ep011:その決意、本気につき
⸻
Scene029【真実】
⸻
俺はキャサリンと深く深く愛し合った。
そして今、キャサリンは一糸まとわぬ姿で、俺の腕の中で寝ている。
毎夜毎夜、レイス対策で文字通り飛び回っていたのだ。
疲れも溜まっているのだろう。
まだ日も高い。
寝かせてあげよう。
その時、キャサリンが寝言を言った。
「ぱ・ぱ、わたし、幸せだよ」
その瞬間、俺は気づいてしまった。
キャサリンは千晴さんにそっくりなのではない。
それは、俺が覚えている最も最初の前世の記憶。
千晴さんと同棲を始め、その後結婚した人生。
その時に生まれた最初の晴花。
その晴花が成長した時の姿を金髪碧眼にすれば、今のキャサリンそのものだった。
そっか、それでキャサリンはあの指導室で初めて二人きりになった時、
『”晴花”でもないわ』とわざわざ付け加えたのか。
それでも俺はキャサリンに対して愛娘ではなく、一人の女性としての愛情を感じた。
日々、皆のために頑張っている強い女性だ。
「ありがとう、キャサリン。
まだ生まれたばかりなのに、皆のために頑張ってくれて……」
俺は決意する。
この世界に干渉してきているという情報生命体と対峙することを。
それが、たとえ京子が関係しているのだとしても。
その時、キャサリンが目を覚ました。
「あっ、パパ、私寝てたの?」
「キャサリン、パパってなんだよ。寝ぼけているな」
俺はわざとそう言った。
「えっ、あっ、ごめんなさい」
「可愛い寝顔だったよ」
「もう、やだ晴道ったら!」
そう照れるキャサリンが可愛く、またその胸元で揺れるおっぱいが魅力的すぎて。
俺はまたキスをしてしまった。
おっぱいに手が伸びてしまった。
また”して”しまった。
晴花とか関係ない。
このキャサリンが愛おしかったから。
⸻
「何、このエネルギー量は」
キャサリンは自分の下腹部に手を添えながら言った。
「やはり、貴方はこの世界そのものなんですね」
その台詞からは呆れたような表情を想像するだろうが……
キャサリンの視線は熱かった。
どう見ても恋する乙女のそれだった。
「鬼のことを説明します」
キャサリンはホテルに備え付けの寝巻を着ながら言った。
うん、それがいい。いつまでもその魅力的なおっぱいがフルフルしていたら、
また始めてしまいかねない。
「鬼は、この世界に干渉している情報生命体が、
媒体としている少女の思いをコアにエネルギーを乗せて、
男性へ埋め込むことで発生します」
「思い?」
「それは『黒髪が羨ましい』『太ももが魅力的なのは罪だ』『他に巨乳がいなければ』『可愛らしい顔をしている』など、
そんな些細な思いです」
ああ、やはりそうなんだ。
「その思いが情報生命体のエネルギーと融合して男性に入り込むと、歪んだ形で現れます。
そして、その歪んだ思いを実現するために、暴力という形で他者を傷つけるのです」
ふと、俺は思う。
「じゃあ、鬼が被害者の女性たちを犯そうとするのは?」
「それは悲しいことですが、憑依された男性自身の願望が解放された結果です」
まぁ、あんなに可愛くて巨乳な女子高生たちを目の前にして、
ムラムラとしてしまうのは分からないでもない。
鬼になることで理性がなくなれば、そうなってしまうのか。
「鬼の身体は、憑依された男性のものなのか?」
違う気がする。
手足を切り落としても生えてくるし、
切り落とした手足は霧となって消えてしまった。
「あれは、憑依した男性の生命力を元に作り出された、仮初めの身体です」
「生命力か。
だから鬼から元に戻った人たちは、衰弱しきって見つかるんだな」
「そうなりますね。
生命力は個人によって違うので、身体を薄く覆う程度のものから、
憑依者の身体よりも大きく作られることもあります」
そうか、それでか。
「由美子を襲っていた鬼は、手足の部分が憑依者から離れて作られていて、頭部はぎりぎり重なっていました」
「だから鬼から元に戻った時、手足に傷一つなかったし、切り落とした鬼の手足は消えてしまったんだな」
それから俺たちは、ルームサービスで遅くなった昼食を取った。
何故か別れがたかった。
まだ一緒にいたかった。
だから一緒にパトロールをすることになった。
⸻
Scene030【街歩き】
⸻
俺とキャサリンはラブホテルを出て、パトロールに向かう。
パトロールと言っても、キャサリンが監視対象者の動きを”彼女”から受け取り、その後を追うのだ。
だから、“彼女”から連絡がない今は、
普通の街歩きのようだった。
デートって言っても良いかな?
「Harumichi, this is really good.」
キャサリンがクレープを口にしながら微笑む。
「I’ve never done anything like this before.」
くるくる回りながら歩くキャサリンが可愛い。
レイスと鬼に対処するために生み出された存在。
彼女は初めて会ったあの日、こう言っていた。
『I was born to meet you.』
(私はあなたに会うために生まれてきたのですから)
あれは”鬼を退治する俺を手助けするため”だったのだろうか。
でもいいじゃないか、”俺に会って、恋を知るために”でも。
だから、俺は人目もはばからず、キャサリンを抱き寄せた。
そしてキスをする。
「きゃーーー」
元々目立って人目を引いていた俺たちだったから、
歓声があがってしまう。
「超絶イケメンと金髪ナイスバディ美女」
「推せる」
「眼福」
「You idiot, Harumichi. Now everyone’s looking at us.」
キスされたことは嫌じゃないんだ。
「生クリームが付いていたんだ」
「Isn’t that what you’re supposed to say when you kiss someone on the cheek?」
頬を膨らませて赤くなるキャサリンが超絶可愛い。
「ははは」 「Hee-hee.」
しかし、そんな甘い気分は長続きしなかった。
「Oh, it looks like there’s been some movement.」
「”彼女”から連絡が入ったのか?」
「まだ日が高いのに?」
「We need to hurry.」
「監視対象は京子なんだよな」
俺ははっきりと口にした。
「Yes.」
さっきの説明ですっきりした。
女性たちを傷つけているのが京子の意思でないなら、
それで十分だ。
俺はふと気づいてキャサリンに問いかける。
「キャサリン、魔法少女に変身しなくても良いのか?」
「あれは、私を見かけた人が『夢か幻か』と思えばいいという考えなんです。
こんなまだ日が高い時間だと目立ってしまって、逆効果です」
日本語で返してきた。
「そっか、キャサリンの趣味かと思ってたよ」
緊張をほぐすために軽口をたたく。
「晴道のばか……」
頬を染めるキャサリンは可愛かった。
そんなことを話しながら、俺たちは周りから見ると凄まじい勢いで走っている。
確かにこれでさらに魔法少女の姿なら、目立って仕方ないだろう。
でも次の一言で、軽口もたたけなくなった。
「狙われたのは、千紗です」
俺は頭に血が上ったのすら、自覚できなかった。
一瞬で周りが見えなくなった。
「やっぱり、千紗ママは特別なんですね」
キャサリンがそう呟いたのすら、耳に入っていなかった。
⸻
Scene031【守】
⸻
俺はキャサリンに先導され、走り続けていた。
「間に合わなかった」
キャサリンの呟きが耳に入る。
千紗が鬼に……そう考えた時、逆に頭が冷え切った。
「急ごう」
「はい」
⸻
到着したのは、緑の多い公園の高台になっている広場。
広いが、周りからの見通しは悪かった。
いた、鬼だ。なんて大きい。
「こんなに大きいのは初めてです」
キャサリンも驚いているようだ。
千紗がいた!
えっ、千紗は十字架に磔にされていた。
そして、隣には早紀と栞さんも同じように張り付けにされている。
3人は気を失っているようだ。
「狙われたのは、千紗だったんじゃ?」
キャサリンに問いかける。
「はい。しかし、早紀と母親の栞も一緒に出掛けていたようです」
「じゃあ、鬼は!」
俺は最悪の事態を予測した。
「そうです。
護衛を買って出た、父親の守です」
それであの大きさか。
守さんの生命力なら半端なさそうだもんな。
「幸いなのは、あれほど巨大なら、鬼の身体と守さんの身体はほとんど重なっていないはずです。
手足や頭を切り落としても、守さん本人には影響ありません」
「やるしかないか」
その時、鬼の後ろから少女が出てきた。
京子だった。
「初めまして、インターフェイスさん」
違う、あれは京子じゃない。
京子はあんな冷たい目をしない。
「この子の願いを叶える邪魔を、やめてもらえませんか?」
「それはできないわ、この世界を守るために」
キャサリンは冷静に語りかける。
「愛のエネルギーがなくなるから?」
京子、いや、京子を乗っ取っている者は、
首を傾げて応えた。
「そうよ」
「大丈夫ですよ、この子と」
京子のことだな。
「晴道が愛し合えば、世界を作り直すだけのエネルギーは十分生まれる」
俺は割って入った。
「京子はそんなことを望んではいない!」
それに、京子を乗っ取っている者はこう答えた。
「そうかしら?
この子は狂おしいほどに晴道を求めているわ。
それに、この少女たちを妬んでいた。
『一つ屋根の下で暮らせるなんて』ってね」
「そんなのは、誰だって持っている嫉妬だ!
それを心の中には閉じ込めておけるのが人間だ!」
京子はそれを強制的に排除するなんて、そんなことを望んでいない!
「鬼よ、このインターフェイスを排除しなさい」
俺は叫ぶ。
「キャサリンはキャサリンだ!
“インターフェイス”なんて呼ぶな!!」
「ソンナコトハデキナイ」
えっ、今の声は?
「憑依された者が抵抗してる?」
キャサリンも驚いている。
「守さん、そんな奴に負けるな!!
貴方は、貴方は!!」
俺は守さんに語りかける。
その時。
ガガガァガガガガガゥ
鬼が苦しみだした。なんだ!?
鬼の下腹部に横一直線の裂け目ができる。
それが内側より押し広げられる。
「俺は……」
声?
そこから何かが顔を出す。
「俺は……、斉藤守だ!」
守さんだ!
「栞を、早紀を、力なき人々を守る男だ!!」
守さんが鬼の体から出てきた。
「そんな。生命力を鬼に全て吸い尽くされているはずなのに」
キャサリンが驚きの声を上げる。
「そうさ、守さんは最高にかっけー男なんだぜ!
千紗たちにだって暴力を振るっていない!」
俺はそう応えた。
「栞、早紀……」
守さんは力なく、栞さんが張り付けられている十字架の根元に辿り着くと、座り込んでしまった。
「すまん、晴道。
期待には応えられそうにない」
守さんはそう呟いて意識を失った。
「いえ、守さんは世界一格好いい夫であり、父親です」
後は俺がやる。
「光よ」
俺は光の剣を作り出した。
⸻
Scene032【閑話】
⸻
高次元の情報生命体である私は見守ることしかできない。
でも、あの守という男性の力強い魂に感動した。
晴道の人を信じる勇気に心惹かれた。
晴道の全てを守るという決意に惚れ直した。
ねえ、そこにいるもう一人の私。
あなたはその少女に憑依してしまっているから、
狭い視野でしかその世界を見られていないの。
あなたが感じている、一人の想いも尊いものよ。
でもね、世界はもっとたくさんの愛に溢れているの。
素晴らしい愛がたくさんあるのよ。
あなたにはそれを知ってほしい。




