ep002:その女優、情熱的につき
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Scene005【記憶】
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千鶴さんはホテルの部屋に入ると、すぐに切り出してきた。
「晴道君は前世って信じますか?」
(きっと、晴道お兄ちゃんも前世の記憶を持ってる)
今の心の中の声は千秋だろうか。
それはともかく、もう隠す必要はない。
「ああ、俺も前世の記憶をもっているよ」
全て正直に話そう、そう思った。
「島村千鶴、如月千秋。二人とも三歳年下の妹分であり、心から愛し合った仲だった」
((妹分……))
今、二人分の心の中の声が綺麗に重なって聞こえた気がした。
「私も持っています。千鶴としての記憶と千秋としての記憶、両方を」
やっぱりそうなんだ。
「中学三年の時、雑誌で初めて晴道君の写真を見た時、
頭に浮かんだんです。『晴道お兄ちゃん』って」
そうだ。花音さんも今世で俺と初めて会った時、
前世の記憶を取り戻しかけていた。
さらに千晴さんと和也さんにプールで会った時も、
明らかに様子がおかしかった。
きっと前世の記憶を取り戻していたんだ。
逆に和也さんも、俺と会った時に千紗のことまで思い出しかけていて、花音と会った時に前世の記憶を取り戻していた。
そして梨子お姉ちゃんも、花音さんに会った時に、
一緒に和也さんに愛されたことを思い出していた。
「それで、おじいちゃんの会社で晴道君と会ってから、
はっきりとした記憶を取り戻していったの」
やっぱりそうなんだ。
過去に愛し合った人と出会うことで魂が惹かれ合い、
愛し合ったことを思い出すことで、記憶が蘇るのだろう。
それなら、千紗と由美子の記憶が蘇らない理由も分かる。
俺と再会するのが早すぎたんだ。
愛し合う感情を理解しきれない頃に出会ったから、
過去の愛を思い出す前に、新たに俺のことを好きになってしまい、過去の愛が蘇らなかったのだろう。
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「さっきまでのは千秋だったんだよね」
俺はそう確信していた。
「そうだよ、まだここに居るよ」
千鶴さんは自分の胸に手を当てた。
「千秋はね、私がドラマのために千秋になりきったことで、より深い記憶が蘇って。
それが定着することで魂になったの」
魂ってなんなのだろうか。
あの自称「愛の女神」という存在なら、分かるのだろうか。
「でもね、ドラマはクランクアップしちゃったの。
終わりなの。
だから千秋の魂もやがて消滅してしまう。
元々今世の島村千鶴は、千秋と千鶴二人の魂が融合して生まれた存在だから。
元に戻るの」
演じることで生まれた千秋だから、
役目を終えれば存在を保てないということなんだろうか。
──
Scene006【変わった】
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「それでね、お願いがあるの。千秋が消える前に」
(お願い、晴道お兄ちゃん)
「千秋を抱いてほしいの」
「千鶴さんは、それで良いの?」
「いいのよ。だって、私と千秋は一つなんだから」
「……分かったよ」
俺は千秋を抱いた。
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全てが終わった後、俺は声を掛けた。
「千鶴さん、貴女はこれで良かったんですか?」
「私だって、よく分かったわね」
それは千鶴さんの表情が、どこか変わったから。
千秋はもういない。
目の前にいるのは、前世の千秋とも、これまでの千鶴とも違う、凛とした大人の女性だった。
実年齢は十九歳だとしても、前世の記憶がはっきりと残っているなら、俺と同じで精神年齢はもっと上のはずだ。
「ええ、千秋は消えたわ」
「そっか……」
「それで、良かったんですかって?」
「だって、千鶴さんの初めてを……」
「ふふ、千秋だって私よ。
それに、妹分としての初めての経験なら、
前世で体験済みだから」
ならいいのか?
それはともかく、俺は腹を括り、
覚悟を決めて言葉を紡ぐ。
「千鶴さん、俺、千鶴さんのことが──」
「あら、告白とかいらないわよ」
「えっ?」
「だって、せっかく年上長身巨乳という晴道君の理想の女に生まれ変わったんですもの。
しっかりこちらから、攻略させてもらうわよ」
(うん、決まった! これでスタートダッシュよ!! 晴道様の心を鷲づかみにして、そのままゴールイン。きゃーきゃー!)
あっ。心の中の声が、出会った頃の千鶴さんに戻った。
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俺はそのあと、千鶴さんとデートをした。
大人同士の付き合いという感じで新鮮だった。
(手繋いじゃった! 恥ずかしい〜きゃー!)
(目と目が合ったわ。これはキスしたいって合図よね!! 私はいつだって良いのよ〜〜〜!)
─ ─心の中の声のこれさえなければ、だけれども。
それでも、やっぱり千鶴さんは素敵な女性だった。
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Scene007【閑話】
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私は一人の女性を見守っていた。
前回の世界で、妹分という関係を抜け出せず悩んでいた二人の女の子。
私はその二つの魂を、そっと寄り添わせた。
その結果、彼女は一人の大人の女性として、
パパに愛されようとしている。
変わったのだ。
だとしたら、晴花だって変われるのでは?
でも──どう“変えたい”のか。
まだよく分かっていなかった。




