ep001:その親子、似た者同士につき
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Scene001【平穏な日々】
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早紀はストーカー事件の後も俺の部屋の真上に住み続けている。
早紀は父親を早くに亡くし、母親と二人暮らしだった。
それで年上の出納に優しくされ、俺の面影だけでなく、父親の影を見て惹かれてしまったのかもしれない。
それは、あくまでも俺の想像に過ぎないが。
そして早紀は母子家庭で育ったので、控えめでなんでも我慢してしまう、大人しい子になったのだろう。
そんな早紀が初めて母親にわがままを言った。
「こっちの学校に通い続けたい」
あまりに真摯な娘の願いに母親は決断をする。
元の部屋も賃貸で、出納の親から多額の慰謝料が即金で支払われたのも後押しをした。
挨拶に来た早紀の母親の栞さんは、早紀に似た上で、
どこか薄幸な雰囲気を醸し出す美人だった。
大人の男性なら守りたくなってしまうだろう。
というか、前世の影響で精神年齢が上の俺だって、
早紀がいなければどうなっていたか分からない。
だって、ロリ可愛い早紀と違い長身美人だし。
もしもの話だが、出納が早紀に入れ込む前に、
何かのきっかけで栞さんと会うようなことがあれば、
栞さんに惹かれ、早紀の父親代わりになっていたかもしれない。
俺は出納のやったことは許せないが、
花月さんの報告を読む限り、
出納は早紀以外の女生徒には非常に誠実で評判が良く、
面倒見が良くて優しい先生だったのだ。
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こうして、俺は平穏な日々を過ごすことになる。
八人の美女美少女と毎日過ごし、土日祝日は日替わりでデートをすることを平穏と言うならばだが。
ちなみにデート費用は年上の女性とは折半。
同級生たちの分は俺が出している。
俺は霞の者の人たちに何度も助けられたお礼に、
霞の者の作戦に何度か参加をしている。
俺はお礼のつもりだったので、『手当なんて要らない』と主張したのだが、一般的なサラリーマンを超える給料が支払われた。
『労働には正当な対価が必要なのよ。
危険手当、技術手当、実績に対するボーナスを考えたら、まだまだ安すぎるくらいだわ』
花音さんはそう言った。
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そんなわけで、霞の者の定例ミーティングに参加していた俺は、ミーティング終了後に守さんに食事に誘われた。
「晴道が未成年でなければ飲みに、という所なんだがな」
連れて行かれたのは、街の定食屋。
守さんに似合っていた。
守さんはビールを飲み干し、切り出した。
「晴道、女性をデートに誘う方法を教えてくれないか?」
いや、俺の場合、デートは相手から誘われることが大半で、自分から誘うことは滅多にないんだけれどもな。
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Scene002【引っ越し作業】
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これは守が晴道を食事に誘う、少し前の話。
水野母娘が引っ越しを決断した時、霞の者は全面的にバックアップした。
霞の者には全く関係のない話なのに。
「これも、何かの縁よ」
花音さんはそう言って、校長にも掛け合う。
早紀の件はストーカー対策の一時的なものではなく、正式な転校として受け入れさせた。
そして、あの短期専用賃貸だった部屋もオーナーに掛け合い、長期契約を取り付けた。
それどころか、古くなっていた家電製品を自費で買い替えさえしてしまったのだ。
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
そう訊ねる早紀に、花音さんは答えた。
「だって、愛人No.1とNo.2で、一緒に晴道に愛された仲じゃない」
「えっ!?」
驚く早紀に、花音さんは告白したのだ。
「私も前世の記憶を持っているのよ」
「やっぱり、そうだったんですね」
深く納得する早紀だった。
そして花音さんはこう切り出した。
「ねえ、晴道。前世と同じく、早紀と私、同時に愛してくれない?」
「「えっ?」」
早紀と俺の声が重なる。
しかし、早紀の決断は早かった。
「「晴道は嫌?」」
今度は花音さんと早紀の声が重なる。
俺に拒否権などあるはずもなかった。
俺は今世で初めて、女性二人同時の経験をしたのだった。
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水野母娘の引っ越し作業も霞の者が行なった。
家具が備え付けとは言え、細々とした物や衣類などはある。
不要になる家具や家電の廃棄だって必要だ。
花月さん、守さん、鈴木さん(そう言えば、未だ下の名前を聞いていなかったな)といういつものメンバーに俺を加え、前の部屋へ訪れる。
「今回は本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる栞さんに、花月さんが答えた。
「いえいえ、これも何かの縁ですから」
栞さんには『新しい学校で世話になっている先生(花音さん)が同じマンションに住んでいて、花月さんたちはその親類』ということになっている。
うん、何一つ嘘はない。
その横で、守さんがフリーズしていた。
どうしたんだ?
俺は耳を澄ませる。
(なっ、なんて美しい人なんだ……!)
あっ、前にマンションへ栞さんが挨拶に来た時、守さんは居なかったんだっけ。
そして、鈴木さんもその変化に気付いた様子で、こう考えていた。
(隊長、いつも出動待機ばかりで女っ気が全く無かったもんな。これは全力で応援しないとな!)
さらに花月さんからも心の中の声が届く。
(晴道! 全面的バックアップよ!!)
うん、守さんは愛されているな。
「私、斉藤守! 本日は栞さんのため、精一杯頑張らせていただきます!」
守さん、硬い、硬いよ。
それに『栞さんのため』って言っちゃってるし!
「はい、何卒よろしくお願いいたします」
(素敵な殿方……優しくて、頼りがいがありそうで、逞しいお体。こんな方に抱きしめられたりでもしたら……ぽっ)
(この前は気付かなかったけれど、パパの写真に似ているかも……)
その日、守さんは一人で大活躍を見せ、栞さんの視線は実に熱かった。
……えっ、これバックアップの必要なくね?
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Scene003【デートの誘い】
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話は晴道が守に相談を受けた時に戻る。
「あー、誘い方も何も、普通に誘えば良いと思いますよ」
栞さんでしょ?
絶対断らないし。
「そうか、そうなのか!
実はな、温水プールの宿泊付きチケットを二部屋準備しているんだ。
栞さんを誘いたいんだ。
早紀ちゃんも一緒なら、来てくれるかもだろ!
晴道、付き合ってくれ!」
「ま、守さん!? は、早いよ!」
思わず素でツッコミを入れる。
「そうか?『普通に誘えば良い』んだろ?」
いや、話には限度ってものが……。
「男なら、当たって砕けろって言うしな」
これ、俺に相談する必要あったのか?
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意気揚々とマンションに向かう守さん。
マンションに着くと何の迷いもなく、三階の水野家の部屋へと向かう。
ピンポーン。
モニターで確認したのか、返事もなくドアが開き、
栞さんが顔を出した。
後ろには早紀もいる。
「守さん、どうなさいました?」
栞さんの顔が赤い。
しかも名前呼びだし。
(守さん、今日も素敵です……こんな時間にデートのお誘いだったら、どうしましょう? お化粧だってしていないのに……)
栞さん、すっぴんでも十分魅力的ですよ。
そのどこか儚げで薄幸なイメージには、すっぴんの方が似合っていますよ。
って、そんなことは今関係ない。
これ、もう落ちてるよね?
でも、いやいや、こんな時間からデートって、守さんそこまで非常識じゃないから。
いや、いきなりお泊まりの誘いって、それ以上に非常識か?
両者へのツッコミが止まらない。
「実はこの不肖、斉藤守、栞さんをデートに誘いに参りました!」
この人『デート』って言っちゃってるし!
「はい、ありがとうございます」
(はい、ありがとうございます)
って即答かい!
しかも表の声と心の中の声が完全一致。
(ああ、ママらしい……)
あれ、早紀はいつもの『お母さん』って呼んでなかったっけ?
「実は、温水プールの宿泊付きチケットを二部屋準備しておりまして。
栞さんと早紀ちゃん、私と晴道で一緒にいかがかと、思いまして」
この人『準備しておりまして』とか言ってるよ。
ここは建前でも『たまたま貰いまして』とか言う所だろ!
「えっ、本当ですか! うれしい、是非行きたいです!」
そっちも即答かい!
(えっ、もう抱いて貰えるの? 夢が叶うの?)
もう夢見てたんかい!
つーか、この状況なら部屋は、栞さんと早紀、俺と守さんの組み合わせだろ!
いかん、心の中のツッコミが止まらなさすぎる。
というか、栞さんの心の中の声って、
耳を澄ませなくとも聞こえてくるし、早紀そっくりだ。
「それでは、守さん、お上がりください。詳しい日程とかお話ししましょう」
それに決断力といざという時の積極性も早紀そっくり。
この娘にしてこの母親ありか。
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Scene004【母の幸せ】
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「じゃあ、ママ、私は外で少し晴道くんと話しているね」
早紀はそう言って、外に出てきた。
「分かったわ。
ところで早紀、この先、予定の埋まっている週末とかある?」
「特にないわよ、ママの好きにしていいよ」
これは行く行かないの選択権も含めての話だな。
「守さん、俺もいつでも大丈夫です」
いや、逆に全部の土日はデートの約束で埋まっているのだが、
何か他の予定が入れば即キャンセル延期ってのが大前提のお約束になっているから、大丈夫なのだ。
「そうか、ありがとう」
パタン。
二人はそうして話し合いを始めた。
「ごめんね、晴道くん、ママがあんなで」
とりあえず、ここは突っ込んでおこう。
「栞さんのこと、いつもは『お母さん』って呼んでいなかったっけ?」
それに対して早紀はこう答えた。
「だって、今のあの人は一人の恋する女性で、母親って感じじゃないでしょ」
「はは、そうだな」
「早紀は栞さんにそっくりなんだな」
「えっ? 私、ママみたいに背は高くないし、美人じゃないし」
(おっぱいが大きいってところは似ているかもしれないけれど)
えっ! そうなの?
栞さんも脱いだらすごいの?
長身巨乳美人ってもろ俺の好みドストレートじゃん。
って、そこじゃなくて。
「決断力が早くて、いざとなるとすごい積極的なところがさ」
「そっ、そうかもしれないね」
「そうさ、この前花音さんに『二人で』って誘われた時も、すぐに決断して、積極的に迫ってきたじゃないか」
(なっ、なに思い出させているのよ!)
早紀は真っ赤になって俯いてしまった。
「ママのね、決断力が早くて、いざとなるとすごい積極的なところはいつもなの。
あっ、いつものって、男女関係とかじゃないのよ」
「はは、分かっているよ」
「お母さんにもね、良い縁談や良い雰囲気の男性もいたの。
でもお母さんはね、縁談も告白されたりしても、すぐに決断するの。
『あの人の忘れ形見のこの子は、私が一人で1人前になるまで育てます。だからそれまでは自分のことは考えません』って。
お父さんはね、私がまだ小さな頃にガンで死んじゃったの。
その時にお父さんと約束したみたい」
そっか、それであんな美人が独り身なんだ。
「でもね、私がもう高校生になって、護ってくれるいい人を見つけてきたから、『もう自由になってもいいんじゃないか』って、ママ自身が思えたみたい。
晴道くんのことよ?」
そう言って俺を見上げる早紀は可愛らしく、俺はここがマンションの廊下だということも忘れて、早紀にキスをした。
キスを終えた早紀は赤い顔で続けた。
「でもね、ママが積極的なのは恋愛に関してもみたい」
「今を見れば分かるよ」
「お父さんはね、ママの高校三年の時の担任教師だったの。
いつまで経っても進路が決まらないママを心配して相談に乗っている間にね、男女関係になっちゃって、卒業前に私を妊娠しちゃったの。
それで高校を卒業したら、できちゃった結婚」
「そうなんだ。俺の沙織母さんも在学中に俺を妊娠しちゃって、卒業してすぐに結婚したんだけれども、大学の時だったな。
苦労したから、『避妊はするのよ』ってよく言うよ」
「私のママは狙って、私を妊娠したみたいよ」
「なっ、なんだってぇ~~~!」
俺は思わず声をあげてしまった。
「ふふ、でもね、お父さんもお母さんも幸せだったって」
そうだ、そうでなければ、こんな素直で控えめな娘に育つわけがない。
「だからね、まだ三十五歳のママにはこれから、母親じゃなくて、女として幸せになってほしいの」
「守さん、確か今三十五歳だった気がする」
「「同い年? 運命かもね」」
俺たちの声が揃ったその時に、俺たちのスマホにLINEの着信があった。
「「再来週の週末に決定だってさ」」
また俺たちの声が揃った。
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Scene005【閑話】
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パパを見守る私は、パパの近くにいる母娘に注目していた。
娘を想う母の心、母を想う娘の心——。
何度観察しても心打たれ、感動というエネルギーが生まれる。
そこでふと思う。
私にとって晴花とは何なんだろう。
まるで自分の娘のように見守っている。
愛するパパの娘。
パパの愛する人が懐妊する度に、
私の一部を分け与えてきた存在。
それは、魂を分け与えるのと同じ意味だ。
そしてパパが亡くなり、世界を終わらせる度に、
その魂を回収してきた。
それを何度も何度も繰り返す中で、
私の中の晴花は大きくなっていく。
それは、私が晴花になっていっているということなのかな?
私にとって晴花とは何なのだろうか?
その答えを、私はまだ知らない。




