ep010:その補充、全力につき
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Scene025【疑惑】
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俺は杏奈先輩と思う存分愛し合った。
一糸まとわぬままベッドで抱き合い、話し合った。
「私ね、家にはもう戻らない。
『鬼に汚されたからもう要らない』なんて言われたくないし。
逆に綺麗に戻ったから、また縁談の道具みたいに使われるのは嫌」
そうだな、それが良いかもしれない。
「これから何しようか……。
それ以前に、住む所を探さないと!」
それくらいなら、花音さんに頼めば何とかなるかな。
「仕事は……ねえ!
晴道と一緒に俳優なんてできるかな?」
「それ良いかもしれないですね。
今度、千紗に頼んで芸能事務所に行ってみましょうか」
杏奈先輩の生徒会長時代の堂々とした演説などを思えば、演技くらい何とでもなりそうに思える。
「うん!
あっ、これからと言えば……。
私ね、高校で『小泉晴道ファンクラブ』の会長をやっていたの」
まあ、花月さんに聞かされてはいたけれども。
「そうなんですね」
「それで、卒業して嫁入りする予定だったでしょ?
だから会長を次の人に引き継いでもらおうと思っていたのだけれども。
続けようかなって!」
「ちなみに、誰に引き継ぐつもりだったんですか?」
「京子ちゃんよ。
晴道もよく知っているでしょ?」
「ええ、まぁ」
「そもそも『小泉晴道ファンクラブ』の設立は京子ちゃんの案だったのよ。
私が会長に祭り上げられたのだけれども」
「そうだったんですね」
「京子ちゃんは交友関係が広くて面倒見が良くて、彼女こそ会長になれば良かったのに……。
でも今となっては、『小泉晴道ファンクラブ』の会長は永遠に私の役目よ!」
「はは、それが良いです」
「京子ちゃんと言えば、彼女が教えてくれたの。
『晴道くんは、会長の流れるような黒髪が凄く好きって言ってました』ってね。
だから、本当はさっきまでの姿を晴道には見せたくなかった。
でも私、もうどうでもよくなっていたから……。
だから、晴道がこの黒髪を元に戻してくれて、凄く幸せなの!!」
杏奈先輩の笑顔はまぶしかった。
「そろそろ、俺は帰りますね」
「うん、ありがとう」
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俺は自宅への帰り道、考えていた。
被害者の女性たちはみんな、女性としての魅力を損なうような怪我をしていた。
真帆先輩は水着姿の時に見とれた太ももに大きな怪我をして、
遥は顔に酷いあざができ、
結衣は胸を引きちぎられかけた。
そして杏奈先輩は、あの魅力的な黒髪を……。
俺が真帆先輩の太ももに見とれていたのは、京子なら当然知っていただろう。
真帆と遥は去年、京子と同じクラスだった。
杏奈先輩の長い黒髪が好きだって、文化祭の活動で京子と一緒に会長へ会いに行った時にこぼした覚えがある。
京子は、遥と結衣が入院していたことも知っていた。
京子、お前は……。
そうだな、キャサリン。
お前は正しかった。
もしこんなことを他人から聞かされていたら、
俺は女性不信にだってなっていたかもしれない。
今の俺は、自分の考えすぎだと思って、
京子のことを信じたいと思っている。
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Scene026【対策】
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翌日から京子のことを気をつけて観察するが、
特に不審な点は見当たらなかった。
心の中の声が聞こえていれば簡単なのだが。
いや、だからこそ、それを封じてきたのか。
それから数日後、キャサリンから相談を受けた。
レイスの出現頻度が高まっていて、
いずれ一人では対処しきれないかもしれないと。
俺も見回りの手伝いを申し入れたが、
キャサリンには、その監視対象を俺に伝えられないジレンマがあった。
そこで花音さんから提案があった。
情報を公開して、生徒自らに注意してもらおうと。
『この学校の生徒をつけ狙う不審者がいる。
軽傷を負わされた生徒もいるので、厳重な注意が必要です』
そう発表された。
『軽傷を負わされた生徒』とは、
俺が見舞う前に退院できた一人のことだ。
その子は鬼をはっきりと見ていない。
噂を流してもらうのに好都合だった。
怪我を負わされなかった二人も鬼をはっきりと見ていない。
公開された情報に『私も狙われた』と周りの人間に伝えさせ、
発表内容の信憑性を上げた。
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俺が見舞った(杏奈先輩を除く)5人は、
風邪を引いていたということにして復学してもらっている。
当然、鬼に関することは全て秘密にしてもらった。
念のため花音さんが
『もし秘密を喋ったら、二度と晴道に会えなくなる』
そうも言ったらしいが、
そんな脅しは必要ないだろう。
俺と彼女たちの絆は深い。
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杏奈先輩はやはり実家には帰らなかった。
今は花音さんの部屋に身を寄せている。
そして俺は香織姉さんにお願いをして予約を取り、
香織姉さんが勤める表参道のサロンへと連れて行った。
「毛先が傷んでいるけれども、それ以外は生まれたてのような、みずみずしい髪ね。
任せておいて。毛先だけ完璧に仕上げてみせるわ」
香織姉さんはそう言ってくれた。
そして続けて、
「ねえ、うちのヘアモデルをやってくれない?
カットじゃなくて、セットの。
報酬は弾むわよ」
「えっ、あの、やりたいです!」
杏奈先輩は声を上げる。
「香織姉さん、杏奈先輩は今、仕事を探しているんです!
モデルとか役者とかできるかな?」
香織姉さんは俺には冷たい目を向け、
「ふうん、杏奈先輩ね」
杏奈先輩には温かな視線を送った。
「良家のお嬢様って感じだけれども、
訳ありなのね」
「あの、はい。
厳しくしつけられているので、
茶道、琴、華道、何でもできます」
「だったら、モデルだけじゃなくて、役者もいけるかもね。
そういうシーンに映える役者って意外といないのよ」
「私、頑張ります!」
杏奈先輩の先行きは明るいようだ。
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Scene027【エネルギー補充】
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その後、誰も被害に遭うことなく時が過ぎていく。
しかし、レイスの発生件数は減っていないという。
実は、花音さんの提案した対策には落とし穴があった。
『事件解決まで夜間の不要な外出の禁止。
外出が必要な場合は、必ず大人の人と同行すること』
としたわけだが、そうすると生徒が外出する時の付き添いは、基本成人男性になる。
不審者対策に女性が付き添っても意味がないのだから。
そして、今回の事象の場合。
その付き添いの男性がレイスに触れられただけで、そのまま加害者となってしまうのだ。
キャサリンの負担が心配だ。
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そんなある休日の昼時、キャサリンが俺を訪ねてきた。
「I have something important to discuss with you. I’d like to speak with you alone.」
そう言われて、俺はドギマギしてしまった。
なぜなら、今まで言及してこなかったが、キャサリンは長身巨乳で、俺の好みにピッタリなのだ。
金髪碧眼だが、顔つきはどこか日本人っぽくて。
いや、はっきり言えば、前世で最愛だった高橋千晴さんに、よく似ているのだ。
高橋千晴さんの金髪碧眼巨乳バージョンなのだ。
そんなキャサリンに連れて行かれたのは、ラブホテルの一室だった。
「ここなら、誰にも見られず、聞かれないでしょ。
もし隣に声が漏れても、大して気にもされない」
「で、話って?」
ドキドキする。
意識しない方が無理だ。
最愛だった千晴さんの巨乳バージョンと、ラブホテルで二人っきりなのだから。
「今、レイスの出現頻度が上がっているって報告はしたわよね」
ああ、そういう話か。
いや、何意識してたんだ俺。
「ああ、すまない。苦労をかけているみたいだね」
キャサリンはふと笑った。
「いいの、私はそのために産まれてきたのだから」
俺には、その笑顔はとても悲しそうに思えた。
「でも、エネルギー不足なの」
「えっ!?」
「私は、この事態を解消するために”彼女”に作られたインターフェース。
”彼女”から与えられたエネルギーで特別な力を行使している」
空を飛ぶように跳躍したり、光の矢を撃ったりか。
「あと、対象の行動を監視したりね」
「で、エネルギー不足って?」
「エネルギーは一定時間で自然回復もするわ。
でも……」
俺は事態を把握した。
「レイスの出現頻度が上がって、回復が間に合わなくなったと。
そして”彼女”は直接この世界に干渉できない」
声を聞かせたりくらいは、できるみたいだけれども。
「だから、エネルギーの補充も無理だと」
「ええ、そうよ」
「それで、俺にできることって?」
なんとなく想像はついている。
由美子に定期的にしているのと同じだ。
気の補充。
「晴道にエネルギーの補充をお願いしたいの」
そう言うキャサリン。
そして、ここはラブホテルなのだ。
でも、こちらから言い出すのは憚られる。
「どうすればいい?」
キャサリンは少し、いやかなり赤くなりながら言った。
「私を抱いてほしいの。
私の中に、いっぱい出してほしいの」
そう言ってうつむくキャサリンは可愛かった。
だから俺は『それが皆のためになるならば』、
そう言いかけた言葉を飲み込み、こう言った。
「それがキャサリンのためになるなら、
キャサリンの心からの望みならば」
「うん、お願い」
俺はキャサリンを抱きしめて、キスをした。
「今のがファーストキスだよ。
だって私、産み出されてまだ三ヶ月も経ってないんだもん」
そう言うキャサリンがたまらなく可愛くて、俺は――。
「じゃあ、覚悟して。
俺、始めたら止まれないから。
何度でもキャサリンの中に注ぎ込むから」
「うん、お願い」
俺はキャサリンを抱いた。
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Scene028【閑話】
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私はキャサリンを生み出す時、晴花を生み出す時以上に、私自身を埋め込んだ。
もはやキャサリンは、私自身と言っても構わないほどの存在だ。
そのキャサリンが晴道に抱かれた。
別に私が指示をしたわけではない。
キャサリンは私自身であると同時に、独立した存在でもある。
そのキャサリンが晴道を愛したのは、埋め込まれた私の因子の影響だろうか?
いや、短い期間だけれども、キャサリン自身が晴道に惹かれていったのだと思う。
だから、晴道にエネルギーを補充してもらうのは、他にも手段があったにもかかわらず『抱いてほしい』と言ったのだ。
私はキャサリンが見たもの、感じたことを共有できる。
だから、私はキャサリンと同時に晴道に抱かれた。
幸せだった。
晴道をより愛おしく思えた。
だから、この晴道の世界を絶対に守ろうと決心した。
私たち情報生命体にとって、それは無限に存在する世界の一つに過ぎないのに。
私にとっては、特別な世界だ。
群として存在していた情報生命体の私。
今干渉してきている情報生命体も元は同じ存在なのだから、ある意味で私自身だ。
個としての我を得たタイミングが違っただけ。
これは、私自身との対決となる。
その結果がどうなるか、私にも想像はつかなかった。




