ep006: その力、人外につき
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Scene018【花音】
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俺は職員室に着くと、すぐに花音さんを探した。
いた、授業の準備をしている様子もなく、席に座っている。
「花音先生、小泉晴道です。ご相談したい事があります」
俺は、気の中に強い意志の力を乗せて言葉を放った。
それに気づいた花音さんはスッと立ち上がり、教頭先生の所へと向かった。
「教頭先生、生徒と話したい事があるので、指導室を使っても良いでしょうか」
(部屋の予定を空けなさい。監視カメラも止めるのよ)
花音さんの強い気に言葉が乗せられ、教頭に向かって発せられる。
教頭はまるで夢遊病のように立ち上がると、監視カメラの端末を操作し、部屋の鍵を花音さんに手渡した。
「1時間で良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
花音さんがそう答えると、教頭は夢から覚めたような顔をして、自分の席に戻っていった。
「さあ、行きましょうか」
そう言う花音さんの心の中の声は、もう聞こえなかった。
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指導室は生徒のプライバシーを守るため、防音が徹底されており、窓も無かった。
何かが有った時のため、普段は24時間監視カメラで録画されているが、それも今は教頭自らの手で止めてある。
つまり、ここは密談に最適な空間だった。
「晴道君、貴方がそんなに慌てるなんて、何事かしら?
あんな気の力を使ってまで、合図をして」
「すみません、あれが一番早く花音さんに伝わるかなって……」
「それで、相談って?」
花音さんは話が早くて助かる。
俺は一刻も早く、由美子の元に行きたいのだ。
「気を使った、怪我を治す術の使い方を俺に教えてください」
その瞬間、花音さんの中から何かが溢れ出るのを感じた。
これが、花音さんの本気の気の力……。
「それは、貴方の秘密を全て話す気になったって事?」
「ごめんなさい、それはまだできません」
俺の前世の妻が誰だったのか、まだ思い出せない。
しかし、娘の名前は”晴花”だ。
晴道+花音。
花音さんがその第一候補だと考えるべきだろう。
だから、花音さんにはまだあの未来の事を知られるわけにはいかない。
未来が変わってしまい、晴花に逢えなくなる――俺にとって、それだけは絶対に避けなければいけない事態だった。
でも、そんなリスクを冒してでも、今の俺は由美子を助けたい。
その思いが勝っていた。
「まぁ、それは良いわ。
それで、私が貴方に術を教えて、私にはどんなメリットがあるの?」
「あの、それは……。
術を教えてもらえれば、花音さんのお願いをなんでも聞きます」
「あら、何個でも?」
「いや、あの……それは、できれば一つで」
花音さんはクスッと微笑んだ。
「ふふ、良いわ。
乗ったわよ。
貴方に気の使い方を教えてあげる」
「ありがとうございます!」
よし、これで由美子を救える。
『私とデートをしなさい』
「えっ、デートですか?」
「ふふ、やはり貴方は、気に込められた言葉を“見る”事ができるのね」
「えっ、ええっ!?」
「今の“デート”は私は言葉に発してないの。
気にそれを乗せて発しただけ」
「あっ……」
やられた。
やはり花音さんは一枚も二枚も上手だ。
「ふふ、デートはどこに行きましょうか?」
「えっ、それって本気なんですか?」
尋ねる俺に、花音さんは悪戯っぽく笑いながら答えた。
「当然じゃない」
その笑顔は、6歳年上の大人の女性とは到底思えないほど、とても可愛らしかった。
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Scene019【解放】
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「それじゃあ、始めるわね」
「はい、お願いします」
「貴方は気の力を知っている」
「はい」
そう、俺は前世で、気を扱う花音さんや、あの男のヒトを(名前は何だっけか)、そしてその彼女に出会っている。
その中で、俺が花音さんの遠い親戚にあたることも知ったのだ。
でも、それはまだ話せない。
「そして、貴方は私の遠い親類」
「えっ!?」
「なによ。
それくらい調べるに決まっているでしょ。
貴方は私たち一族の正体すら知っていたのだから」
厳密には、俺の前世の記憶とは食い違っている所も多いのだけれども、今は黙っておこう。
「貴方は気の治療を使った事があるのね。
……でも、今はまだ使った事がない、と。
あら、矛盾しているわね」
花音さんはしばらく黙り込み、俺をじっと見つめた。
「貴方、転生でもしているの? 二度目の人生とか?」
もう、俺は冷や汗をかくしかなかった。
「気の術はね、イメージさえ出来ればもう完成したも同然なの。
貴方にはもう、そのイメージがあるんでしょう?」
「はい」
そうだ。
俺は前世で、オリンピック直前に怪我をした由美子を気の力で治療した。
だから、今回もできるはずだ。
早く術を習得して、由美子の元に行かないと。
「あとは、今は閉じている気の回路を全開にするだけね」
「どうするんですか?」
「本当なら、深く深く気の交換をするんだけれども」
「それは……」
「セックスよ。
貴方の気を私の中に注ぎ込んでもらって、私の気を貴方に返す。
それで気の循環を起こして、気の回路が全開になるわ」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
前世での、花音さんとの交わりを思い出したのだ。
あの圧倒的なバスト、溢れる気の本流……。
「あら、貴方は私の身体を知っているのね」
「なっ、なっ、なんで……!?」
「ふふ、貴方が想像した私の身体が、あまりにも正確だったから。
貴方、結構考えている事がだだ漏れなのよね」
それは前世でも散々言われたことだった。
「貴方が漏らした気に、私の身体の記憶が乗っていたのよ。
いつ私と交わったのかしらね?」
「あの、それはまだ言えないんです」
「良いわよ、約束ですもの。
デート1回で、術を伝授してあげる」
「あっ、あの、デートは2回でも3回でも良いです!!」
花音さんの顔が、ぱっと明るくなった。
「本当!?」
その笑顔を見て、由美子のことで落ち込んでいた俺の心も少し温かくなった。
「じゃあ、早速始めましょ」
「えっ、セックスですか!?」
俺が慌てて言うと、花音さんの顔が真っ赤に染まった。
「ばっ、バカじゃないの!? さすがにここじゃダメでしょ!」
可愛い。
さっきまでの底知れない花音さんとのギャップがグッとくる。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
早く術を伝授してもらわないと。
「こうするのよ!」
花音さんはいきなり、俺の唇を奪った。
前世と違い、今世ではこれが俺のファーストキスだった。
花音さんの唇から、圧倒的な何かが流れ込んでくる。
俺の中で、何かが一気に開いていくのをはっきりと感じた。
唇を離したとき、花音さんが呆然と呟いた。
「なによ、この爆発的な気の本流……。
貴方、本当に人間なの……?」
確かに、俺の中で何かが強く溢れ出すのを感じていた。
俺は、あのとき“アレ”が言っていた言葉を思い出していた。
『貴方に、貴方が私にくれた力の一部を返します。
それは一人の人に与えるには大きすぎる力かも知れません。
気を付けて使うんですよ』
それが今、解放されたのだ。
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Scen020【実践】
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「ふふ、そんな人外の力があるなら、治療の術なんて簡単よ」
「そうなんですか?」
花音さんは不敵な笑みを浮かべると、袖口からどこからともなく一本のナイフを取り出した。
えっ、暗器? 忍者なの?
いや、そうだった。この人、正真正銘の忍者の末裔だったんだ。
ブシュッ!
花音さんは何の躊躇もなく、そのナイフで自らの腕を切り裂いた。
「なっ、何するんですか!?」
花音さんが、血の溢れる白い腕を俺に差し出してくる。
ダメだ、ダメだ、花音さんの柔肌に傷を残すなんて絶対にダメだ!!
俺は必死にそう念じながら、花音さんの傷口に向けて気を送り込み続けた。
「はっ……晴道、もう良いわよ……」
息を荒くした花音さんに言われ、俺はふと我に返った。
花音さんは自らの腕を眺め、信じられないものを見るようにため息をついた。
「傷どころか……出血も消えたわ」
「えっ?」
確かに、先ほどまで溢れていたはずの血は、綺麗さっぱり消え去っていた。
「これじゃあ治療じゃなくて、まるで時間逆行よ」
「……」
「晴道、貴方……世界の理すら超えているわよ」
“アレ”の力が俺の中に入っているのだとしたら、そんな理不尽な力も不可能ではないのかもしれない。
でも、由美子が救えるなら、それで良いじゃないか。
俺はそう考えた。
「花音さん、本当にありがとうございます!
俺、今から由美子の所に行ってきます!」
そう言って、俺は勢いよく指導室を飛び出した。
だから、後ろで花音さんが、
「由美子って……里塚由美子!?」
と驚愕したようにつぶやいたのを、俺は聞いていなかった。
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Scene021【戦慄】
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これは、晴道が聞くことのなかった花音の呟き。
重大なことながら、晴道が知る由もなかった事実――。
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私、一ノ瀬花音はある重要な監視任務を持って、この高校に臨時教員として来ている。
対象は、小泉晴道、如月千紗、里塚由美子。
それに、その母親たち。
――すべて、私たち一ノ瀬の血を引く者。
晴道と私の偶然の出会いから調査を行い、発覚した血の集まり。
何かが始まる予感に突き動かされて、私はこの地に来ている。
先ほどの、晴道の人外な気の本流。
そして、あの治療。
晴道は必死に祈るように目を閉じていて気づかなかったが、あの時、私の腕から流れ出ていた血は刻一刻と巻き戻り、傷口が次々と消えていったのだ。
それはまるで、ビデオを逆再生しているかのようだった。
その晴道の気を、同じく一ノ瀬の血を強く引く里塚由美子が受け取ったら?
一体、何が生まれてしまうのか……。
私はその恐ろしい予感に、戦慄を覚ええずにはいられなかった。
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Scene022【閑話】
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――俺、小泉晴道は、最愛の娘である“晴花”と、妻の○○さんと一緒に買い物に来ていた。
晴花ももう5歳。今が一番可愛い盛りだ。
しかし、買い物の途中で俺は妙な胸騒ぎを覚えた。
目つきのおかしな男が、何やらブツブツと独り言を呟きながらこちらへ歩いてきていたのだ。
万が一に備えて、俺は晴花と妻を男とは反対側に歩かせる。
「ねえ、パパあれ見て!」
そんな晴花の無邪気な声に一瞬だけ気を取られた、その瞬間だった。
「おらぁ! 幸せそうな奴は死ねや!!」
先ほどのおかしな男が、狂気を孕んだ声を上げて突進してきた。
俺は咄嗟に、晴花と妻の前に立ちはだかる。
次の瞬間、ブスリ、と俺の腹に凄まじい灼熱が走った。
「おらぁッ!」
俺は渾身の力を込め、その男を殴り飛ばす。男はそのまま地面に叩きつけられて昏倒し、気を失ったようだった。
「あなた……!!」
妻の悲痛な叫び声が、どこか遠くの方で聞こえた。
その時になって、俺は自分の腹に、大きなナイフが根元まで深く突き刺さっていることに気がついた。
視界が急速に狭くなっていく。
そして、俺の意識は深い闇へと落ちていった。
今回、晴道が思い出したのは
前作
三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで
【第10話】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音
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となります。




