ep002:その再会、運命につき
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Scene005【記憶】
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「さて、座席ですが、一番後ろに席を追加していますので、今日のところはそこに座ってください」
それは、俺の斜め後ろだった。
そして隣は京子なので、京子の後ろということになるな。
その時、京子が手を挙げた。
「先生!」
「なんでしょうか、中里さん」
「私が後ろに下がるので、水野さんはこの席でもよろしいでしょうか?
私が後ろから様子を見て、何か分からないところがありそうだったりしたら、すぐに声をかけられるので」
さすがは京子だ、面倒見が良い。
(晴道の隣を独占できないのは残念だけれども)
俺は窓際なので、確かに隣の席は一つだけだ。
(授業中ずっと、大好きな晴道の後ろ姿を見ていられるのも良いかも!)
心の中の声を聞く能力を”オフ”にするようになってからも、京子の心の中の声だけは防ぎきれなかった。
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京子の机には私物や教科書が入っているので、机ごと入れ替える必要がある。
俺は席を立って手伝った。
「ありがとう、晴道」
(ああ、晴道、優しい……。晴道、晴道、大好きよ)
うん、京子の心の中の声は相変わらずだ。
「あっ、私も!」
早紀が小走りにやってきた。
「大丈夫、もう終わったよ」
「ありがとうございます」
そう言った早紀と目が合った瞬間──。
(晴道くん……! なんで? だって晴道くんとは大学で……。でも、あれは私の妄想じゃ……。でも大学で会ったら聞きたかった。あれは前世の記憶なの?)
そんな強い心の中の声が聞こえてきた。
そうだ、早紀は前世で愛を交わした最後の一人。
俺が立てた仮説。
『俺を知ったり会ったりするのがきっかけで、前世で交わした愛を起点に前世の記憶が蘇る』
それが正しいなら、早紀がドラマに出演している俺を見て、記憶が蘇っていてもおかしくない。
でも、今は記憶について触れないでおこう。
「初めまして、水野さん。俺は小泉晴道。これからよろしくね」
すると早紀は、真っ赤になって俯いてしまった。
(あの初めての時、晴道は優しく私を……。あの時は朝まで激しく激しく……)
って何を思い出しているんだよ!!
ふと気づくと、クラスメイトの大半が後ろを振り返り、こちらの様子を窺っていた。
((晴道がもう”落としている”……そうなるよな))
男子の強い心の中の声が重なり、
((はぁ、晴道だもん、仕方ないよね))
女子の強い心の中の声が重なる。
そして──。
(もう落としてる!! 席を譲ったの、失敗したかも!!)
京子の心の中の叫び声が響いた。
いや、誤解だ。
落としたのは大学に入ってからであって……。
あれ? 誤解じゃないのか?
前世の影響で出会う前から落としてる!?
この時俺は、クラスメイトの”強い心の中の声が聞こえている”ことで、少し思い違いをしていた。
俺は、心の中の声を聞く能力を意図して”オフ”にしているんだと思っていた。
でも本当は違ったのだ。心の中の声を聞く能力を意図して”オン”にしていなかったのだ。
心の中の声を聞く能力を意図して”オンにせずとも”、強い心の中の声は”聞こえてしまっていた”ということ。
心の中の声を聞く能力を意図して”オンにしないと”、普通の心の中の声は”聞こえない”ということなのだ。
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Scene006【対策】
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水野早紀は小柄で、大人しくて、控えめ。
なのに脱いだら凄いし、いざという時は積極的だ。
俺はそのギャップにやられた。
今日は始業式で、簡単なオリエンテーションだけで授業もなく、帰宅となる。
そこで、俺は花音さんに早紀のことを相談することにした。
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俺は花音さんと生徒指導室に入った。
「どうしたの晴道、改まって」
俺は今まで聞けなかったことに踏み込むことにした。
「花音さん、前世の記憶が蘇っていますよね?」
「ええ、そうよ」
「それは、洋介父さんのインタビューの日に俺と会ってからですか?」
「ええ、それに貴方のことを調べた時にね」
「やっぱり」
「それに、和也との記憶もね」
それは、和也さんと愛し合った記憶だろう。
俺は少し嫉妬した。
俺は頭を振り払い、記憶が蘇る仕組みの仮説を花音さんに話した。
「なるほど、理屈は通るわね。
千紗ちゃんと由美子ちゃんに記憶が蘇らないのも」
「あの、美由さんは?」
そう。この仮説から考えたら、美由さんに記憶が蘇っていてもおかしくない。
「あら、美由は和也の彼女だったのよ。
あの一晩のことくらいで、魂が繋がるほど愛し合ったと思った?」
あっ、そうか。美由さんとは一夜限りの関係だった。
それにしても……。
「魂が繋がる?」
「そうよ。前世の記憶を共有するくらいの関係よ。
魂が繋がっているのよ」
それは、花音さん独自の解釈かもしれない。
それでも、納得のいく考え方だった。
「それで、この話を切り出した理由は何?」
そう、早紀のことを話すのに必要だったんだ。
「今日、転入してきた水野早紀って知っていますか?」
「ええ、こんな時期に珍しいわね」
「彼女は、俺と愛し合った記憶を持っています」
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「水野早紀、愛人枠NO.2」
花音さんは目を見開いた。
「思い出したんですね」
「ええ、一緒に貴方に愛してもらったわ」
花音さんはどこか懐かしそうな顔をしたが、
いや、未だ未来の話なんだ。
いつもながら、ややこしいな。
「それで、早紀がどうしたの?」
「転入してきた理由って知っていますか?」
職員の方々は情報を持っているんだろうか?
「いえ、職員会議では『母親の仕事の都合』としか言われなかったわ」
やっぱり、そうか……。
「早紀は、ストーカーから逃げてきたみたいなんです」
心の中の声だ。間違いない。
「なるほど、調べてみるわね」
こうして、水野早紀ストーカー対策は秘密裏に始まった。
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Scene007【そこに居る】
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花音さんとの話も終わり、
部活もなかった俺は自宅へと帰った。
マンションのエントランスで、ばったりと鉢合わせたのは早紀だった。
「えっ、晴道くん!」
(なんで、晴道くんはあのシェアハウスに……あっ、あれは大学時代の記憶)
「早紀……、水野さん!」
「水野君、こちらの方は?」
早紀の隣にいた若い男性が早紀に声をかけた。
「あっ、こちら小泉晴道くん。今日から通っている学校のクラスメイトです」
「ほう、それでもうお互いに名前呼びか」
その男性が少しからかうような調子で言った。
親類かと思ったが、『水野君』と呼んでいたな。
「晴道くん、こちらは出納先生。前の学校のクラス担任だったんです」
早紀が親しげに紹介してくれた。
しかし、クラス担任を紹介するには……
いや、これは俺の嫉妬か。
(あっ、晴道くん誤解したかも。説明したいな。このあと時間あるかな?)
うん、いざとなったら意外と積極的なのが早紀だった。
「それじゃあな、水野君。
何かあったら連絡くれたまえ」
「あっ、はい、出納先生」
その男性はマンションを出て行った。
「あっ、あの、晴道くん、このあと時間ありますか?」
「ああ、大丈夫だよ」
ちょうどいい機会だ。
色々と聞きたいこともあるしな。
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Scene008【前世】
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早紀は俺を部屋へ招き入れた。
部屋は3階だった。
しかもうち(小泉家)の真上。
あれ? この部屋って確か……
「晴道くんがこのマンションに住んでいたなんて、
びっくりです」
「ああ、この真下の部屋なんだよ」
「えっ、そうなんですか!」
(これって運命!!)
まるで誰かに仕組まれたような。
俺、ラブコメの主人公だっけ?
「さらにもう一つ下が千紗の部屋なんだ」
「えっ? 千紗ちゃんの?」
「千紗のことをいつ知ったの?」
そう、今日初登校だ。千紗を知る機会はなかったはずだ。
「あっ!」
「早紀、前世の記憶があるね」
「はい。ドラマで晴道くんを見たら、頭の中に記憶が溢れてきて……晴道くんと……」
(抱いてもらっていた)
「私の妄想かと思っていました」
早紀は赤くなって俯いてしまった。
「俺にも前世の記憶がある。
だから、早紀のことも思い出した。
あのシェアハウスで、みんなと一緒に楽しく過ごしていた」
俺にとって、一つ前の前世ではなく何回か前の記憶だが、早紀にとってはどうなんだろう?
「はい、とても幸せでした」
「俺にとって、早紀は大切な人だ。
だから、何でも相談してほしいんだ」
早紀は小さく頷く。
「俺はこの部屋のオーナーを知っている。
家具を揃えて、短期専用賃貸に出している」
運用を開始するときに、周りの部屋に説明に来ていた。
「親の仕事の都合っていうのは嘘だよね」
心の中の声でストーカーのことも知っているが、
それを口に出すわけにはいかない
「実は私!」
(助けて晴道くん!!)
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Scene009【ストーカー】
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「初めはね、ちょっとした違和感だったの」
早紀は話し始めた。
「鉛筆が足りなかったり。
上履きが記憶と違う向きになっていたり」
早紀は俯いてしまった。
「でも段々と、おかしなことが起こりだしたの。
体操服が見当たらなくなって、
見つかったと思ったら、
変なシミが付いていたり」
(気持ち悪い)
それはかなり、やばい。
警察は動かないのか?
「出納先生が私の様子に気付いて相談に乗ってくれて、
学校の監視カメラの映像をチェックしてくれたりもしたけれど、何も見つからなくて」
あのさっき会った若い男か。
「そのうち変な手紙も届くようになって」
「どんな?」
(いやらしい、気持ち悪い)
早紀の顔色が悪くなった。
「ごめん、話さなくていい」
「それで、出納先生が警察に相談もしてくれたのだけれど、まだ事件性がないから警察として動くのにも限界があるって」
確かにストーカー規制法は犯人に対しての法律だから、
見えない犯人には動きづらいか。
「そのうち、出納先生が怪しい人影を見かけるようになって……」
「人影ってことは、顔とかは見てないわけだ」
「若いのか、年配なのかも分からなかったって」
手掛かりなしか。
「お母さんも家の周りで怪しい人影を見たって。
だから少しの間だけ別の学校に通って、
その怪しい人影がどう動くか見てみようって話になったの」
何か違和感がある。
早紀が一人無防備になるじゃないか。
「この部屋は?」
「晴道が通っている学校の校長先生が、私の通っていた学校の校長と知り合いらしくて。
3学期の間だけこっちに通ってみて、ストーカーがどう動くか見てみようってことになったの」
「それって、ここにいる間、早紀が無防備なんじゃないか?」
「だから出納先生は、私がここに住むのは周りに秘密にしようって。
それで、出納先生がちょくちょく見に来てくれるって言ってくれたの」
「ずいぶん出納先生のことを信頼しているんだな」
これは嫉妬か?
「優しいし、ストーカーのことも真剣に考えてくれて」
担任の先生なら、それくらい普通なんじゃ?
「少しだけ、晴道くんに似ていて」
それはとても小さな声だった。
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なんだか、無理のある対策な気がする。
少なくとも、このマンションにいる間だけは俺が守ろう。
マンションにいる間はなるべく一緒にいよう。
俺はそう決めた。
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Scene010【閑話】
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私、水野早紀は引っ込み思案で人見知りなので、
高校に入ってから、なかなか周りに馴染めなかった。
そんな時、優しくしてくれていたのは担任の出納先生だった。
入学して、担任の先生として初めて会った時、
私は少しだけ胸がトクリとした。
なぜかは分からなかった。
もしかして、私は出納先生のことが好きなのかなとも思った。
そして、出納先生は優しくて親切だった。
とても面倒見が良かった。
私は少しだけ、出納先生に甘えていたかもしれない。
夏休みには個人的に出納先生と会ったりもした。
少しだけ胸がドキドキした。
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二学期が始まり一ヶ月ほど経った時に、たまたま目にしたドラマで、ある男性を見て胸が張り裂けそうになった。
思い出した、晴道くん、私の最愛の人。
でも、それは私が大学生の時の記憶。
えっ、私はまだ高校生。
未来の記憶?
もしかして、前世の記憶?
それとも私の妄想?
深く深く愛し合った記憶。
そして次の日、高校に登校して気づいた。
出納先生は、少しだけ晴道くんに似ているんだ。
だから胸が少しだけときめいたのかな?
たぶんその日から、私の出納先生への接し方は少しだけ変わった。
晴道くんを思い出してしまったら、
もう他の男性にはときめかなくなってしまったから。
それからしばらく経った時だった。
あれ、鉛筆が足りない?
それが違和感の始まりだった。




