loop002:千紗
それはクリスマスイブの朝だった。
「母さん、今日は遅くなるよ。
オールになるかもしれない」
沙織母さんはきっと全て分かっている。
だけど、筋だけは通しておかないと。
「分かったわ。
晴道も『十九歳』ですもの。
わざわざ許可を取る必要もないわよ。
誰と過ごすのかなんて野暮なことは聞かないわ。
それにね、母さんは晴道のことを信用しているの」
ああ、これは定番の、
「避妊してくれるって!」
やっぱりな。
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今日は花音さん主催のクリスマスパーティーなのだ。
参加者は、
小泉香織
如月千紗
里塚由美子
早乙女莉子
一ノ瀬花音
中里京子
橋本花月
島村千鶴
(敬称略)
これは俺と出会った順だ。
他意はない。
それにしても、まるで攻略対象が全員そろう特別イベントのようだった。
俺、いつの間にか恋愛ゲームの主人公にでもなったんだっけ?
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まずは立食パーティーから始まった。
一応人数分の席は用意されているが、
各自の定位置はあえて決められていない。
席を固定してしまうと、
俺と同じテーブルを巡って壮絶な争いが始まってしまうという、
花音さんなりの配慮だった。
出される食事はどれも凄まじかった。
ライブキッチンで供される松坂牛のステーキ。
板前さんが目の前で握る高級寿司。
さらには、マグロの解体ショーまで始まってしまった。
パスタは注文する度に、全く違うオリジナルのレシピで供される。
見れば分かる。
どのシェフも超一流の料理人だ。
本来なら、こんな出張ライブキッチンに立つような人たちじゃない。
「ちょっとお金に物を言わせすぎちゃったわ。
大人げなかったかしら」
主催の花音さんが苦笑交じりにそこまで言うなんて、
一体どれだけの費用がかかっているのやら。
⸻
パーティーは大いに盛り上がった。
それぞれの近況報告や将来のこと、
そしていかに俺と付き合ってきたかという思い出話。
千紗は、あの俺が高校一年の時に出演したドラマで助演女優賞を取って以来、次々と映画やドラマで主演を務め、今や主演女優賞の常連になっていた。
やがて、プレゼント交換の時間となった。
花音さんの提案で、それぞれがプレゼントを一つ準備し、それを賭けてビンゴゲームをするのだという。
プレゼントの中身は事前に明かされるが、誰の出品かは伏せられる。
先にビンゴになった人から好きなものを選べるシステムだ。
そして、その景品の目玉は──『晴道と今晩ホテルに泊まる権利』。
俺の出品だけは、強制的にそうなっていた。
⸻
ビンゴゲームは狂気的な盛り上がりを見せた。
というか、一部のメンバーは……否、言うまい。
百年の恋も冷めそうなほどの、凄まじい痴態だったから。
結局、激戦を制して一番にビンゴを叩き出したのは、千紗だった。
⸻
そして、翌朝。
「千紗……」
「なあに、晴道」
「千紗……本当に良かったのか?」
「何のこと?」
「だって、もしものことがあったら……」
俺は沙織母さんの信頼を裏切ってしまった。
「ふふ、私は後悔なんてしないわ」
千紗は愛おしそうに、自分の下腹部にそっと手を添えて言った。
「だって、私の初めてだっただもん」
そう、千紗と俺は何度も機会があったにも関わらず、
いままでずっと清い仲だったのだ。
「ふふふ。本当は今日、危ない日だったんだけれどもね」
──その言葉に、背筋が凍りつく。
俺はもう、晴花と再会してしまうのだろうか。
⸻
いや、分かっている。
これは夢だ。
だって、昨日まで俺は十六歳で、高校一年生だったはずだ。
三年間もの記憶が丸ごと無いなんてあり得ない。
それに何より──今日、誰一人の心の中の声も聞こえないんだ。
だけど、それにしては五感がリアル過ぎる。
そして……これは、一度目なのだろうか?




