ep001:その悲鳴、切実につき
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Scene001【参拝】
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俺にとっての激動の一年が終わろうとしている。
そして今、ここ数年恒例となっている年越し参拝に向かっているのだが……。
一つだけ、恒例でないことがあった。
あきらかに人数が多いのだ。
小泉香織
如月千紗
阪本梨子
里塚由美子
早乙女莉子
一ノ瀬花音
中里京子
橋本花月
島村千鶴
(敬称略)
これは俺と出会った順だ。
他意はない。
って、なんで全員揃っているんだよ!
あのループを抜け出しても、俺の生活は何も変わらないのか?
しかも、全員が艶やかな着物姿だった。
花音さんが全員分の着物を手配し、
着付けまでしてくれたのだという。
「レンタルよ、レンタル」
花音さんはそう言うが、どう見ても一級品だ。
普通のレンタルじゃないことくらい、見れば分かる。
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着物姿の着こなしは、やはり花音さんが抜きん出ていた。
単に着慣れているだけでなく、佇まいからして全く違うのだ。
普段なら(ふふん、どう?)なんて心の中の声が聞こえてきそうなところだが、それすらなかった。
花音さん、自分が確実に勝てる土俵に引きずり込みましたね。
でもね──。
(着物姿だと、せっかくの巨乳のメリットが消えちゃいますよね!)
あえて、こちらの心の声を聞こえるように放ってみた。
((うっ、それは……!))
案の定、花音さんと千紗の心の中の声が綺麗にハモった。
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境内に着き、皆で横一列に並んでお祈りをする。
香織姉さん
(晴道との仲が進みますように)
莉子
(神様、お願い、私にチャンスをください)
京子
(晴道のことをずっと見守っていられますように)
千鶴
(助演女優賞を取れたら、晴道と旅行に行くの)
こういう時、皆の願いが丸聞こえなのは、やっぱりよくないよな。
今度花音さんに相談したら、心の声を聞こえなくする方法も考えてくれるだろうか。
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参拝の後、俺たちはみんなで
綿菓子だ、たこ焼きだ、りんご飴だ
と、いつも通り騒がしく賑やかな時間を過ごした。
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Scene002【逆転の発想】
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この年の年末年始は曜日の並びの都合上、
始業式は遅く、1月11日になっていた。
この冬休みは忙しかった。
なにせ九人もの女性が代わる代わる俺の元を訪れるのだ。
だが、幸いだったのは、花音さんに心の中の声をシャットダウンする方法を考えてもらえたこと。
それは、逆転の発想だった。
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「聞かないようにするから、難しいのよ」
「と言うと?」
「例えば『聞かない』と言われて、何を思い浮かべる?」
花音さんの教え方はまるで授業のようだ。
俺の好きな先生の教え方だ。
(俺が好きな先生だなんて……!♡)
「”耳を手で塞ぐ”ですかね?」
「それで、心の中の声が届くのを防げる?」
「無理です」
俺は即答した。
「イメージできない術は完成しないわ」
「なるほど」
「じゃあ『盗み聞き』と言われたら?」
俺は少し考えて、答えた。
「”耳を澄ませる”ですかね」
「それじゃあ、人の心の中の声を聞くことに、
その”耳を澄ませる”イメージを強く強く重ねあわせてみて」
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「あっ、より遠くの人の心の中の声まで聞こえるようになりました」
(一瞬で実現するなんて、凄すぎるわ……)
「良いわね。じゃあ、その”耳を澄ませる”イメージを止めてみて」
「はい……。
あっ、心の中の声が聞こえなくなりました」
「凄いわね。
じゃあ、今から気に想いを乗せるわよ」
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・
「何も聞こえません」
「もう一度」
(晴道大好き!!!)
「聞こえました!」
内容は黙っておく。
「強い想いのこもった気は防げないみたいね」
花音さんは少し顔を赤くしている。
可愛い。
「それでも、凄い進歩です」
そうして俺は、少しばかり静かな世界を手に入れたのだった。
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Scene003【転校生】
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三学期の始業式の日、俺は花音さんに深く感謝していた。
これまでの始業式の日といえば、
浮かれまくった周囲の心の中の声が響き渡り、
やかましくて仕方がなかったのだ。
しかし、今日は静かだった。
(晴道、今日も格好いい。久々に独占できて嬉しいわ。好き好き、大好きよ)
──京子の心の中の声だけは、防ぎきれなかったけれども。
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やがて、担任の先生が教室にやってきた。
「あー、皆さん久しぶりです。
良い年末年始を過ごすことはできましたか?」
先生は生徒たちの顔を見回す。
「それでは今日は、皆さんに転入生を紹介します」
「えっ、こんな時期に?」
「可愛い子だといいな」
教室が一気にざわつく。
「それじゃあ、入ってきてください」
「失礼します」
入ってきたその顔を見て、俺は前世の記憶が浮かび上がる。
「水野さんです。
中途半端な時期ですが、ご家族の仕事の都合で転校してきました」
「はじめまして、水野早紀です。
今ご紹介いただきましたように、母の仕事の都合で転校してきました。
これからよろしくお願い致します」
それは、何回か前の前世で愛し合ったことのある女の子だった。
前世では大学に入ってからの同級生。
そして、由美子と結ばれた前世では、
花音さんと並んで俺の「愛人枠」を名乗っていた相手だ。
しかし、問題はそれだけではなかった。
(お母さんの仕事の都合なんて嘘。本当は姿の見えないストーカーから逃げてきたの。怖いよ、誰か助けて……!)
そんな、悲鳴のような心の中の声が届いてしまった
事だった。
これは、無視するわけにはいかないだろう。
助けないと。
でも、どうやって?
本人が秘密にしていることなのに。
どうやら、俺の人生に”平穏”という文字は存在しないみたいだ。
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Scene004【閑話】
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ここで、晴道が思い出した水野早紀の記憶を紹介しよう。
晴道が大学に進学したものの、芸能活動で周りが騒がしかった頃のこと。
大学では、こんな会話が繰り返されていた。
「ねえねえ、小泉くん。デート特集の雑誌、見たよ? 今度、私も連れていってよ」
「あれは仕事だって。普段はあんなところ行かないから」
その中で、同じ学部の女子たちの間で一歩リードしている存在がいた。
それが水野早紀。
晴道がモデルの仕事で講義を抜けた日には、彼のために丁寧にまとめたノートを作り、さりげなく渡してくる。
控えめで、落ち着いた雰囲気の彼女は、晴道にとって心地のいい存在だった。
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それより少しばかり後、晴道と千紗がようやく付き合うようになった頃。
晴道と千紗が学食で昼ごはんを食べていると、
向かいから水野早紀がやってきた。
水野早紀は晴道と同じ文学部。
少し控えめで、でもどこか一生懸命な雰囲気の女の子だ。
「小泉くん、この前の授業のノート」
「あ、早紀ちゃん、ありがとう。ほんと助かるよ。
高橋教授ってさ、実験ってなると授業があるって言っても無理やり呼び出すから。
……あ、早紀ちゃん、いつも通り“晴道”でいいよ?」
水野早紀は、ちらっと千紗の方を見てから、遠慮がちにつぶやいた。
「え、でも……晴道くん、如月さんと付き合うことになったんですよね」
「あ、うん。そうなんだ。
やっとって感じなんだけどさ」
「じゃあ、やっぱり……名前呼びとかは……」
「え? 気にすることないよ。
今までとあんまり変わることないし」
「あの……私、ずっと晴道くんのこと、好きでした。
でも、如月さんと幸せになってほしいです。
今まで、ありがとうございました」
「ありがとう、早紀ちゃん。
俺は千紗と付き合ってるから、
早紀ちゃんと付き合うことはできないけど」
――誰も「付き合ってほしい」とは言っていないのである。
「でもさ、早紀ちゃんが真っすぐ背を伸ばして、
真剣に授業聞いてる姿、いいなって思ってた。
ノートもきっちりまとめてて、字も綺麗で……好きなんだ。
そうだ、今度ノートのお礼に食事でも行こうよ」
晴道は、付き合いだしたばかりの千紗の目の前で、堂々と他の女の子をデートに誘う。
水野早紀は、顔を真っ赤にして言った。
「わ、私……彼女になれなくてもいいんです。
晴道くんのそばにいられれば……」
水野早紀は、そんな女の子だ。
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また、晴道が由美子と結ばれた前世で、
晴道が由美子に水野早紀をきちんと紹介した時の話。
「由美子、もう一度紹介する。
水野早紀、俺の愛人枠」
「愛人枠って……」
「改めてよろしくお願いします、由美子さん」
水野早紀は微笑みながら、丁寧に頭を下げた。
「私は彼女になりたいなんて言いません。
愛人関係でもなんでもいいんです。
ただ、一緒にいられれば十分なんです。
晴道くんの傍にいさせてください」
「……晴道と同期ってことは、同い年だよね。
敬語なんていらないよ」
水野早紀は、そんな情熱的な部分も持っている女の子だ。




