ep005:その一突き、必殺につき
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Scene023【天体観測】
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俺たちは夕食の後、天体望遠鏡の元へと戻った。
「凄い……」
みんなが言葉を失った。
満天の星空、それ以外に表現のしようが無かった。
「プラネタリウムなんか目じゃない」
俺は思わず呟いた。
千紗がプラネタリウム好きで、最新鋭の施設には何度も一緒に行った。
でも違う。空が暗い。
プラネタリウムの空はあくまで灰色のスクリーンなのだ。
この空は深淵の暗闇だった。
そこに浮かび上がる星々。
それは全くの別物だった。
「空にミルクが流れてる」
そう表現したのは由美子だった。
俺は応える。
「そうだよ、天の川は英語では『milky way』って言うんだよ」
「えっ、あれが天の川なの?」
声を上げたのは梨子お姉ちゃんだった。
天の川は南の地平から、東に傾き天頂に向かって伸びていた。
それは確かに空を流れ落ちるミルクに見えた。
「そう、あの白い帯が全部、星の光で出来てるの」
千紗がうっとりとした声で言った。
これこそプラネタリウムでは到底再現できない世界だった。
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天体望遠鏡を使って初めに見たのは木星だった。
「凄い、本当に縞々にみえる!」
一番手は千紗。
「良く見たら、衛星も見えるはずよ」
花音さんが声を掛けるが、千紗は気付かず集中していた。
由美子と梨子お姉ちゃんは顔を見合わせて笑い、流れ星を数え出す。
「数えだしたらきりがないわよ、まだまだ、こんな物じゃないわ」
花音さんがそう言うと、
「私、一生分の願い事を叶えられるかも」
そう言う由美子に、花音さんは応える。
「ふふ、でもね、一つの流れ星が消える前に唱えきれるかしら?」
「意外と難しいかも」
梨子お姉ちゃんは既に試してみたのか、そうしみじみと言った。
由美子と梨子お姉ちゃんも木星を見る。
「TVで見たそのまんまだ」
由美子があげた声に、千紗が応えた。
「でもね、これは本物なの。そこに実際に有るんだよ」
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次に見た土星は圧巻だった。
「輪っかって本当に有るんだね……」
「それに隙間が有った」
「カッシーニの空隙って言うの。こんなにはっきりと見れるなんて……凄い」
もう花音さんの解説も必要なかった。
ただ、
(本物の感動と説得力、これ以上の学びはない)
そんな心の中の声が漏れていた。
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海王星と天王星探しは難航した。
普通ならネットで検索すれば、なんてところだが、ここは圏外。
結局花音さんに教えてもらった。
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「さあ、トイレを済ませておいて。ここからは流星観測よ」
霞の者の人たちはテント式の簡易トイレまで準備していた。
前にはあの後方部隊の女性が立っていた。
「あっ、今晩は……。
そう言えばまだ名前を聞いてなかったです」
「そう言えばそうかもね。
私の名前は橋本花月よ」
「橋本って、板長の?」
「あら、もう聞いたの?
今晩はしゃぶしゃぶだったから部屋に付かなかったけれども、
明日は鉄板焼きだから担当するわよ」
「あの、花音さんと誕生日が近かったりします?」
「よく分かったわね、誕生日一緒なのよ。
双子みたいに育ったの。
花音、花月、美由、由美、合わせて四人の幼馴染みなのよ」
そういって花月さんは笑った。
そっか、前世では里見さんが娘さんを死産したって聞いていたけれども。
今世は幸せな人生を送っているんだな。
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Scene024【流星】
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気付けば日付はとっくに変わっていた。
「さあ、ここに寝ましょう」
花音さんがブルーシートを広げ、俺たちを誘った。
横になった俺たちが空を見上げると、
「わぁ!!」
先ほどまで惑星に夢中で気付かなかったが、それは凄まじい流れ星だった。
次々と光の尾が夜空を流れていく。
ペルセウス座流星群の極大期、それがまさに今だった。
「こんなの数えきれないよ……」
千紗が声をあげる。
「ふふ、でも部活なんですからね。
千紗には部長としてレポートを上げてもらう必要があるのよ」
そうだった、反射式望遠鏡にもアダプターを付けて写真を撮っていた。
でも、これは……写真には残せない感動だった。
「一時間に百個とか行きそう」
由美子がしみじみと言う。
「そうね、それでも嘘にならないわ。
本当にそれくらいは行きそうよ。
私だって、こんなに凄いのは初めて」
花音さんもそう言った。
梨子お姉ちゃんが俺の隣に寝転ぶ。
そしてふと、そっと手を伸ばしてきた。
俺はその手を優しく握り返した。
このロマンチックな夜空の下だ、これくらいあっても良いんじゃないかな。
自然とそう思えた。
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俺たちは夜空を見上げながら、思い思いの事を話し出した。
学校の事、友達の事、兼部している部活の事、進路の事、将来の夢――。
激しく流れる星々に目を奪われながらも、俺たちは自分たちのこれからを、静かに語り合っていた。
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Scene025【朝食】
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やがて俺たちは、夜が明ける前に下山する事になった。
観測装置は、夜が明けてから霞の者の部隊で撤収するという。
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部屋に戻ると、夜も明けていないのに朝食が準備されていた。
おにぎりに卵焼き、味噌汁。
それだけなのに、今の俺たちには極上のご馳走に思えた。
「こんな早い時間なのに、わざわざ作ってくれたんですか?」
俺たちが恐縮すると、花音さんは笑って言った。
「もう、板場は準備を始める時間よ。
それに今朝は部隊の人間たちへの食事もあったしね」
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朝食をいただき、順番に温泉に入って昼食まで仮眠を取る事にした。
「昨晩と逆順ね」
千紗がそう宣言して、俺から先に入る事になった。
風呂から上がると、三人は浴衣に着替えていた。
俺も脱衣所に準備されていた浴衣に着替えている。
そして奥の部屋に三つ、手前の部屋に一つ、布団が敷かれていた。
俺が布団に入って横になっていると、梨子お姉ちゃんが戻ってきて奥の部屋へと入っていく。
「おやすみ、晴道」
入れ替わりで、千紗と由美子が温泉へと向かう。
「覗いちゃだめだよ、晴道」
そう言ったのは千紗だったのか、それとも由美子だったのか。
俺は心地よい疲れに身を任せ、深い眠りについた。
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「おはよう、晴道」
そんな声に、俺は起こされた。
声の主は梨子お姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは既に私服に着替えていた。
可愛らしい黄色のワンピースだ。
ミニスカ気味で、胸元がふんわりとしている。
控えめな胸元の梨子お姉ちゃん。
しかも俺の顔を覗き込むようにして屈んでいたので、胸元が丸見えだった。
「お姉ちゃん、見えちゃうよ!」
そう言った俺に、梨子お姉ちゃんは真面目な顔で言った。
「晴道、見えちゃうじゃないのよ、見せてるのよ!」
「りっ、梨子お姉ちゃん!?」
俺は慌てて飛び起きた。
「ねぇ、晴道、目が覚めちゃった」
時計を見ると、四時間ほど寝ただろうか。
「凄く良い天気で、気持ちいいの。
お散歩しよ!」
「判ったよ、着替えるからちょっと待ってて」
俺はそう言って、梨子お姉ちゃんを軒先に待たせて、急いで支度をする。
俺が着替え終えて部屋を出ようとすると、外から声がした。
「晴道、先行っちゃうよ!」
梨子お姉ちゃんは待ちきれずに先に駆け出していた。
黄色のワンピースに麦わら帽子、ピンクのサンダル。まさに夏の少女そのもので、俺には眩しすぎた。
俺が追いかけようと部屋を一歩出た瞬間、
『パパ、忘れ物』
そんな声が聞こえた気がした。
千紗か由美子が起きたのかと振り返ったが、部屋には誰もいない。
それに『パパ』って……。
その時、軒先に“ナックルダスター”が入った袋と、例の杖が目に入った。
「一応持って行くか」
俺はそう呟き、手ぶらだからと“ナックルダスター”を袋から出して拳に装着し、杖を手に持って歩き出した。
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Scene027【遭遇】
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梨子お姉ちゃんは先を走っている。
「晴道、畑があるよ、スイカみたい!」
俺は、その後ろ姿のスカートをたくし上げるふとももがまぶしく。
つい目を細めて眺め、ゆっくりと歩いた。
だから”それ”に気付くのが遅れた・・・
その畑の中に黒い小山のような物があった。
熊だった。
梨子お姉ちゃんに気付いた熊が立ち上がる。
「きゃーーーー」
梨子お姉ちゃんの叫び声が響く。
その瞬間から全てがスローモーションに見えた
あの花音さんを救った時と同じ
俺の思考が加速する
叫び声に気付いた熊が右手を振りかざす
大丈夫
梨子お姉ちゃんが恐怖で尻もちをついた
頭の位置が低い
手は当たらない
しかし次は
俺が梨子の所まで走っても未だ20歩はある
足元を見て足場を確認
あそこ と あそこ と あそこ
足に気を込めていっきに飛び出す
3歩で到着する
限界を越え損傷した足を気で修復する
熊の左手が振り下ろす
俺はナックルダスターを装着した右の拳で熊の腕を叩き上げる
熊が体勢を崩し僅かに後ろへ下がる
いける
右手を素早く下ろす
左手に構えていた杖の柄を握る
隠しボタンを押し刃を取り出す
鞘を投げ捨てる
抜き放たれた刀を両手で構える
突きの構え
一瞬で決めなければ
刃の先端に気を込める
身体ごと刀を突き出す
ごめんお前は悪くない
でも梨子を危険にさらすわけにはいかない
熊の胸に剣先が届く
肋骨の隙間を狙う
剣先がするりと入っていく
俺は、熊の心臓を捉えたのをはっきりと、この手に感じた。
命を奪う感覚。
熊の背中から、剣先が突き出る。
熊は叫び声を上げる間もなく、後ろへと倒れていった。
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Scene028【閑話】
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私は観測者だ。観測者は観測対象に干渉してはいけない。それが鉄則だ。干渉してしまえば観察対象に影響を及ぼす。それは観測の意味をなくす。
でも私はパパをこんなに早く死なせたくなかった。せっかく前世の記憶を残してやりなおしているのに。そしてママのひとりも死なせたくなかった。
だから私は禁を破った。それがこの世界にどんな影響をあたえるのか、私には判らなかった。




