Scene010:【梨子】
それはクリスマスイブの朝だった。
「母さん、今日は遅くなるよ。
オールになるかもしれない」
沙織母さんはきっと全て分かっている。
だけど、筋だけは通しておかないと。
「分かったわ。
晴道も”十六歳”ですもの。
わざわざ許可を取る必要もないわよ。
誰と過ごすのかなんて野暮なことは聞かないわ。
それにね、母さんは晴道のことを信用しているの」
(言うわよ、言うわよ、晴道のやられったって顔が楽しみ)
ああ、これは定番の、
「避妊してくれるって!」
(ふふーん、どう)
やっぱりな。
⸻
そう、俺はあのクリスマスイブのループを抜け出した。
十六歳の今世に戻ってきたのだ。
今日は花音さん主催のクリスマスパーティーなのだ。
参加者は、
小泉香織
如月千紗
阪本梨子
里塚由美子
早乙女莉子
一ノ瀬花音
中里京子
橋本花月
島村千鶴
(敬称略)
これは俺と出会った順だ。
他意はない。
ちなみにあのループの間には居なかった、梨子お姉ちゃんがいる。
これは”あれ”が操る世界であっても、梨子お姉ちゃんなら、自分の思い通りの世界に書き換えてしまうかも知れない。
あの自称”愛の女神”ですら、そう思ったのではないか。
俺はそう考えている。
⸻
千紗、由美子、花音さん、花月さんは、心の中の声を抑えてくれるからいいけれども。
後の五人で十分騒がしかった。
(今日こそ決めるわよ!イブよイブ!下着だって、もうばっちり決めてきたんですから。きゃーきゃーきゃー)
(晴道様、今夜は私を捧げます、なんてね、きゃーきゃーきゃー)
香織姉さん、千鶴さんが揃うと姦しいったらありゃしない。
(晴道、今夜は寝かせないわよ)
もう決定しているかのような心の中の声は梨子お姉ちゃん。
(私にはだって、チャンスは欲しい)
切実に願っているのは莉子。
(私は見守るだけで、良いの)
控えめなのは京子。
まずは立食パーティーから始まった。
一応人数分の席は用意されているが、
各自の定位置はあえて決められていない。
席を固定してしまうと、
俺と同じテーブルを巡って壮絶な争いが始まってしまうという、
花音さんなりの配慮だった。
出される食事はどれも凄まじかった。
ライブキッチンで供される神戸牛のステーキ。
板前さんが目の前で握る高級寿司。
さらには、生きたウニをその場で割って出してくれた。
ふんわりとしたオムレツが超絶技巧で作り上げられていく。
見れば分かる。
どのシェフも超一流の料理人だ。
本来なら、こんな出張ライブキッチンに立つような人たちじゃない。
「ちょっとお金に物を言わせすぎちゃったわ。
大人げなかったかしら」
主催の花音さんが苦笑交じりにそこまで言うなんて、
一体どれだけの費用がかかっているのやら。
⸻
パーティーは大いに盛り上がった。
まあ、女同士の腹の探り合いってのも大きかったけれども。
やがて、プレゼント交換の時間となった。
花音さんの提案で、それぞれがプレゼントを一つ準備し、それを賭けてビンゴゲームをするのだという。
プレゼントの中身は事前に明かされるが、誰の出品かは伏せられる。
先にビンゴになった人から好きなものを選べるシステムだ。
そして、その景品の目玉は──『晴道と今晩ホテルに泊まる権利』。
俺の出品だけは、強制的にそうなっていた。
⸻
ビンゴゲームは狂気的な盛り上がりを見せた。
というか、一部のメンバーは……否、言うまい。
百年の恋も冷めそうなほどの、凄まじい痴態だったから。
特に心の中の声がね…
結局、激戦を制して一番にビンゴを叩き出したのは、梨子お姉ちゃんだった。
うん、やっぱりね。
”あれ”がループの間、梨子お姉ちゃんを出さなかったのは正解だよ。
出していたら、きっと八回共に一番ビンゴを叩き出していただろう。
⸻
そして、翌朝。
「梨子お姉ちゃん……」
「梨子、でしょ」
「梨子……本当に良かったのか?」
「何のこと?」
「だって、もしものことがあったら……」
俺は沙織母さんの信頼を裏切ってしまった。
「何をいってるのよ、こっちでちゃんと準備していたに決まっているでしょ」
「えっ?」
「私が”できちゃった結婚”なんてかっこ悪い勝ち方を選ぶわけがないでしょ。
正々堂々と勝負して、晴道をゲットしてみせるわよ。
昨晩のビンゴゲームみたいにね」
「そっ、そうだね」
そうだ、梨子お姉ちゃんは昨晩のビンゴゲームも、他の誰もリーチに辿り着く前に、ビンゴになっていた。
やっぱり梨子お姉ちゃんは世界最強だった。
「まあ、それでも、選ぶのは晴道よ。
せいぜい悩みなさい」
梨子お姉ちゃんは、最高の笑顔でそう言った。
ああ、ここはこれで締めよう。
人の心が見える俺にはハーレム生活イージーモード、でも一人に絞るのは無理ゲーだった。




