ep002:その双子、母娘のようにつき
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Scene005【双子のようで母娘のようで】
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「えっ、何これ? キャサリンが私?」
「だから、教室で言ったじゃないか!」
「うん、言ってた……」
「なのに、みんな金髪碧眼だし、違うって!」
認識阻害の術のことはまだ、伏せておこう。
「とにかく、話があるんだよね。上がって」
「お邪魔します」
キャサリンは千紗の前だと大人しい。
「あら、いらっしゃい……」
美優さんが顔を出した。
「私、双子の娘を産んだ覚えはないのだけれども……」
そうなりますよね……。
美優さんは、俺たちにお茶とお菓子を出してくれた後、
「千紗、お母さん買い物に出掛けるから、ゆっくりしてもらってね」
そう言って出かけていった。
「千紗、実はね……」
俺は千紗に事のあらましを語った。
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「はあ、レイスに鬼に、世界を作り替えられる”愛の女神”ね……。
普通なら信じられないけれども、晴道が私に嘘をつくはずないし。
冗談にしては逆に嘘くさいし、
キャサリンの容姿のことを考えたら……」
千紗はそこで気づいたようだ。
「あれ? キャサリン、その容姿って、選んでそうなったんだよね?」
「はい、そうです、千紗ママ」
「えっ、ママ?」
千紗は首を傾げる。
こういう場面ですら、どの角度が一番可愛いか計算しているに違いない。
超絶可愛い、ずるい、惚れ直しちゃう。
あれ? こういう時、千紗は心の中の声で俺をからかってくるのに、それがない?
しかしそんな疑問は、次のキャサリンの言葉で吹き飛んだ。
「私は”愛の女神”の記憶も一部引き継いでいます。
そして、”愛の女神と晴花はほぼ同一の存在”」
「えっ、晴花って、前世以前の晴道の娘で、 晴道がどうしても逢いたいって思ってる?」
千紗も可愛く装う余裕すらなく、ただ口を大きく開いた。
えっ、いや、それって……。
確かに、消えた未来のキャサリンは晴花が成長した姿だった。
あれは愛の女神から引き継いだものだったんだ。
「はい。晴花にとって、千紗ママは特別な存在です。
晴道パパにとっても千紗ママは特別な存在。
だから私は、千紗ママと同じになりたかった」
「キャサリンは、晴道に特別に愛されたいんだね」
そう言う千紗の顔は優しかった。
「千紗ママにもです」
千紗は俺に顔を向けて言った。
「晴道、この子可愛すぎ。
あっ、いや、容姿は私なんだけれども、存在感が可愛いというか……」
千紗には前世の記憶はない。
でも、魂が覚えているのかもしれない。
いつの前世でも、晴花のことを実の娘のように愛していたことを。
「駄目ですか?」
それはこの容姿でいることだろうか、
それとも“俺に特別に愛されたい”ということだろうか。
その問いに、千紗は満面の笑みで答えた。
「そんなこと、あるわけないじゃない!」
その言葉にキャサリンも満面の笑みを浮かべる。
その二人の様子は”双子のようで母娘のようで”とても眩しかった。
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Scene006【駄目に決まっているでしょ】
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俺はそれから、明後日の土曜と日曜の集まりのことを話した。
「ふーん。鬼の被害者にキャサリンが謝罪をするの?
でも、鬼がやったこととキャサリン、
というか、そのもう一人の愛の女神とは直接的には関係ないんだよね?
それにキャサリンはキャサリンで、
そのもう一人の愛の女神自体じゃないんでしょ?」
「はい。それでも、私の中のもう一人の愛の女神が言うんです。
『自分が消えてしまうまでに謝りたい』って」
俺は思わず声を挟んだ。
「えっ!『消えてしまうまでに』って?」
それにキャサリンは、少しだけ悲しそうな顔で答えた。
「晴道パパもあの部屋で聞いたと思いますが、
私を生み出した一人目の愛の女神の因子は、
そのほとんどが彼女の元に戻っていきました」
「ああ。だから、二人目の愛の女神がキャサリンに融合して、キャサリンが消えてしまうのを防いだんだよな」
「はい、二人目の愛の女神は今もここにいます」
キャサリンは自分の胸に手を当てる。
「でも、そのため、彼女は私と融合して自我が消えかけています」
「じゃあ、その彼女の願いは叶えてあげないとね」
千紗は優しく応えた。
「なんだかよく分からないけれども、
私はママみたいだから、
キャサリンを見守ってあげないとね。
晴道、私、その集まりに参加するよ」
「分かった。美優さんが帰ってきたら、話をしよう」
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「ねえ晴道パパ、さっきからなんで、気の放出を抑えているの?」
俺のことをパパって呼ぶのはからかいだろうけれども。
どういう意味だ?
「そんなことしてないけれども?」
「だって、心の中の声で話しかけても返事こないし、
晴道の心の中の声が全く聞こえてこないの」
「千紗こそ気の放出を抑えてるのかと思ってた」
「「えっ?」」
俺たちの声が重なる。
その時、
「あの……」
キャサリンがおずおずと声を掛けてきた。
上目遣いで見上げて、胸元を強調して、
「えっと、あのね」
あっ、これは計算してやっているやつだ。
「晴道パパと千紗ママが心の底から通じ合ってるのが」
(心の底から通じ合ってるって、キャサリン分かってる!)
あっ、千紗の心の中の声、今日初めて聞いた。
「羨ましくて、なんだか、悔しくて」
「て?」
「二人の間の気の疎通を、妨害しちゃいました!」
「「えっ」」
「駄目?」
キャサリンは胸元を強調しつつ、 おずおずと見上げながら、 可愛らしく首を傾げた。
うっ、これは許してしまいそうになるやつ。
「駄目に決まっているでしょ」
でも、それは千紗には効かなかった。
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Scene007【散歩】
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美優さんが帰ってきて、昼食を作ってくれた。
皆で昼食をいただく。
「こんな美味しいごはんは初めてです!」
「なんだか、娘が増えたみたいね」
美優さんはにこにこしていた。
そうだ、消えた未来でも、今回もキャサリンは一人で過ごしていた。
家族との食事なんてしたことないんだ。
「美優お母様、今晩も食事ご一緒させてもらっても良いですか?」
「ええ、もちろんよ。
今晩は誠一さんもいないし、大歓迎よ」
誠一さんとは千紗の父親だ。
「キャサリン、千紗、午後は散歩でもしよう。
キャサリンにこの街を案内するよ」
「うん、ありがとう、晴道!」
さすがに千紗と俺以外の人がいる時は”パパ”とは呼ばないか。
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昼食の後、俺たちはぶらぶらと歩く。
まずは近くの公園。
そこはあの守さんから生まれた鬼と対決した所だ。
「あっ、猫さん!!」
人懐っこい猫だった。
ぐるぐる喉を鳴らしながら、頭を擦りつけてくる。
「ハジメて紗和りますた」
あっ、怪しい日本語に戻した。
人目があるからか。
「可愛いね!」
色違いの美少女が猫と戯れる光景は絵になった。
「推せる」
「眼福」
「眩しい」
あっ、よくすれ違うお姉さま方。
平日の午後ですよね。
公園で何しているんですか?
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駅に向かう途中で、早乙女莉子と氷室優香に会った。
「「千紗が二人いる!!」」
うん、それが正常な反応だよな。
「キャサリン早乙女ですます。
アメリカからやってきますた。
京子から晴道と千紗と同じクラスですます」
『今日から』を『京子から』って、変過ぎるだろ。
「えっ、早乙女?私も早乙女よ!」
ああ、あの消えた未来では莉子はキャサリンの従姉妹ってことになってたけれども、今回は違うんだな。
「本当デスか!親戚かもですね」
「うーん、残念だけれども、アメリカに親類がいるって話は聞いたことないかな?」
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俺たちは駅前に着く。
そして、俺の目的地もここだ。
「ほら、キャサリン」
俺はクレープを買ってキャサリンに差し出す。
「これは、あの時の……」
「あー、晴道!キャサリンだけ……」
千紗のからかいの声は途中で止まった。
キャサリンがボロボロと涙をこぼしていたからだ。
「また、晴道と食べられるなんて……」
(キャサリンはね、消えた未来ではレイスと鬼に対処するためだけに生み出された存在だったんだ。でも一度だけ、このクレープを俺と食べ歩きした)
(今回は?)
(そんなことはない、でもキャサリンは生まれたばかり、まだ何も知らないんだ)
心の中の声で俺の説明を聞いた千紗は、キャサリンの肩を抱いて言った。
「ねえ、キャサリン、世の中にはまだまだいっぱい楽しいことがあるよ。
これから一緒にいっぱい楽しみましょ!」
「うん、千紗ママ。晴道パパも一緒にね」
「もちろんよ!ねっ、晴道」
ああ、その通りだ。
まだまだいっぱい、キャサリンを連れて行きたい所があるんだよ。
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Scene008【閑話】
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私は娘のキャサリンが涙をこぼすのを見て、
自分の頬が濡れているのを感じた。
これは涙?
私には肉体なんてないはずなのに……
キャサリンは、私がレイスと鬼に対抗するために生み出した存在だった。
でも今は違う。幸せになってほしい、愛しい娘だ。
その愛娘が幸せに嬉し涙を流すのを見て、自分も胸が熱くなった。
でも『キャサリンだけずるい』。
そう思った自分にも気づいてしまった。




