ep001:その魂、二人につき
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Scene001【ドラマの行方】
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十一月に入ると、ドラマの人気は熱狂的なものになっていった。
俺や千紗には、それぞれファンクラブまで設立されるほどの状況だった。
さすがにこのままでは私生活に支障が出そうなので、
俺と千紗は、花音さんから「認識障害の術」を教わることにした。
その術のおかげで、外出先でファンに囲まれたり、パパラッチに付きまとわれたりすることもなく、俺たちは今まで通りの平穏な日々を送ることができるようになった。
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やがて、ドラマは無事にクランクアップを迎えた。
最終的なストーリーは、監督が初期に構想していたプロットをそのままなぞる形になった。
瑞月さん演じる「美月」が和也に続き、俺が演じる「晴道」との恋の争いからも身を引くことを決意し、人として大きく成長を遂げる。
瑞月さんは、その複雑な心の機微を見事に演じきった。
そして、晴道と最終的に結ばれたのは、千鶴さんが演じる「千秋」。
彼女の演技もまた、胸に迫るものがあった。
千紗が演じる「千紗」は、最後まで晴道を支え続けた。――それが、たとえ晴道と千秋の恋であったとしても。
その健気で、どこまでも切ない姿に、画面の前の多くの視聴者は涙を流した。
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こうして、俺の「ドラマ俳優」としての騒動は、ひとまず収まった。
テレビでのオンエアこそまだ一か月ほど続くものの、撮影を終えた俺には、また普通の日常が戻ってくるはずだった。
そう、そのはずだったんだ。
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Scene002【千秋】
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それは、一通のLINEメッセージから始まった。
『前世って信じますか?
私には、千秋の記憶があるんです。
一度、二人だけでお話ができませんか?』
いつか、こんな日が来るのではないかという予感はあった。
現に花音さんはかなり具体的に記憶を取り戻している様子だし、和也さんも朧げながら前世を思い出し始めていた。
そして、梨子お姉ちゃんも。
もっとも、由美子にはまったくその気配が無い様子だし、すべてを打ち明けた千紗自身も、前世に関してはまったく思い当たる節が無いと言う。
この記憶の覚醒度合いの差は、一体どこから生まれるのだろうか。
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事の始まりは、千鶴さんがあのドラマに出演したいと自ら名乗り出た時のことだった。
千鶴さんの起用によって、俺の出番や物語の方向性も大きく変わるだろう──そう判断した香織姉さんは、千鶴さんと監督の打ち合わせの席に同席した。
そもそも、俺を物語の中心に据えようと言い出したのは香織姉さんなのだから当然の動きだった。
そして、その席には俺も呼ばれていた。
「では千鶴さん、これから貴女の役を作り上げていきましょう。何か希望やアイデアはありますか?」
監督が問いかけると、千鶴さんは迷いのない口調で応えた。
「千紗ちゃんの役には、苗字はありますか?」
「いえ、今のところは『千紗』としか」
それは、演技素人である俺たちへの配慮から、本名をそのまま役名に流用していたためだった。
「それなら、私は『如月千秋』。
千紗ちゃんは父方の従姉妹の『如月千紗』。
晴道君は、千紗ちゃんの母方の従兄弟という設定はどうでしょう?」
「なるほど、良いですね! 美月から見ると、晴道は親友の親類。
千秋から見ると、晴道は従姉妹の従兄弟。
どちらにせよ恋愛対象として動かしやすい。
晴道は千秋と同い年にしましょう。
美月は三つ上、千紗は三つ下だ」
「良いっすね! 千紗は大好きな従兄弟のお兄ちゃんを取られまいと必死に頑張る。
うわ、一気にイメージが湧いてきたっす!」
千鶴さんが提案したその設定は、
前世における『千秋』の本名であり、
かつ、前世の俺たちの関係性に極めて近いものだった。
千紗はモデル活動でも本名を使っているが、
苗字までは公表していない。
あの時、なぜ千鶴さんが唐突に『如月』という姓を口にしたのか、当時の俺はただ疑問に思うだけだった。
けれど……まさかあの頃から、すでに彼女の中で前世の記憶が蘇っていたのだろうか。
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Scene003【デート】
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千鶴さんに呼び出され、待ち合わせ場所に着いた俺に、
”千鶴さん”はこう言った。
「晴道お兄ちゃん、今日はありがとうございます」
(今は千秋に譲ってあげる)
何だ、今の心の中の声は?
そして、その顔、いや表情なのか。
それは確かに、前世での千秋を思い起こさせた。
前世で俺が『シェアハウスシリーズ』のドラマに2度目に出演した頃の千秋だ。
その時の千秋の年齢は今と同じ19歳。
俺は今と逆で、3歳年上の22歳だったはずだ。
「それで、話って?」
「あの、その前にお願いがあります」
そう言う千鶴さん──いや、千秋なのか?
その顔はとても思い詰めているように思えた。
「私とデートをしてください」
(千秋には時間がないんです)
「えっ?」
それは千鶴さんの心の中の声なのだろうか。
そうすると、目の前にいるのはやはり千秋なのか。
「駄目ですか?」
それは3歳年上の女性には見えなかった。年下の女の子に思えた。
だから、
「ああ、良いよ」
俺はその日、デートをする事にした。
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デートは待ち合わせ場所だったターミナル駅の、
すぐ近くにある水族館に向かう事になった。
俺は「認識障害の術」を使っていたが、千鶴さんはその必要もなかった。
誰も彼女をグラビアクイーンの”千鶴”として認識しなかったのだ。
「晴道お兄ちゃん、こっちこっち!」
そう言ってはしゃぐ彼女は、確かに前世の千秋そのものだった。
「イルカ凄い〜〜〜!」
「ペンギンさん、こんにちは」
「ははは、こいつどこ見てんだよ」
いつしか、俺も純粋にデートを楽しんでいた。
「カワウソさん、抱っこしたいなぁ」
「カワウソカフェってあるらしいよ。
今度行ってみるか?」
俺が何気なく言ったこの言葉に、千秋の顔が沈んだ。
「行ってみたいです。
でも残念だけれども、私には時間が無いんです」
さっき心の中の声でもそう聞いた。
「部屋を取っているんです。
この後、部屋で話を聞いてくれますか?」
(エッチな意味じゃないですよ)
今の心の中の声は千鶴さんなのか?
「それじゃあ、それまでデートを楽しもう!」
「はい、晴道お兄ちゃん!」
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それから俺たちはデートを楽しんだ。
千秋はカクレクマノミに「ニモだ、ニモだ」と騒ぎ、
マンタの背中の模様に「晴道お兄ちゃん!ハートだよ、ハート」と大騒ぎした。
やがて、千秋は満足したのか、こう言った。
「部屋にいきましょう」
いや、それは千鶴さんだった。
千秋は消えていた。
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Scene004【閑話】
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私、島村千鶴はあの日、監督にこう言われた。
「では千鶴さん、これから貴女の役を作り上げていきましょう。
何か希望やアイデアはありますか?」
その瞬間、頭に浮かんだのは大切な名前だった。
だから、私はこう聞いた。
「千紗ちゃんの役には、苗字はありますか?」
「いえ、今のところは『千紗』としか」
「それなら、私は『如月千秋』。千紗ちゃんは父方の従姉妹の『如月千紗』。晴道君は、千紗ちゃんの母方の従兄弟という設定はどうでしょう?」
如月千秋。
それはいつからか、いや3年前、初めて晴道君の写真を見た日以来、頭に浮かぶとてもとても大切な名前。
千紗お姉ちゃんと千秋と一緒に、愛してもらう記憶。
初めは、晴道君を渇望するあまり、自分が勝手に作り上げた妄想だと思っていた。
でも、晴道君に実際に会えた後、はっきりと分かった。
これは過去の記憶なんだ。
それは、前世と呼ばれるものだろう。
私には、千鶴としての記憶と、千秋としての記憶があった。
でも今の私は千鶴だ。
しかし、前世の千秋のようにグラビアアイドルもやっている。
千秋は私の中にいるのだろう。
だから、私はドラマで如月千秋を演じた。
千秋になりきる内に、はっきりと分かった。
私の中にはやっぱり千秋がいたんだ。
だから、私はグラビアクイーンにもなれた。
そうして千秋になりきっていると、私の中には千秋という人格が、いや魂が出来上がっていった。
彼女には、千秋としてのはっきりとした記憶があった。千鶴が千秋と出会う前の、千鶴が知り得ない記憶さえも。
そして、ドラマの撮影がクランクアップする頃には、
千秋と千鶴が入れ替われるほどになっていた。
でも、こうも分かっていた。
この体はあくまでも、今世の千鶴のものだ。かりそめの千秋は、長く存在していられないだろう。
だから、私は千秋として、晴道お兄ちゃんとのデートを計画した。
今回、晴道が思い出したのは
前作
三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで
〉かつ、前世の俺たちの関係性に極めて近いものだった。
【第17話】─ 番外編:芸能界編
https://ncode.syosetu.com/n8087lr/186/
〉それは確かに、前世での千秋を思い起こさせた。
【第18話】─ 番外編:芸能界編二期
https://ncode.syosetu.com/n8087lr/189/
となります




