ep001:その自己紹介、強烈につき
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Scene001【自己紹介】
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橋本花月さん。
霞の者の後方部隊の一員。
霞の宿の板長である橋本猛さんの娘で、花音さんと同じ日に生まれた幼馴染。
そして、今は俺の実家の隣人だ。
花月さんは、花音さんが隣室に住み始めてから、ちょくちょく顔を出していた。
もっとも、このマンションに住んでいたわけではない。
けれど、花音さんが里からマンションに戻れないため、しばらく留守を任されることになったという。
だから、合宿から戻った翌日には挨拶に来られた。
両親共に不在だったが、リビングに上がってもらう。
「急にごめんなさい、しばらく隣人付き合いになるから、ご挨拶しようと思って」
(晴道の部屋に上げてくれてもよかったのに。そしたら年上の魅力でぐいぐいと)
うん、凄い人が隣人になった。
「今朝、葉月さんから連絡があってね。やっぱり今月いっぱいこっちには来させないって。
挨拶回りとか書類提出とか全て放置して、晴道くんといちゃいちゃしてたものね」
(羨ましかったのよ!)
「いや、ずっといちゃいちゃしていた訳じゃ……」
「まぁ、良いわ。そんな訳だから、改めて自己紹介するわね。
橋本花月、1999年4月3日生まれの22歳。
花音と同じ日に生まれたわ。
父は猛、霞の宿の板長。
母は里美、霞の宿の番頭をしているの」
ご両親の立場は、前世までの記憶と同じだ。
「これは花音に知られるわけにはいかないのだけれども、秘密にできる?」
(晴道になら言っても問題ないわよね。秘密の共有で親密度アップの作戦よ)
表の言葉も、心の中の声も、両方怖いんですけれども!
でもこう答えるしかないよね。
「はい、もちろんです」
「私ね、本当は花音の従姉妹なのよね」
「なっ、なんだって~~~」
すっごい秘密きたーーー。
「里美母さんは私生児なの。
あっ、これは秘密じゃないわ。
昔の村社会ではよくあった事だからね。
婚姻とか関係なしに男女が関係を持って、
子供が生まれたら村全体で育てる。
霞の里は古い習慣が残る場所だったから、
祖母が若い頃はまだ珍しくなかったみたい」
「はい、昔そういう風習があったというのは読んだ事があります」
「それで、母の遺伝子的父は、当時の一ノ瀬家の当主。
つまり花音の祖父なの。
花音の祖父は葉月さんが生まれた後、男の跡取りが欲しくて祖母に子供を作らせたのだけれども、結局生まれたのが里美母さんでね。
里としては養育したけれども、一ノ瀬家としては認知しなかったみたい。
そのあと、さらに別の女性にも子供を産ませたら男の子で、そちらは認知したわ。
それが田中美由のお父さんよ。
でも認知しただけで、養子にはならなかった」
(晴道、引き込まれているわね。その関心が私への好意に変わっていくのよ)
うーんと、凄い話なんだけれども、花月さんの心の中の声が気になってしまう。
花月さんへの関心が大きくなっていくという意味では間違いないんだけれども。
「どうしてですか?」
「花音の祖父が、その直後に病気で亡くなったから。
里としても、無理に一ノ瀬を継がせる必要もないと考えたのね」
「そうだったんですね」
「だから、花音にとって美由は従姉妹だけれども、私は単に幼馴染みってわけ」
(ふふふ、同情心で好感度アップよ)
花月さんぐいぐい来る。
そういう意味では花音さんに似ているのかも。
流石は従姉妹ってところなのかな。
「それじゃあ、阪本家、氷室家、如月家にも挨拶してくるわね」
(晴道攻略はまだまだこれからよ)
そう言って花月さんは出て行った。
うん、興味を引くという意味では大成功だ。
これ以上印象に残る自己紹介なんて、そうそう無いだろう。
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Scene002【愛おしい】
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花月さんは如月家に挨拶に行った時、今日千紗が家族の予定で小泉家の夕食を作りに来られないと聞き出したらしい。
千紗が毎日のように小泉家の夕食を作っているとは元々知っていたとはいえ、どうやって聞き出したやら。
それを知った花月さんは速攻で動いた。
「じゃあ、代わりに私が作りますよ」
そう言って千紗の了承を得て、沙織母さんにも連絡を取って、
今、俺の目の前にいる。
(沙織お義母様の胃袋さっそく掴んじゃうわよ)
千紗からどういう風に許可を取ったのか知らないけれども、良いのか千紗。
これは絶対にピンチだぞ。
エプロンを着けてキッチンに立つ花月さんは、流石老舗旅館の板場で働いているだけあって様になっていた。
正直、その手際の良さには目を奪われる。
「俺も手伝いますよ」
そう言ってみたが、
「大丈夫、お姉さんに任せておいて!」
(晴道を絶対に美味しいって驚かせるんだから!)
と力強い答え。
俺は年上、長身、巨乳、さらに頼りがいのある女性が好みだ。
正直、花月さんは巨乳以外はピッタリ当てはまり、
しかも花音さんにもどこか似ている美人なのだ。
今まで霞の者としての作戦中や、霞の宿の板場の職人としての顔しか見ていなかったので、
先ほど引っ越しの挨拶のために着飾った姿にはドキッとした。
夕食は普通の和食。
焼き魚に野菜のお惣菜、卵焼きにお味噌汁。
それだけなのに、ご馳走だった。
「花音にお弁当作りを仕込んだのは私なのよ」
花月さんはウィンクを一つ。
その可愛らしさにドキドキした。
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夕食を終えた後、洗い物は手伝った。
「ふふ、新婚さんみたいね」
(こういう家庭持てたらいいな)
千紗との関係でも言われたことだけれども、相手が違えば新鮮でドキドキする。
(でも、私は霞の者。普通の幸せは望めないかも……)
俺はその心の中の声に胸を締め付けられた。
『そんなことないです、花月さんは普通の女性です。普通の幸せを望む権利があります』
そう言いたかったが、言葉は飲み込んだ。
作戦のレポートで“俺が気に乗せられる人の心が聞こえる”ことを知っているだろう。
でも、それでも俺は聞こえないふりをしないといけない。
だって、それは誰も偽れないことだから。
本心を全て知られるってことだから。
本来そんなことを知っていたら、俺の元から離れていくだろう。
でも花月さんは、そう知っていても傍にいてくれているんだと思う。
そう思うと、花月さんが愛おしく感じてしまった。
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Scene003【驚愕】
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花月さんは作り置きではなく、両親が帰ったら二人分を作ると言ってくれた。
遠慮しようとしたのだけれども。
「どうせ部屋に居てもやる事ないしね」
(1日で両親への挨拶も終わらせるのよ)
断れなかった。
俺はふと聞いた。
「花月さん、花音さん、美由さん、由美さんで幼馴染みだったんですよね。
どんな子供時代だったんですか?」
「普通よ。小学校の頃から、放課後は草の訓練をしていた事以外は」
(それでも、4人一緒なら楽しかった)
「そうなんですね」
「花音がね、いつも言うの。
『私が一ノ瀬の跡取りだから、皆を巻き込んだの、ごめんね』って。
そんな事ないのにね」
(だから、みんな花音の事が好きなの)
ああ、良いな、幼馴染みの関係。
「でもね、それも中学卒業まで」
「ああ、花音さんがアメリカに放り出されたんですよね」
「それね、私も行ったのよ」
「えっ!」
「あの子、生活力皆無なの」
まあ、このマンションに居た時も自炊なんてしてなかったみたいだった。
「だから、私が一緒に行ってあげたの」
「なんにも前準備なしに行かされたって聞きました。
どうやって生活したんですか?」
「あの子ね。
アメリカに着くと同時に、大統領夫人に連絡を取ったの」
「はっ? なんで、どうやって?」
「うん、その1年前に当時の大統領が日本を訪問した時に、二人の娘さんもお忍びで日本に来てたの」
「そんなニュース聞いたことないです」
「お忍びだからね。
それで花音が通訳兼観光案内兼護衛として選ばれたの。
もちろん向こうのSPが沢山居る上でよ」
「そっ、そうなんですね」
やっぱり花音さん、半端ない。
「その時にすっかりお友達になって、連絡先交換してたのね。
で、住む所と、高校だけ紹介して貰ったの」
「花月さんはどうしたんですか?」
「一緒に高校に入ったわよ。
二人で首席争いしたんだから」
(結局一度も勝てなかったけれどね)
えっと、花音さんって飛び級でハーバード大学にいったんだよな……
「それで、一緒に大学も行ったのよ」
かっ、花月さんも半端なかった。
(ふふふ、凄いでしょ、尊敬しちゃう?)
うん、しました。
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Scene004【成果】
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花月さんは俺の両親が帰ってくると、
料理を仕上げてすぐに帰っていった。
母さんも父さんも、料理の美味しさに目を白黒させていた。
「晴道……、父さん一押しだ」
(お嫁さんに来てくれないかな)
父さん、気が早すぎ。
そういえば、花月さんって長身でスレンダーな美人で押しが強い。
どこか沙織母さんに似ているかも。
父さんの好みなのかな。
(もう少し年が近ければ……。でも、あと5年もすれば21歳と27歳、あまり気にならない?)
母さん、気が長いのか気が早いのか、分からないことを考えていた。
二人とも、別に食事の美味しさだけでそうなったんじゃない。
ほんの少し会話しただけで、花月さんの人の良さ、頭の回転の速さに気付いたのだと思う。
花月さんはたった1日で、深く深く食い込んできたのだった。
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Scene005【閑話】
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私、橋本花月は、晴道くんの両親に少しだけ挨拶して小泉家を後にした。
ふふ、ファーストインプレッションは短く強烈な方が良いのよ。
ご両親は今頃、私のことを強く思い返しているわ。
ご両親が私を気に入れば、晴道くんも自然と意識する。
また明日ね、晴道くん。




