ep005:その正体、インターフェイスにつき
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Scene016【記録と記憶】
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俺と由美子は結局、俺の部屋を使った。
「晴道の部屋で“した”のって、初めて……」
うん、まあ、当然のごとく、チェックだけでは済まず“して”しまったわけだ。
由美子を家へ送りがてら、途中の店で遅めの夕食を済ませた。
そして一人自室へ帰ってしばらくして、花音さんが帰ってきた。
「ちょっとビデオを確認してほしいの」
そう言われて、花音さんの部屋へ行く。
「ねえ、この少女は何者?
以前聞いた、私たちをもののけから守ってくれたっていう人と同一人物?」
「えっ、ビデオで撮っていたんなら、キャサリンに見えませんか?」
花月さんはかなり大きなカメラで録画していた。
ズーム倍率だって、解像度だって高いはずだ。
「キャサリンって、早乙女キャサリン?」
「はい。映っていないんですか?」
「これを見て」
花音さんはリビングの大画面モニターにビデオを表示した。
そこにはあの魔法少女が映し出されていたが、
目元を大きく隠す仮面を着けていた。
「そんな! あのとき、こんなものは着けていなかった!」
花音さんが驚愕する。
「それが本当なら、認識阻害の術ね。
電子機器の記録すら書き換えるほどの」
「そんなことって!」
俺は声をあげるが――
「そう? 人が鬼になったり、
切り落とした肉体が霧となって消えるのに比べたら、
ありそうじゃない?」
花音さんはそう言った。
「それはともかく、晴道にはこの少女が早乙女キャサリンに見えるわけね」
「はい、そうです」
「キャサリンのことは調べ直さないとね」
「一度は調べているんですか?」
「ええ、当然よ。
家族の記録も、国籍も、入国審査も何一つおかしなところは見つからなかったわ。
ただ、少しだけ気になる報告があったわね。
入国審査の担当者が、キャサリン一家が入国したときのことを『確かに記憶はあるのに、そのときのことを覚えていない』って言っていたらしいのよ」
俺は呆然とした。
そして一つ確認をする。
「花音さんは、日本語を話せないキャサリンがうちのクラスに入るから担任になったんですよね」
「ええ、当然よ」
「それを告げられたのはいつですか?」
「確か3月末ね」
「その日のことを覚えていますか?」
「えっ? 確か……記憶にあるのに覚えていない?」
やっぱりだ。
「早乙女莉子もです。
従姉妹として文通やチャットのやり取りをしていたと言いながら『記憶はあるのに覚えていない』と言いました」
花音さんはっとした顔をする。
「私も、入国審査の担当者も同じ……」
俺は頷いて続けた。
「莉子がそう言ったとき、俺はキャサリンが
『The memories haven’t fully settled in.』
と呟いたのを聞いたんです」
「『記憶の定着が甘い』って……記憶操作? でも入国審査のカメラの映像も……」
「それは、たった今、花音さんが『ありそうじゃない?』と言ったばかりです」
「キャサリンを調べ直さないと……いいえ、何を調べても完璧に怪しくないでしょうね」
「完璧すぎるのが、逆に怪しいんじゃないですか?」
俺はからかい半分に言ったが――
「その通りよ。
普通は記録を要求しても
『古い記録は残っていなくて』とか、
『バックアップにあるので時間がかかります』とか、
『もう倒産した会社なので記録がありません』
なんて言って、完全には記録が集まらないものなのに、キャサリン一家の記録はすぐに完璧に揃っている。
怪しいほどにね」
やっぱり、そうなんだ。
「ねえ花音さん、ついさっき『何一つおかしなところは見つからなかった』って言ったばかりです」
花音さんの顔が暗くなる。
「私の認識も操られているのかもしれないわね」
「俺、明日放課後にキャサリンと一対一で話してみます」
「そうね、お願いできるかしら。いつもの部屋を確保するわ」
俺はこのとき、あることに気づいていなかった。
花音さんのみならず、俺の周り全員があることに触れていないことに――。
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Scene017【キャサリン】
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次の日、授業中にキャサリンを観察するも、
ごく普通に授業を受けていた。
日本語のリスニングは完璧な様子で、
授業の内容は理解している。
たまに指名されて英語で答えると、それを俺が通訳した。
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昼休み、キャサリンは食堂で多くの生徒に囲まれていた。
流れ上、俺も付き合うことになった。
キャサリンはなるべく簡単な英語でコミュニケーションを取っていた。
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放課後になり、俺はキャサリンを指導室へと連れて行った。
『Where are we? What are we doing here?』
「ここは、指導室だ。防音がなされ、今は監視カメラの記録も止めている」
「なるほど、会話の内容を人に聞かれないってわけね」
驚いた、流暢な日本語だ。
「お前、日本語を……」
「あなただけに聞かせたい言葉があった場合、
ネイティブな早口の英語で言えば、
この学校で聞き取れる者はあと花音くらいよね」
「そのためだけに、日本語を話せないふりをしていたのか?」
「気を使った心の中の声は使えないからね」
えっ、知ってたのか!?
いや、それより――
「それはどういう意味だ?」
「あら? 気づいていなかったの? 耳を澄ませてご覧なさい」
言われて、耳を澄ませてみる……が、何も聞こえない。
そんなはずがない。
目の前のキャサリンが気を抑える技を持っていたとしても、
耳を澄ませて心の中の声を聞く能力を開放すれば、
隣の職員室にいる先生たちの心の中の声くらい、聞こえてくるはずだ。
「今、この世界では、その力はなくなっているわ。
世界の理が書き換えられているの。
もののけや鬼が出たようにね」
俺は確信した。
「君は俺を転生させた、あの自称“愛の女神”の関係者かい?」
「ええ、私はあなたの言う“愛の女神”が、
この世界に直接干渉するために埋め込んだインターフェイスよ。
“愛の女神”自身ではないし、“晴花”でもないわ」
最後に付け加えられた、俺の前世での最愛の娘の名前。
ここでその名が出たその意味は分からないが、
このキャサリンが、あの自称“愛の女神”によって、
何か目的があってここに遣わされたのだと分かった。
「それで、そのインターフェイスとやらが、何をしにここへ来たんだい?」
「今、この世界は崩壊の危機に晒されているの。
私はそれを知らせ、崩壊の危機を回避する手伝いのために来たのよ」
なっ、なんだって!
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Scene018【世界崩壊の危機】
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「なあ、キャサリン。
その世界の危機って、誰かが俺の愛を独占しようとしているって事か?」
思い出したのは、あの自称愛の女神が俺を転生させる時に言った言葉だ。
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『ただし、気をつけてください。この世界は、貴方が多くの女性を愛した結果に生まれたエネルギーで作られています。だから、貴方が多くの女性を愛せなくなった時、この世界を生み出すエネルギーもまた、生まれなくなります』
『そうなると、どうなる?』
『因果関係が維持できなくなり、この世界は完全に消滅し、二度と生まれません』
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もののけによって生まれた鬼は、この学校に所属する巨乳女子だけを狙っている。
もしも、巨乳女子がみんないなくなって誰か一人しか巨乳女子がいなくなったら、そいつは俺の愛を独占できると思ったのだろうか?
浅はかすぎる。
そんな状況で俺がその一人を愛するわけがない。
そもそも、こんな事ができるのは『高次元の観察者』だっけ。
そんな存在なんじゃないか?
あの自称愛の女神……いちいち面倒くさいな。
あれは“彼女”と呼ぼう。
「ええ、よく分かりましたね。
”彼女”は高次元の情報生命体で、
貴方の影響で自我を持った存在です。
そして今、この事態を引き起こしているのも、
貴方の影響で自我を持った別の高次元の情報生命体だと推測されています」
ちょっ、こっちは心の中の声が聞けないのに、
そっちはお見通しかよ。
それに俺が全ての事態の根源なのかよ。
「ごめんなさい、”彼女”は高次元の存在です。
この次元とは全く違う方法で観測していますので」
キャサリンは少しだけすまなさそうな顔をした。
「この世界は貴方を観測するために作られた世界。
貴方が全ての根源になってしまうのは必然です」
はぁ、必然かよ。
「それで、それは誰なんだ?
高次元から観測しているなら、分かっているんだろ?」
キャサリンは目を伏せた。
「ごめんなさい、それも言えません。
貴方がそれを知ってしまえば、周りの女性たちを自然に愛せなくなるかもしれません」
「そっか、それは世界の崩壊の危機だっけな」
キャサリンからは、これ以上情報は引き出せないようだ。
「申し訳ありませんが、私にできるのは、
貴方が愛している女性たちに危害が及ばないように守ってあげる事だけです」
「その割には多くの女性が被害に遭っているんだな」
俺は皮肉だと思ったが、言わずにはいられなかった。
洋子先輩は酷い目に遭っている。
「”彼女”はこの世界に直接干渉できません。
洋子さんの事件で事態を把握して、
この私を準備するのに時間が掛かってしまいました」
「そっか、すまないな。
由美子の時も手助けしてくれなかったから、
助けられなかったかもしれないんだよな。
これからは頼りにするぜ、魔法少女キャサリン」
俺はキャサリンに握手を求めた。
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Scene019【閑話】
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私はインターフェイスとして準備したキャサリンを通じて、晴道と話をする。
事務的な情報提供だけれども、心が躍った。
そして――。
「これからは頼りにするぜ、魔法少女キャサリン」
そう言われて、握手をした時。
キャサリンの手を通じて晴道の体温を感じた時、
これを独占したいと思った。
そうか、この晴道の世界に干渉していると思われる他の情報生命体も、こんな気持ちなのだろうか。




