ep001:その決意、星(スター)につき
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Scene001【ドラマ】
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8月末の千紗の誕生日直前になって、
7月末に出演の打診を受けていたドラマの撮影が始まった。
本来ならもう少し早く撮影が開始される予定だったが、俺たちのスケジュールと、共演する瑞月さんのスケジュールとのすり合わせが上手くいかなかったそうだ。
俺たちが未成年で、遅い時間に撮影できないという事情もあった。
出演シーンは短く、簡単な台詞しかない。
スタジオに組まれたセットで、数カット撮影するだけ。
そう、それだけのはずだったんだ。
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撮影現場で会った女優の瑞月さんは、確かに前世で愛し合った美月さんだった。
でも、今世の美月さんは香織姉さんの顧客ではなかった。
だから、香織姉さんを通して俺のことを知る機会もなかった。
そんな状況で、しかも高校1年生の俺と、何か関係に進展があるはずもなかった。
しかし、千紗は違った。
持ち前の人当たりの良さと人懐っこさで、あっという間に美月さんと仲良くなっていた。
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「美月さんと、ちょっとご飯食べてから帰るね」
千紗はいつの間にか、本名で呼ぶような仲にまでなっていた。
「千紗、付いていかなくて大丈夫か?」
「もう、晴道は過保護なんだから、大丈夫だよ」
(晴道は、私のこと、好きすぎるんだから!)
そう言って、千紗は美月さんと街へ連れ添って行った。
「まだ時間は早いし、瑞月さんといるんだから大丈夫でしょ。
私たちも食事して帰りましょ」
(晴道とデート、晴道とデート、晴道とデート)
香織姉さんの心の中の声は相変わらずだった。
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Scene002【決意】
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千紗の誕生日が来た。
由美子の時と同じレストランでディナーを楽しみ、
準備しておいたネックレスをプレゼントする予定だ。
千紗に選んだのは、三日月をモチーフにしたシルバーのネックレスだ。
月の上には小さな猫が腰掛けていて、
八月の誕生石であるペリドットと戯れている。
ペリドットの石言葉は――『夫婦の幸福』『和合』『希望』。少し重いかもしれない。
それでも、それが俺の正直な気持ちだった。
一番近くにいる天体、それが月。
俺にとって、一番近くにいる存在、それが千紗だった。
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花月さんは約束通り、俺の両親が外泊するように仕向けてくれた。
でも、沙織母さんは全て分かっていて、それに乗った節がある。
なぜなら、俺の勉強机の引き出しに、“あれ”がこっそり置いてあったから……。
前世でも散々これでからかわれたけれど。さすがにまだ早いよ。
あっ、いや、そうする為に仕向けているわけだから、早くないのか。
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レストランでのディナーを終えて、由美子の時と同じバースデープレートを披露した。
そしてネックレスをプレゼントし、それに込めた想いを伝えた。
「あのね晴道、ネックレスとっても嬉しい。
涙が出そう。
でもね、由美子は翼だった。
由美子は自分の翼で進んで行くの。
そしてオリンピックでレギュラー選手になって、晴道に求婚するって目標に向かって。
私は三日月。
太陽に照らされた部分は明るく綺麗。
でも、太陽の光が届かないところは、暗くて寂しい」
(合宿で見たの)
千紗は俯いてしまった。
俺は思い出した。
合宿の二日目の夜、俺たちはあの反射望遠鏡で薄い三日月を観測した。
三日月の部分は明るく綺麗だったが、大半の部分は暗くて寂しかった。
そして花音さんの解説。
『月の表面を覆う砂や岩石には、隕石の衝突でできた細かなガラスの粒が混ざっているの。
だから太陽の光を効率よく反射して、あんなに綺麗に輝いて見えるのね。
でもね、実際はそんなに明るくないの。
地上なら、日に照らされたアスファルトくらいの明るさしかないわ。
月は漆黒の夜空に浮かんでいるから、眩しいほど輝いて見えるだけ。
本当は、暗い天体なのよ』
その話を聞いた時だった。
千紗はなぜか俯き、心の中の声さえ聞こえなくなってしまった。
でも俺はあの時、色々と有りすぎて、そんな千紗のことを考える余裕なんて無かったんだ。
幼馴染み失格だ。
そう俺まで落ち込みかけた時、千紗は顔を上げた。
「私、星になる!」
(負けない!)
「えっ?」
「美月さんに誘われたの。事務所に入らないかって。『貴女なら、きっとスターになれる』って」
あの日、美月さんと食事に行って、そんな話になったのか?
「だから、私はスターになって、晴道に告白するのよ!!」
そうだ、そうだった。俺の幼馴染はそんなに弱くなかったんだ。
そして、その夜、千紗は俺の部屋に来なかった。
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Scene003【閑話】
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俺はリターナーだ。
前世の記憶を持ちながら人生をやり直している。
生まれた直後からはっきりと前世から引き継いだ、
自我と記憶があった。
良く見えぬ目、動かぬ体。
しかし聞こえてくる会話から、自分が人生をやり直していることを理解していった。
前世の記憶ははっきりしている。
ただし、人に関する記憶はぼんやりとしていた。
ほとんどが思い出せない。
しかし、その人の名前を聞いたり、実際にその人に会ったりすると、はっきりとした記憶を取り戻すのだ。
生まれて一ヶ月が経った頃、俺は再会した。
美優さんに連れられた千紗に。
「美優さん、よく来てくれました。千紗ちゃんだって、まだ二ヶ月でしょ」
(健一くんだってまだ小さいのに)
「何言っているのよ、従姉妹の初産よ?
会いに来ないでどうするの?」
(可愛い顔、きっとイケメンになるわ)
俺は周りの気の様子を窺う。
俺は良く見えぬ目の代わりに、気を使って周りを探ることを続けていたので、
気に乗った人の想いが見えるようになっていたんだ。
「だーだーだー」
(だれそれ〜)
聞こえてくる想いは、別に日本語というわけではない。
もっと根源的なもの。
だから、まだ喋れない千紗の想いも伝わってきた。
「千紗ちゃん、この子は晴道くん。
あなたのはとこ、あなたの将来の旦那様よ」
(きっと運命よ)
「やだ、もう美優さんったら、
そんな子供の頃の約束を覚えていたんですか?」
(恥ずかしい)
「だって貴女が言い出したことじゃない。
お互い、男の子と女の子の子供ができたら、
結婚させようって」
(ふふふ、懐かしいわ)
「だぁ」
(ずっといっしょ)
俺はその時、千紗のことをはっきりと思い出した。
前世ではみとこ同士(親がはとこ同士)だったけれど、
今世でははとこ同士(親が従姉妹同士)らしい。
でも、前世で千紗とは結婚していなかった。
千紗は晴花の母親ではなかったんだ。
前世でも、それ以前の人生でも。




