loop001:香織
それはクリスマスイブの朝だった。
「母さん、今日は遅くなるよ。
オールになるかもしれない」
沙織母さんはきっと全て分かっている。
だけど、筋だけは通しておかないと。
「分かったわ。
晴道も”十九歳”ですもの。
わざわざ許可を取る必要もないわよ。
誰と過ごすのかなんて野暮なことは聞かないわ。
それにね、母さんは晴道のことを信用しているの」
ああ、これは定番の、
「避妊してくれるって!」
やっぱりな。
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今日は花音さん主催のクリスマスパーティーなのだ。
参加者は、
小泉香織
如月千紗
里塚由美子
早乙女莉子
一ノ瀬花音
中里京子
橋本花月
島村千鶴
(敬称略)
これは俺と出会った順だ。
他意はない。
それにしても、まるで攻略対象が全員そろう特別イベントのようだった。
俺、いつの間にか恋愛ゲームの主人公にでもなったんだっけ?
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まずは立食パーティーから始まった。
一応人数分の席は用意されているが、
各自の定位置はあえて決められていない。
席を固定してしまうと、
俺と同じテーブルを巡って壮絶な争いが始まってしまうという、
花音さんなりの配慮だった。
出される食事はどれも凄まじかった。
ライブキッチンで供される神戸牛のステーキ。
板前さんが目の前で握る高級寿司。
さらには、生きたウニをその場で割って出してくれた。
ふんわりとしたオムレツが超絶技巧で作り上げられていく。
見れば分かる。
どのシェフも超一流の料理人だ。
本来なら、こんな出張ライブキッチンに立つような人たちじゃない。
「ちょっとお金に物を言わせすぎちゃったわ。
大人げなかったかしら」
主催の花音さんが苦笑交じりにそこまで言うなんて、
一体どれだけの費用がかかっているのやら。
⸻
パーティーは大いに盛り上がった。
それぞれの近況報告や将来のこと、
そしていかに俺と付き合ってきたかという思い出話。
香織姉さんは、俺の専属マネージャーを務める傍ら、自分のサロンを立ち上げていた。
顧客は俺のドラマやモデルの撮影中に知り合った役者やモデルだけで、十分にやっていけているらしい。
やがて、プレゼント交換の時間となった。
花音さんの提案で、それぞれがプレゼントを一つ準備し、それを賭けてビンゴゲームをするのだという。
プレゼントの中身は事前に明かされるが、誰の出品かは伏せられる。
先にビンゴになった人から好きなものを選べるシステムだ。
そして、その景品の目玉は──『晴道と今晩ホテルに泊まる権利』。
俺の出品だけは、強制的にそうなっていた。
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ビンゴゲームは狂気的な盛り上がりを見せた。
というか、一部のメンバーは……否、言うまい。
百年の恋も冷めそうなほどの、凄まじい痴態だったから。
結局、激戦を制して一番にビンゴを叩き出したのは、香織姉さんだった。
⸻
そして、翌朝。
「姉さん……」
「香織、でしょ」
「香織……本当に良かったのか?」
「何のこと?」
「だって、もしものことがあったら……」
俺は沙織母さんの信頼を裏切ってしまった。
「ふふ、私は後悔なんてしないわ」
香織姉さんは愛おしそうに、自分の下腹部にそっと手を添えて言った。
「それにね、叔母と甥は法律的に結婚できないだけで、
事実婚になったり、子供を作ったりすることを禁止されているわけじゃないわ」
──その言葉に、背筋が凍りつく。
俺はもう、晴花と再会してしまうのだろうか。
⸻
いや、分かっている。
これは夢だ。
だって、昨日まで俺は十六歳で、高校一年生だったはずだ。
三年間もの記憶が丸ごと無いなんてあり得ない。
それに何より──今日、誰一人の心の中の声も聞こえないんだ。
だけど、それにしては五感がリアル過ぎる。
そして、いつまで経っても、一向に目が覚めない。




