ep002: そのキャラ変、ど真ん中につき
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Scene004【キャラ変】
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千紗は、瑞月さんの所属する芸能事務所へ所属することになった。
前世の記憶とは違い、瑞月さんの所属事務所は中堅といって差し支えないほどの大きさだった。
そしてある日、オーディオメーカーの社長に呼び出される。
これは予測していた。
前世でも、三年後に起きた出来事だ。
今世のドラマもあの監督とシナリオライター、同じコンビだったから。
でも、決定的に違うこともあった。
前世で社長に呼ばれたのは千紗だったが、
今世で呼ばれたのは俺の方だったんだ。
「社長はね、千紗ちゃんと晴道くんにドラマに継続して出て欲しいらしいのよ」
(晴道格好いいから人気出ちゃう!)
「千紗ちゃんはね、もう芸能事務所に所属しているから事務所を通しての依頼になるけれども、晴道はいわばフリーだから直接依頼なのよ」
(二人きりで二人三脚、これで二人の仲も進むかも、きゃー!)
香織姉さんは表の話と心の中の声のギャップが相変わらず酷い。
けれども、ドラマへの出演交渉。
本当にそれだけなのかな?
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「君が晴道くんか」
(なるほど、これは、そうかそうか。なかなかの好青年じゃないか)
社長は厳格そうな初老の男性だった。
それにしても、心の中の声が“自社の広告塔になる人物の品定め”には思えないのは、気のせいだろうか。
「君が、彼のマネージャーかね?」
「はい。私は彼の叔母になりまして、
彼が幼少の頃より“専属の”マネージャーをやっております」
(“専属”よ、人生のパートナーよ、きゃーきゃーきゃー!)
(なかなかのやり手のようだな)
うん、社長。心の中の声を聞いていないと、
そうなりますよね。
「契約のことはマネージャーと詰める。
晴道くんは別室で待っていてくれたまえ」
社長は、秘書の方らしい人と一緒に香織姉さんとテーブルに着いた。
(晴道のために良い条件を勝ち取っちゃうわよ! そして晴道に尊敬の眼差しで見つめられ、そのまま二人は、きゃー!)
うん、香織姉さんは鉄板だった。
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俺は、受付から社長室まで案内してくれた社員の方に連れられて歩いていた。
さっきの秘書の人もそうだったけれど、
全く心の中の声が聞こえてこない。
プロフェッショナルなんだ。
さすが大企業。
社員教育が行き届いているんだろう。
やがて案内された部屋では、一人の女性が待ち受けていた。
年の頃は二十二、三歳だろうか。
……いや、俺は年上好きだから、つい女性を実年齢より上に見てしまう癖がある。
よく見れば、まだ十九歳くらいか。
どこか見覚えがある。
思い出しそうで出てこない。
多分、前世で会っている。
「初めまして。
社長から、晴道様のお話し相手を仰せつかりました」
(うそ、うそ。本当はおじいちゃんに頼み込んで会わせてもらったの。きゃー、晴道様! 本物!! やっぱり素敵〜〜〜! 大大大好き〜〜〜!)
香織姉さんとキャラが被りまくりだ。
それは心の中の声のテンションだけじゃない。
長身巨乳、年上。香織姉さんと完全に同系統じゃないか!
「千鶴と申します」
(私のこと、知っていてくれているかな? もしかして私のファンだったりして。それなら、二人の恋は一気に燃え上がって、そのまま一気に、きゃーきゃーきゃー!)
いや、心の声のテンションは、そのまんま香織姉さんにそっくりなんだけれども……って、千鶴?
名前を聞いて、一気に思い出した。
千鶴は社長の孫娘。
前世では愛した女性たちの内の一人だった。
前世では三歳年下の女の子だったはずだ。
確かに言われてみれば、顔には前世の面影がある。
けれど、前世では年下のスレンダー枠だった彼女が、
今世では真逆の存在に。
今世で一番のキャラ変だった。
正直、好みのど真ん中。
もう波乱の予感しかなかった。
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Scene005【始動】
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九月に入り、ドラマの撮影が開始された。
俺と千紗は撮影現場に来ていた。
十月放映開始だというのに、まだ三話しか撮影が済んでいないらしい。
「思ったより酷い状況ね」
(これは不味いかも。契約、早まったかもしれないわ)
撮影に付き添ってくれている香織姉さんが呟く。
「香織姉さん、どうかしたの?」
「主演の男優が降板したらしいのよ」
(所属する大手事務所は評判が悪いみたいね)
「えっ!?」
「社長が役どころが気に入らないって文句を付けたけれど、監督が突っぱねたらしいの。
だから俳優を引き上げるって」
「そんなの、許されるんですか?」
「大手はね、それがまかり通るのよ。
それで主演男優と、瑞月さんのライバル役だった女優が降板したのよ」
(私の、せっかくのデビュー作品が……)
千紗の落ち込む心の中の声が聞こえる。
やがて、監督が現状の説明を始めた。
「皆さん、色々と噂を聞かれていると思うのですが、
私から現状を説明させていただきます。
まずは、今回の作品の骨子からお話ししましょう。
美月は、幼馴染の和也が最近どこか冷たいと感じていました。
それは、和也にはもう一人の幼馴染・美久がおり、和也と美久は最近恋仲になっていたからです。
和也と美久が仲良くしている姿を見るうちに、
美月は自分が和也に幼い恋をしていたことに気付きます。
しかし、気付いた時はすでに手遅れで、美月は失恋してしまいます。
そして、美月は自分の幼さに気付き、人として成長を遂げ、和也と美久の未来を祝いながら物語は閉じることになります」
その時、瑞月さんが答えた。
(俺はまだ彼女を本名で呼べるような関係になっていないから、心の中でも女優としての名前で呼ぶことにする)
「はい。私はその役をとても魅力的に思えましたので、
この役を引き受けました」
あっ、瑞月さん、前世とはまるっきり逆なんだ。
「そして、皆さんが聞かれている噂は本当です。
和也を演じる俳優と、美久を演じる女優は降板しました」
(もう名前も呼びたくねえよ、畜生、バカにしやがって)
あー、監督がご立腹だ。
まあ、当然だよね。
「所属事務所の社長が、和也の役どころをもっと良くして主演にしろと要求してきたのです。
しかし、それではこの作品の骨子が変わってしまう。
だから私は突っぱねました。
結果、二人は降板となったのです」
「酷い……」
千紗がつぶやく。
「幸いにも契約上、撮影済みのシーンはこちらに権利があり、そのまま放映に使えます。
和也と美久が惹かれ合い、付き合い始めるところまではそのまま使えるでしょう。
しかし、美月と和也の絡みが圧倒的に足りていません。
美月と和也の絡みなしに、美月が自分は恋をしていたと気付き、成長していく姿を描かなければいけなくなりました」
「それは、難しいですね……」
瑞月さんも声を落とす。
「もちろん、シナリオを改変し、
説得力のある物語に仕上げるつもりですが……」
その時、千紗が声を上げた。
「誰かが、瑞月さんにそれを気付かせるような助言や、進言をすれば良いんじゃないでしょうか?」
(その役を私がすれば!)
千紗がその決意を実際の言葉に出そうとした瞬間、
監督が答えた。
「それは良い。ならば美月にそれを伝える役割……そうですね、幼馴染ではない親友などが新しくいれば良い」
「そんな、今から急に新たな女優を準備するのは……」
しかし、スタッフからはそんな声が上がり、
「じゃあ、私がその役を……」
千紗が言いかけた時、別の声が割り込んできた。
「その役、私に受けさせてもらえない?」
それは、いつの間にか姿を現した、
先日再会したばかりの千鶴だった。
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Scene006【閑話】
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私、島村千鶴は裕福な家庭に生まれた。
祖父が大手オーディオメーカーの社長だったのだ。
でも、私は満たされていなかった。
『何かが足りない』
『誰かに出会えていない』
私は人と関わる仕事なら、その誰かに出会えるかもしれないと思った。
幸い容姿には恵まれていたから、
まずはグラビアアイドルを始めてみた。
それはすぐに成功した。
そして中学三年の時、運命の出会いがあった。
それは自分が載っている雑誌をチェックしている時だった。
自分と同い年くらいの男の子。
なのに、とても落ち着いた雰囲気なことが写真を通しても分かった。
「お兄ちゃん……」
自分でも、なぜそんな言葉が出たのか分からなかった。運命の出会いだ! そう確信した私は、さっそく彼のプロフィールをチェックする。
しかし見た目に反して、彼は私の三歳年下、
小学校六年生だった。
まだ出会うには早い、そう思った私は自分を磨くことにした。
元々誘われていたこともあり、女優業をやってみることにしたのだ。
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女優業は大変だったけれど、努力した。
いつか晴道くんに似合う女になりたかったから。
そして仕込みも忘れない。
祖父に晴道くんを紹介したのだ。
「おじいちゃん、この子最近人気なの。
おじいちゃんの会社のカタログモデルにどうかな?」
「うん? そうなのか。分かった、担当に伝えておくぞ」
おじいちゃん、孫に甘すぎ。
こっちが罪悪感を感じちゃうよ……。
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私は高校を卒業する頃には、女優としてもそこそこ人気が出始めていて、グラビアクイーンとまで呼ばれるようになっていた。
私、頑張ったよ! 晴道くんに逢うために。
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そして、最大のチャンスが来た!
晴道くんがおじいちゃんの会社の製品のタイアップで、ドラマに出演することになったのだ。
「おじいちゃん、一生のお願い! 晴道くんに逢いたいの」
そう懇願する私に、おじいちゃんは優しく笑った。
「千鶴がそこまで言うとは、余程良い男なんだろうな。
わしも会ってみたくなったぞ。
今、彼をドラマに継続して出させようという案が上がっている。
今度、会社へ呼ぼう。
その時に話をすると良い」
おじいちゃんはニヤリと笑った。
「おじいちゃん、ありがとう! 大好き!!」
私はおじいちゃんのほっぺにキスをする。
十九歳にもなって恥ずかしいけれど、それくらい嬉しかったのだ。
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今、私はおじいちゃんの会社の応接室で彼を待っている。
冷静沈着で行こう。
こっちは三学年も年上で、俳優としても先輩なのだ。
そして、彼が部屋へと入ってきた。
私は冷静に挨拶をする。
「初めまして。社長から、晴道様のお話し相手を仰せつかりました」
(うそ、うそ。本当はおじいちゃんに頼み込んで会わせてもらったの。きゃー、晴道様! 本物!! やっぱり素敵〜〜〜! 大大大好き〜〜〜!)
「千鶴と申します」
(私のこと、知っていてくれているかな? もしかして私のファンだったりして。それなら、二人の恋は一気に燃え上がって、そのまま一気に、きゃーきゃーきゃー!)
全然冷静になれなかった。




