも連絡しないと」
由美子と千紗の通話が終わった後、
俺は由美子へと声を掛けた。
「なあ由美子、このまま明日の朝までここに居ても良いかな?」
「えっ……私はうれしいけれども、本当に良いの?」
「さっきの治療で、何か副作用が出るかもしれないだろ。
由美子を一人にするのはどうしても不安なんだ。
だから今から母さんにも連絡して、ちゃんと許可を貰うよ」
俺は念のため、スマホをスピーカーモードにして沙織母さんに電話をかけた。
ツッ、ツッ……。
『あら、晴道。
どうしたの?』
「母さん、仕事中にごめん。
今ちょっと話せるかな?」
『ええ、大丈夫よ。
ちょうど今は外にいるから』
「なら良かった。
実は、今晩の事なんだけれどもさ」
俺が事情を説明しようとするより早く、母さんは全てを察したように話を続けてきた。
『由美子ちゃんの所にいるんでしょ?
さっき千紗ちゃんから、自分は急用で行けなくなったって連絡が来たわよ』
「うん、それでね……」
『由美子ちゃん、体育で怪我しちゃったんですってね』
「えっ、あ、ああ、そうなんだ」
『そんな時に一人じゃ心細いに決まっているでしょ。
晴道が朝まで一緒にいてあげなさい』
「いえっ、そんな、ご迷惑をおかけするわけには……!」
由美子が慌てて声を挟んできた。
『あらあら、由美子ちゃん。
聞いてたのね。
いいのよ、何でも気兼ねなくこき使ってあげて』
「でも、朝までなんて……」
『大丈夫よ。
私は、あなたたちを信用しているから』
あ、このセリフ。前世でも散々言われたやつだ……。
『――ちゃんと、避妊してくれるってね!』
「……っ!?」
由美子ががっくりとベッドに崩れ落ちた。
『それでね、もし由美子ちゃんが晴道の初めての相手になるなら、これは一気に繰り上げちゃうかもね』
「えっ……?」
スマホの優秀なマイクが由美子の小さな呟きを拾ったのか、それとも母さんが自分で勝手に盛り上がっているだけなのか。
『晴道の花嫁候補の話よ!
今は千紗ちゃんが一歩リードしているからね』
「わ、私……頑張ります……!」
『あらあら、さっそく今夜、初夜を頑張っちゃうの?』
「あっ……うう……」
由美子は顔を真っ赤にして、二度目の撃沈を果たすのだった。
沙織母さんとの通話を終えた後、由美子はベッドに突っ伏したまま、しみじみと呟いた。
「私……お義母様に勝てる気がしない……」
俺には、彼女の心の声が聞こえずともはっきりと分かった。
由美子が今言った「おかあさま」が俺の母親ではなく、
自分の義理の母として呼んでいるのだと。
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Scene027【遭遇】
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沙織母さんとの電話を終えた後、俺は由美子を連れて駅前までディナーに出かけた。
実はこのディナーのために、俺は沙織母さんからお小遣いを貰っていた。
由美子もご両親から同じように貰っていたらしい。
本当は由美子の両親が俺と千紗の分まで全額出したかったそうなのだが、そこは沙織母さんが断ったのだという。
向かったのは、ちょっとお洒落なイタリアンレストラン。
しかし、その店へと向かう道中で、俺たちはばったりとデート中の武と優香に遭遇してしまった。
「おう、晴道。
由美子の様子はどうだい? 学校で怪我したって聞いたけど」
「大丈夫よ。
ほんのかすり傷みたいなものだから」
武の問いかけに、由美子が何でもない風を装って答えた。
「あれ? おかしいな。
保険医の先生からは、結構ひどい捻挫だって聞いていたんだけど……」
武が不思議そうに首を傾げる。
うーん、確かに捻挫が一瞬で完治するわけがない。
外聞的にまずいから、何とかして辻褄を合わせないと……。
俺は、花音さんを頼ることにした。
花音さんが教頭先生に掛けた催眠術のような術を思い出していた。
前世での記憶では、気の技は直接触れなければ伝わらないと言っていたと思ったのだけれども、
霞の里の実態も前世とかなり変わっているし、前世と比べて色々と変化があるみたいだ。
俺は晴花と再会できるんだろうか……。
それでも、今は由美子の事が大事だ、使える物は使う。
花音さんにデートの打ち合わせの為に無理やりID交換させられたLINEを使って、後でこっそり依頼しておこう。
……これ、またデートの回数が増えちゃうかもしれないな。
まあ、それはそれで嬉しいから全然構わないんだけど!
「まあ、元気ならいいや。
今日は由美子の誕生日だろ?
これ、優香と俺から」
(選んだのは俺だけだけどな。優香はこういうの、ちょっとセンスが……)
そう言って武は、鞄からお洒落な紙袋を差し出してきた。
「午後から早退したって聞いてたからさ、明日渡そうと思ってたんだ。
今日直接会えて良かったよ」
(本当に、今日渡せて良かったぜ)
「わあ、開けてもいい?」
「おう、いいぜ」
由美子が嬉しそうに包みを開けると、中から出てきたのはスポーツブランドのスタイリッシュなリストバンドだった。
「ありがとう! 明日からの部活の時に、さっそく着けさせて貰うね」
由美子は本当に嬉しそうに目を細めていた。
「にしてもさ、晴道、由美子との仲が一気に進んだみたいだな?」
武は俺と由美子の様子を見てそう言った。
まぁ、これだけぴったりと腕を組んで歩いていたら判るよな。
「まぁ俺たちだって進んだぜ」
(キスしたんだぜ!!)
「ちょっ……武、何を言って……っ!」
(キスしたの、晴道たちにバレちゃった……っ。ああもう、恥ずかしい~!)
隣で優香が、顔を真っ赤にして焦りだした。
……え? 武、優香、二人とも。
今、心の中で「キスまで」って言った……?
一線を越えたんじゃ無かったの!?
おっ、俺の免罪符が!!
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Scene028【バースディ】
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武たちと別れた後、俺は由美子をディナーのお店へと連れて行った。
当日の人数変更になってしまったが、席のみの予約だったので、お店側も快くOKしてくれた。
※正確には、一品だけ事前に予約している。
このお店は千紗の提案だ。
来月の千紗の誕生日にも、またここに来ることにしよう。
メニューはコースを選んだ。
「本当は、俺の奢りにしたかったんだけれどもな」
そう言う俺に、由美子はくすりと笑った。
「いいのよ。私も母さんから、今日のためにお小遣いを貰っているんだから」
「でも、誕生日くらい格好つけたかったんだけど」
「ふふ、それなら気持ちだけ貰っておくね」
そう言って微笑む由美子の笑顔が眩しい。
やがて、最初の料理が運ばれてきた。
彩り豊かな前菜の盛り合わせ。
生ハムとチーズ、小さなキッシュに季節野菜のマリネ。
普段のファミレスではまず見かけないような料理が、綺麗に並べられている。
「わぁ……凄い……」
由美子が目を輝かせた。
「こういう店、初めて?」
「うん。家族で来ることはあったけど、同年代の男の子と二人でなんて、初めて」
その言葉に、俺の心臓が少しだけ跳ねた。
俺もだ。前世の記憶があるせいで感覚が麻痺しているけれど、今世の俺はまだ高校一年生。
好きな女の子と二人きりでレストランに来るなんて、本来なら一大イベントなのだ。
料理は次々と運ばれてくる。
香ばしく焼かれた魚料理。もちもちとした生パスタ。柔らかい肉料理。
どれも驚くほど美味しかった。
「ねえ、晴道」
「ん?」
「こういうのを、幸せって言うんだろうね」
由美子がぽつりと呟いた。俺は少しだけ驚く。
「大げさじゃないか?」
「うううん」
由美子は優しく首を横に振った。
「だって私ね、さっきまで、大会にも出られないかもしれないって思ってたんだよ?」
そう言って、自分の足を見下ろす。
「それが今は普通に歩けて、晴道と一緒にご飯を食べてる。
――だから、幸せ」
その笑顔を見ているだけで、俺まで幸せな気持ちになる。
気づけば話は尽きなかった。
バレーボールのこと、学校のこと、子供の頃の思い出、くだらない失敗談、お互いの将来の夢……。
話題は次から次へと移り変わり、時間はあっという間に過ぎていく。
そして俺は気づく。これはもう、幼なじみ同士の食事なんかじゃない。
間違いなく――恋人同士のデートだった。
メインディッシュを食べ終えた時、ふと由美子が切り出した。
「さっき話した、オリンピックの話」
「スターティングメンバーになれたら、って話だね」
「私、本気だから。3年後、覚悟しておいてね!」
「あっ、ああ」
「ふふ、嘘よ。
無理やりじゃないから、その時に私が晴道にとって一番だったら考えてね」
「分かっているよ」
3年後、その時俺はどんな選択をするのだろうか。
前世ではその頃、まだ名前も思い出せない、ドラマで共演した〇〇さんを選んでいたんだと思う。
でも、今世はもう違う世界になっている気がする。
もし晴花が、俺が誰と結婚したとしても産まれてきてくれるなら……
俺はもっと、自由に恋愛をすべきなのかな?
やがてメインディッシュも終わり、デザートタイムとなった。
店員さんがデザートプレートを手にやってくる。
その時、お店に歌が流れ始めた。
『ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデー、ディア――』
その歌のタイミングに合わせて、俺も声をかける。
「由美子――」
『ハッピーバースデートゥーユー――』
「おめでとう!」「おめでとうございます!!」
俺と店員さんの声が重なる。
(凄い、お似合いすぎる!)(かっこいい……!)(お幸せに……!)
店員さんや他のお客さんの心の声も聞こえてくる。
デザートプレートには「Happy Birthday! I love you, YUMIKO」と文字が躍っていた。
予約段階では「We Love」だったのを、千紗が来られなくなったため、急遽変えてもらったのだ。
正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。
由美子も真っ赤になって顔を伏せている。
(晴道のバカ……でも、すっごく嬉しい……!)
あっ、また心の声が聞こえた。
そして由美子は顔を上げて言った。
「ありがとう! 最高の誕生日だよ」
その笑顔を見て、俺は隠し持っていた箱を由美子に手渡す。
「これ、俺からの誕生日プレゼント」
「えっ、開けてもいい?」
「もちろん」
それは小さなジュエリーボックス。
中に入っていたのは、俺が選んだシルバーのネックレスだった。
翼にも見えるし、ハートにも見えるデザインで、真ん中には七月の誕生石である小さなルビーが妖しく輝いている。
正直、アクセサリーの知識なんて全然無い。
でも、ショーケースの中でそれを見た時、不思議と由美子の顔が浮かんだのだ。
高く跳ぶことが夢の女の子だから、いつか本当に世界へ羽ばたいていく彼女に、一番似合う気がしたんだ。
後で調べて知ったのだけれども、ルビーの石言葉は『情熱』『勝利』『仁愛』。
バレーボールに全てを懸ける情熱。
世界を目指す勝利への願い。
そして、誰にでも優しく、自分より他人を優先してしまう由美子らしい仁愛。
これ以上、由美子に似合う宝石は無いような気がした。
「ありがとう、晴道。嬉しくて、涙が出そう……」
(でも、来月には千紗ちゃんにもちゃんとプレゼントをあげてね)
あっ、また由美子の心の言葉が聞こえた。
大丈夫、千紗の分ももう準備してある。
千紗に選んだのは、三日月をモチーフにしたシルバーのネックレスだ。
月の上には小さな猫が腰掛けていて、八月の誕生石であるペリドットと戯れている。
いつも俺の隣にいてくれた千紗には、自然と月のイメージを重ねていた。
太陽みたいに前へ前へ進む由美子とは違う。
月は、気づけばいつもそこにある。
俺が迷った時も、落ち込んだ時も、ずっと傍で優しく照らしてくれていた。
そして、その月の上にいる少し悪戯っぽい猫もまた、どこか千紗らしい。
ペリドットの石言葉は――『夫婦の幸福』『和合』『希望』。
少し重いかもしれない。
でも、それが今の俺の正直な気持ちだった。
見ると、由美子が本当にポロポロと泣き出していた。
その顔がたまらなく愛おしくて、俺は由美子の顔を引き寄せ、テーブル越しに口づけを交わした。
「きゃーーー!」
(キャーーー!)
実際の黄色い悲鳴と、心の中の声が店内に激しく響き渡った。
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その後、二人で由美子の部屋へと戻り、俺たちは自然と肌を重ねた。
そしていま、俺はベッドで素肌の由美子の肩を抱いている。
俺は、ほんの少し前まで「俺は何を間違えたのだろう」なんて考えていた自分が、ひどく恥ずかしくなってきていた。
俺は、自由に彼女たちを愛すればいいんじゃないか。
だとすると――俺の周りには、素敵な女性が多すぎる!
人の心が見える俺にはハーレム生活イージーモード、でも一人に絞るのは無理ゲーだった
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Scene029【閑話】
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世界が無くなったと言われ、混乱する俺をよそに、女性は淡々と話を続けた。
『私は、貴方から見ると高次元の観察者です。そうですね、貴方方の感覚で言えば“神”、または“愛の女神”というのが近いでしょう』
あまりにも実感の湧かない言葉に、俺は逆に冷静になっていく。
「その愛の女神とやらが、俺に何の用なんだ?
“俺を観察するために作られた世界”って、一体どういう意味だい?」
『貴方は、多くの女性を愛しました』
愛の女神は、俺の質問には直接答えず、言葉を重ねる。
ここは大人しく聞くしかない。
『その結果、貴方が発信した“愛の波動”と、貴方に愛された女性たちの“愛の波動”が観察されました。それを観察することで、エネルギーが生まれたのです』
「エネルギー?」
『私たちの次元において、“情報”と“エネルギー”は同等なのです。そして、“情報”は“観察”によって生まれる』
だんだんと、意味が分からなくなってきた。
『貴方がたくさんの女性たちを愛する様子を観察することで、“感動”という情報――つまり、エネルギーが生まれました。それが、常にエネルギーが不足しているこの宇宙を救ったのです』
「はあ……。
それで、結局俺はなんでここにいるんだ?
晴花に逢えないなら、もう何の意味もない」
『逢えますよ』
「えっ、本当か!?」
『貴方が死んだのは、これが最初ではありません』
その言葉に、俺の脳裏にふと、幾つもの記憶の断片がよぎった。
大学院へは進まずに出版社に就職し、〇〇さんと同棲を始めた世界。
花音さんが霞の里に帰ってしまう代わりに、由美子が隣にいてくれた世界。
そして、ドラマに出演したことがきっかけで〇〇さんと結婚した、今世。
――どの世界にも、晴花は生まれていた。
『でも、こんなにも早く貴方が死んでしまった世界は、初めてでした。貴方には幸せな人生を過ごしてほしい。だから今回に限り、今世の記憶を残したまま、次の世界を始めます』
「本当か……!?」
『ただし、気をつけてください。この世界は、貴方が多くの女性を愛した結果に生まれたエネルギーで作られています。だから、貴方が多くの女性を愛せなくなった時、この世界を生み出すエネルギーもまた、生まれなくなります』
「そうなると、どうなる?」
『因果関係が維持できなくなり、この世界は完全に消滅し、二度と生まれません』
「……新しい世界も、そこに生きる人たちはみんな同じなんだよな?」
『はい、そうです』
「だったら大丈夫だ! 俺の周りは魅力的な女性ばかりだから、俺はきっとまた、多くの女性を愛するよ!」
『そうですか。では、今世のように貴方が不幸にも突然死ぬことがないように――貴方に、貴方が私にくれた力の一部を返します。それは一人の人に与えるには大きすぎる力かもしれません。気をつけて使うんですよ』
「分かった、気をつけるよ。そして、今までと同じく、たくさんの女性を愛するよ」
『うん。だから、早く私に逢いにきてね――“パパ”』
「えっ!?」
そこで俺の意識は急速に白濁していった。




