ep007:その選択、二度目につき
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Scene013【やり直し:杏奈】
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次の日は呼び出されなかった。
「やっと繰り返しを抜け出せたか」
俺はそう思ったが……。
「これってどういうことですか?」
俺は自分の部屋で杏奈先輩を問い詰めていた。
部屋に帰ると、夕食の準備を始めている花月さんに花音さん、さらに杏奈先輩がいたのだ。
そして、その杏奈先輩は髪の毛が短く刈り込まれていたのだ。
それは髪型を変えたとかではなく、乱雑に切り落とされたようだった。
「何があったんですか!? 誰にやられたんですか!!」
憤る俺を杏奈先輩はたしなめた。
「晴道くん、落ち着いて。これは自分でやったのよ」
「えっ?」
それから杏奈先輩から聞いたのはこんな話だった。
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私、神谷 杏奈は”自室”で目を覚ました。
えっ、何故?
私は一ノ瀬先生の部屋で仮住まいさせてもらっていたはず。
慌てて枕元のスマホを確認すると2月の最終土曜だった。
何が起こっているの?
しばらく混乱した。
普通なら信じられないような出来事だけれども、
私の身体に起こった奇跡を考えれば、
これくらいあるかもとも思えた。
そして、私は悩みに悩んで、ある決断をした。
それを早く両親に伝えたかったが、両親が揃ったのは、
もう木曜の夕刻だった。
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「お父様、お母様、私は今の縁談を断ろうと思います」
当然両親は激怒した。
交互に私を罵った。
「何を言っているんだ!!」
「この縁談が、家にとってどれだけ重要なのか、
知っているでしょ」
「この縁談の準備にどれだけ金をかけたと思っている?」
「貴女をここまで美しく育てるにも、どれだけ手間暇かけたことか」
そうよね、相手の殿方を喜ばせるために、
私が18歳になったら、純潔を奪って性技を叩き込むくらいですものね。
「縁談は進んでいる、いまさら無かったことにはできない」
なによ、私が鬼に汚されたら、すぐに見捨てて、
何もなかったことにしたくせに。
酷い両親だったが、私は悲しくなかった。
あの未来で両親の本性を知ってしまっていたから。
「では、私は女を捨てます」
そう言って、こうなることを予測して準備しておいた
裁ちばさみで、自分の黒髪を切り落とした。
「なっ、何をする!
あの御曹司は、お前の黒髪をいたく気に入ってくれたのだぞ!!」
そう、私はまだ婚姻前だというのに、
もうその御曹司の”相手”をさせられていた。
あの御曹司は、私と”して”いる間、私の黒髪をずっと愛でていた。
私自身なんて、目にもくれずに。
だから、私はなるべく髪を短く刈り込んだ。
「ああ、ああ、もう駄目だ。
御曹司はまたお前の髪が伸びるまで、待ってはくれまい。
お前なんぞ、もう娘でもなんでもない。
出て行け、今すぐ出て行け!!」
「はい、そうさせていただきます。
これから荷物をまとめるので、明日の朝一で出ていきます」
私はそう言って、両親と決別した。
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Scene014【共感】
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両親の元を離れ、自室に戻った私はまずスマホである人物に連絡をした。
生徒会長の特権で手に入れていた、先生方の緊急連絡先。
その中からお目当ての番号を見つけ出す。
「一ノ瀬先生でしょうか?
私は神谷と申します。
唐突で信じられないかもしれませんが、
私は未来の記憶を持っています。
そのことで明日、お話しできないでしょうか?」
一ノ瀬先生は驚くかと思ったが、予想していたようだ。
そんな気がしていた、一ノ瀬先生も未来の記憶を持っているのだろう。
「やはり、こうなったのね。
もちろん大丈夫よ。
しばらくうちに泊まりなさい」
一ノ瀬先生、いいえ、花音さんの声は優しかった。
「はい、ありがとうございます。
“また”お世話になります」
「ふふふ、そうよね、”また”よね」
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翌日の午前中。見送りもなく家を出た私を、
車が迎えに来てくれた。
運転していたのは、たしか斉藤さん。
花音さんと同じマンションのひとつ上のフロアに住んでいた。
斉藤さんは何も言わなかった。
かける言葉が分からないのではない。
何も言わないことが優しさだと知っている、大人だった。
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「お世話になります」
ニット帽を脱いで頭を下げた私を、花音さんは突然抱きしめてきた。
「辛い選択をしたのね」
「えっ?」
花音さんは泣いていた。
「私には分かるの。
ううん、私だけには分かるの」
花音さんはそう言って、自分の過去を話しだした。
いや、それは過去ではなかった。
前世の記憶だという。
前世の花音さんは厳しい一族の元に生まれたという。
一族の伝統を守るための辛い修行。
私よりずっと幼い頃に純潔を奪われ、男の人を操るための性技を仕込まれたという。
「だから、私はね、貴女の辛さが分かるの」
「今世はどうなんですか?」
「今世の私はとっても幸せよ。
家族も里のみんなも優しいわ。
だからこそ、私は貴女にも幸せになってほしい」
そう言ってくれる花音さんに、私ははっきりと答える。
「大丈夫です。
私は自分の幸せのために、選択しました。
だって、私はこうしないと、晴道のそばにいられませんから」
花音さんは笑って答えた。
「そっか、そうよね。
世界の異変より、家のことより、
そっちの方がよっぽど重要よね!」
私も笑って答えた。
「はい、その通りです」
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Scene015【わがまま】
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話を聞き終わった俺は、杏奈先輩に確認する。
「もう、何があっても、家の人が杏奈先輩を取り返しに来るようなことはないんですよね?」
「ええ、ないでしょうね」
杏奈先輩は少しだけ寂しそうに言った。
「もし、そんなことがあったら、私たちが動くわよ」
花音さんが笑いながら言った。
霞の者が動くなんて、怖すぎる。
でもその意味が分からないのか、杏奈先輩は首を傾げていた。
杏奈先輩が首を傾げると、あの美しい黒髪がさらりと流れる。
俺はあの光景がたまらなく好きだった。
だから、こう言った。
「杏奈先輩、一つだけ俺の”わがまま”を聞いてもらえますか?
あっ、いや、”わがまま”を“させて”くれますか?」
「ええ、いいわ。私、晴道くんの望みなら、なんでも聞くよ」
「それじゃあ、じっとしていてもらえます?」
俺は杏奈先輩に椅子に座ってもらう。
俺は後ろから、杏奈先輩を抱きしめる。
「晴道くん?」
俺は杏奈先輩の頭部に気を流し込む。
「晴道くん、気持ちいい……」
その様子を見ていた花音さんと花月さんが息を呑む。
「えっ、ええええ」
杏奈先輩は声を上げる。
杏奈先輩の髪は腰まで伸びていたのだ。
いや、俺がやったのだが、あの未来の時は頭皮の治療も含めてだったから、結果として髪が伸びたのだけれども。
今回は髪を伸ばすことだけ意識したからか、効果が出すぎた。
「昨日までだって、胸元までだったのに……。
こんなに長いと、お手入れも、まとめるのだって、アレンジだって大変なのよ」
(でも、うれしい。私だけの特徴、晴道くんが好きだって言ってくれていた髪が戻った)
「ねえ、晩御飯にしましょう。
ちゃんと食べないと」
花月さんが声をかける。
「えっ?」
杏奈先輩が首を傾げると、黒髪がさらさらと流れる。
俺が好きな光景が戻った。
花音さんが説明する。
「あのね、無から有は生まれないの。
それだけの髪の毛を作り出すタンパク質は、
どこかで消費しているはずなのよ」
(おっぱいは減ってなさそうよね、ウエストがさらにくびれていたりして。巨乳にウエストがくびれていて、そこまで伸びる黒髪。強敵すぎるでしょ)
花音さんの心の中の声のぼやきが聞こえてきた。
花月さんの心の中の声は遮断しているのか、
聞こえてこなかったが、ため息をついていた。
「あっ、俺、シャワー浴びてきます」
「えっ?」
(まだ早いんじゃ)
杏奈先輩? 何想像してますか?
こっちまで意識しちゃうじゃないか!
「部活の後なんで」
「そっ、そうよね、うん、ははは」
笑ってごまかす杏奈先輩に、
花月さんが追い打ちをかけた。
「私たちの部屋はまだ準備終わってないから、
杏奈さんは、こっちに泊まってくれませんか?
晴道くんのご両親は二人とも出張だし」
そう、両親不在のお約束はまたしても、守られたのだ。
(部屋の準備が終わってないのは、嘘だけれどもね)
花月さんがわざと心の中の声を飛ばしてくる。
そして、
「どうせ、ベッドは一つしか使わないでしょ!」
杏奈先輩は真っ赤になって突っ伏していた。
(晴道くんと再会できるならって、期待はしてたけれども、早すぎじゃない?)
4人で夕食を終え、俺は杏奈先輩の期待に応えてしまった。
ベッドに広がる黒髪は、とてもとても美しかった。
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Scene016【再び】
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翌日土曜は由美子とのデートの約束だったが、
昨晩こんな連絡がきていた。
「明日の土曜のデートだけれども、キャンセルでいいかな?
私は月曜いっぱい愛してもらったし。
晴道は土曜から金曜まで、7日7人連続でお疲れでしょ!」
全部バレてる……。
だから土曜に俺は香織姉さんにお願いをして予約を取り、
香織姉さんが勤める表参道のサロンへと連れて行った。
消えたあの未来と同じだ。
「毛先が揃ってないけれども、それ以外は生まれたてのような、みずみずしい髪ね。
任せておいて。毛先だけ完璧に仕上げてみせるわ」
香織姉さんはそう言ってくれた。
そして続けて、
「ねえ、うちのヘアモデルをやってくれない?
カットじゃなくて、セットの。
報酬は弾むわよ」
「はい、あの、やりたいです!」
これも同じだ。
「香織姉さん、杏奈先輩は今、仕事を探しているんです!
モデルとか役者とかできるかな?」
香織姉さんは俺には冷たい目を向け、
「ふうん、杏奈先輩ね」
杏奈先輩には温かな視線を送った。
「良家のお嬢様って感じだけれども、
訳ありなのね」
「あの、はい。
厳しくしつけられているので、
茶道、琴、華道、何でもできます」
「だったら、モデルだけじゃなくて、役者もいけるかもね。
そういうシーンに映える役者って意外といないのよ」
「私、頑張ります!」
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その後、杏奈先輩はサロンのセットモデルを手始めに
グラビア界に鮮烈なデビューを果たした。
なにせ、超美人でかつ清楚なイメージ・長身でほっそりしている・なのに爆乳・しかも腰まで伸びるつややかな黒髪なのだ。
唯一無二となる。
そして、少し先の話だが、俺が彼氏役でデートのイメージグラビアを出版する。
それは伝説のミリオンヒットとなるのだった。
ちなみに、杏奈先輩の活躍を知り、杏奈先輩の両親は接触しようとしたらしいのだが、
霞の者たちが裏から手を回し阻止した。
さらには神谷家は没落したらしい。
霞の者を敵にして、この日本で生きていけるわけがないのだ。
杏奈先輩には内緒の話である。
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Scene017【閑話】
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私は悲しくなっていた。
子を愛さない親がいるなんて。
この子には幸せになってほしい、そう切に願った。
だから、ほんの少しだけ、世界に干渉をした。
ある結果を書き換えた。
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