ep009:その犠牲者、卒業生女子につき
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Scene024【お見舞い:杏奈】
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最後に訪れたのは、この春に卒業した神谷杏奈先輩。
交流はなかったが、よく知っている。
俺たちが入学した時の生徒会長だったから。
コンコン。
俺はノックした。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
神谷先輩の返事があったので、俺は室内に入る。
「こんにちは、小泉君」
「お久しぶりです」
私的な交流はなかったが、会話をしたことくらいはある。
俺、首席合格だったから、入学式では生徒代表で挨拶したし。
神谷先輩が生徒会長を続けていた秋までは、イベントごとでお世話になった。
ベッドで微笑む神谷先輩は、ニットの帽子を被っていた。
畜生、なんでだよ!
神谷先輩は胸元まであるロングの黒髪が素敵だったのだ。
それが、多分、今は短く刈り込まれている。
何があったのか、想像は容易だ。
「貴方が特別な治療師なのよね」
「はい、そうです。
神谷先輩を元に戻すためにやってきました」
なんでだ、なんでだよ。
神谷先輩の目は死んでいた。
光を全く感じなかった。
「元に?」
「はい!」
「でもね、この傷が癒えて、髪が元通り生え揃っても、
元には戻らないのよ?」
「えっ、それって?」
「私ね、いわゆる良家の子女なの」
神谷先輩は他人事のように淡々と語った。
「あっ、はい、知っています」
「何を?」
「えっ」
「私はね、神谷家の子女たる者、完璧であれ、淑女であれって、育てられたの」
「……」
「私はね、受験も何もしてないの」
そうだ、神谷先輩の進路の噂とか聞かなかったな。
「卒業したら、すぐに別の良家への嫁入りが決まっていたの」
そうなんだ。
「私を襲った鬼はね、私を犯したのよ」
なんで、なんで、また、神谷先輩まで。
「鬼は私を人気のない空き家に連れ込んだの。
そして私を全裸にして、全身を舐め回したの」
俺は神谷先輩のあまりに淡々とした語り口に口を挟めなかった。
「鬼は私のあそこをいつまでも、いつまでも、舐め回したの。
それで私は身体が熱くなっちゃったわ。
それに気づいた鬼は、熱く硬い物を私に入れてきたの。
痛くなかったわ」
俺はいつしか泣いていた。
「鬼に犯されながら、私は感じていたのよ。
そして私がいった時、鬼は私の中にたっぷり出したわ。
そしたら鬼はね、笑いながら私の髪をむしり始めたの。
痛くて、痛くて、泣いたわ」
ここまで話しても、神谷先輩は淡々としたまま続けた。
心が死んでいるんだ。
「それでね、ここに保護された後、
やって来たお父様とお母様が、困ったように言ったのよ。
『化け物に犯された娘など、もう貰い手がないな』って」
俺は泣いた。
泣けなくなっている神谷先輩の代わりに泣いた。
うわあああ、あぁああ、あぐ、あぐ、あぐ。
「なぜ小泉君が泣くの?」
「神谷先輩が可哀想すぎるから、何もできなかった俺が悔しいから」
「私はね、鬼に犯されながらいかされて、汚されて、もういらない子なの。
こんな私に泣く必要なんてないのよ」
俺は神谷先輩、いや、杏奈を抱きしめた。
「そんなことない。杏奈は汚されてなんかない。
いらない子なんかじゃない」
「じゃあ、私を抱いてよ、愛してよ、必要としてよ。
私はね、生まれてからずっと、婚姻の道具としてしか必要とされてなかったのよ。
殿方を喜ばせる技術を叩き込まれて、
関係を深めたい家柄の息子に気に入られるためだけに育てられてきたのに、
鬼に犯されたからって、汚されたからって、もういらないって!」
杏奈はニット帽を投げ捨てた。
酷い頭部が現れた。
でも俺は杏奈を抱きしめ、キスをした。
「私の、私の、汚れを落としてよ!!」
それは今までの淡々とした口調じゃなかった。
魂の叫び声だった。
俺は杏奈と“した”。
それは愛情でも、欲望ですらなく。
魂と魂のぶつかり合いだった。
それで杏奈の魂を洗い流したかった。
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「晴道、ありがとう、私を救ってくれて」
俺は杏奈と何度も何度も魂の交換をした。
そしてようやく、杏奈は心を開いてくれた。
「それに気持ち良かったよ、天国だった。
だから、もっと綺麗な姿で抱かれたかった」
「杏奈は綺麗だよ」
「だって、私、こんな頭で……えっ?」
そこで杏奈は初めて自分の様子に気づいたようだ。
「髪の毛が戻ってる、頭皮も痛くない」
「俺、杏奈先輩の長い黒髪が好きです」
「奇跡なの?」
杏奈先輩は自分の髪を手ですくう。
さらさらと流れる黒髪が美しい。
「俺が元に戻しました」
「嬉しい。晴道は私の心も体も治してくれたんだね」
杏奈先輩は熱いキスをしてきた。
また始まってしまった。
それは魂の交換じゃなかった。
救済でもなかった。
純粋な愛の交換だった。




