ep003:その母親、若すぎにつき
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Scene012【旅路】
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俺たちは郡山へと向かう新幹線の中にいた。
時間にすれば一時間弱、大した時間ではないのだが、やはり旅情というのは良い物だ。
前世で何度となく訪れている霞の宿だが、由美子と行くのは初めてだし、何より前世の記憶とはまったく違っている霞の宿だ。
俺としても、今から到着が楽しみだった。
三人掛けのシートに窓側から、千紗、俺、由美子と並ぶ。
由美子も小五からの幼馴染ではあるが、俺との旅行は初めてだ。
「晴道、あーん」
俺の口の中にお菓子を持ってくる由美子は、完全に浮かれていた。
千紗は窓の外の景色を楽しむふりをして、
(私は何度も一緒に旅行しているから、譲ってあげる)
そんな事を考えていた。
(なんで、私が後ろなのよ!! 私だって晴道の横が良かった)
そんな心の中の声を後ろの席から激しく垂れ流しているのは、梨子お姉ちゃんだった。
そんな心の中の声は聞こえていない筈の千紗が、ふと振り返って言った。
「梨子姉さん、私が後ろでも良かったんですよ」
(梨子姉さん、凄い楽しみにしてたのに)
「いいのいいの、私“お姉ちゃん”だから!」
(千紗ちゃん、良い子。だからこそ、ここで譲って貰う訳にはいかないの。勝てなくなっちゃうから……)
そこに、ふと由美子の心の中の声が届く。
(晴道、両脇は巨乳で選んだの?)
失敬な。俺は巨乳好きだが、それで女性を選んだりはしない。
俺はおっぱいが控えめな梨子お姉ちゃんだって、大好きなんだぞ!
と心の中で言っても、由美子には通じない。
由美子は気を送るオン/オフはできるけれども、俺みたいに、そこに乗る想いを見る事はできないのだ。
(私が後ろに行っても良かったのに)
うう、みんな良い子で(俺の精神年齢からすると、どうしてもそう見てしまう)、みんなに愛されるハーレム状態は、なんと幸せな事か。
久々にこれを言おう。
人の心が見える俺には、ハーレム生活はイージーモード。
でも、一人に絞るのは無理ゲーだった。
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Scene013【到着】
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俺たちは朝早い時間に出発したので、会津若松駅に着いたのもまだ昼前だった。
そんな俺たちを、駅前で一人の女性が待っていた。
作業着のようなズボン姿。
そして、その作業着を見事に押し上げる、豊かな胸元。
「こんにちは、はじめまして。ようこそ会津若松へ。
霞の宿からお迎えに上がりました」
それは前世では和也さんの彼女で、
俺も一晩だけ肌を重ねた事の有る、美由さんだった。
(なんで、晴道の周りは巨乳ばっかりなのよーーーーっ!!)
後ろから、梨子お姉ちゃんが心の中の声で絶叫しているのが聞こえる。
そうなんだよ。
前世でも俺が出会った二年後の美由さんは十分な巨乳だったのだが、優香が行った『美由由美Web』の写真履歴での検証では、その二、三年で急成長したのであって、この頃はそこまででは無かったはずなのだ。
しかし目の前の美由さんは、すでに花音さんに匹敵しそうな巨乳だった。
「貴方が晴道君ね」
話しかけられ、俺は我に返る。
「私は中田美由」
うん、知ってる。
「花音が、お世話になっているみたいで」
(色々な意味で)
あっ、これ……花音さんの初めてを貰ったの、完全にバレてるな?
「あっ、私は花音の従姉妹で、幼馴染みなんですよ!」
……それ、知らない!!
由美子に続いて、また生まれの段階からして前世と違っていた。
もっとも、俺の沙織母さんと千紗の美優お母様だって、前世では面識のなかった“はとこ”同士だったのが、
今世では交流のある“従姉妹”同士だもんな。
俺が最近まで目を逸らしていただけで、
今世は前世と全く違う世界なんだ。
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(綺麗な人。後もう少し長身だったら晴道のどんぴしゃだった。あぶないあぶない)
千紗は隣で相変わらず冷静な分析をしている。
(ねえ、巨乳枠はもうこれ以上出てこないよね? ねっ!?)
由美子はすがるような心の中の声で語りかけてくる。
返事をしたって通じないんだけれども。
そういえば、由美子と似た名前の田中由美さんも、今世も霞の宿で仲居をやっているのかな?
前世では巨乳枠じゃなかったけれども……今世は『美由由美Web』が無いから、調べる術がなくて分からないや。
やがて、美由さんが駅前のロータリーへと俺たちを案内した。
「私はちょっと用事があって、先にここに来ていたんです。
もうすぐ迎えの車が来るはずなんですが」
ちょうどその時、側面に『霞の宿』の文字が書かれたバンがやって来た。
そして、運転席から降りてきた運転手は――。
由美さんだった。
ただし、やたらと巨乳になっている。
いや、あれは……。
「ねえ、由美! なによそれ、一体何枚パッド入れてるのよ!!」
(道理で朝から顔を見せないわけよ)
美由さんが呆れた声を出す。
そう、それは盛りに盛った、あからさまな偽乳だった。
「だって、花音が『晴道くんは巨乳しか愛せないのよ』なんて言うんだもん!!」
(私だってチャンス欲しいじゃん!!)
由美さんが涙目でそう言い返した瞬間だった。
「晴道は、おっぱいじゃ女性を選ばないもん!! 私の事が大好きなんだもん!!」
(晴道は、おっぱいじゃ女性を選ばないもん!! 私の事が大好きなんだもん!!)
梨子お姉ちゃんが割って入って叫んだ。
口から出たセリフと、心の中の声が完璧に一言一句一致した、まさに魂の叫びだった。
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Scene014【桔梗】
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微妙な雰囲気を残しながら、俺たちは送迎車に乗せられ霞の宿へと向かった。
やがて、山の中腹に宿が見えてくる。
敷地にはアスファルトではなく土の道が続いていた。
前世にあった新館は存在せず、別館も木造平屋のまま。
前世は一つの町という感じだったが、今世はまさに隠れ里という感じだった。
車を降りてから、本館(これは記憶通り)に向かっていると、一面の紫の桔梗の花畑が現れた。
「綺麗……」
呟いたのは、誰だったのか。
そして俺たちは、その中に一人の女性が佇んでいるのに気付く。
紫の和服を纏った花音さんだった。
その姿は体のラインもすっとし、凛としていて、もはや幻想的ですらあった。
「晴道、よく来てくれました」
そう言って、すっと頭を下げる花音さんを見て、梨子お姉ちゃんは呟いた。
「私、こんなのに勝てるの?」
(だって、こんなの巨乳とか関係ないじゃない)
俺は、そんな梨子お姉ちゃんに『そんな事ないよ』と声を掛けてあげたかったが、まだ時期尚早だとも分かっていた。
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Scene015【国宝】
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花音さん自ら案内してくれた部屋は案の定、本館特別室だった。
「千紗、由美子、気をつけて。
この茶碗国宝級だし、そっちの掛け軸は重要文化財級だよ」
「「そっ、そうなの?」」
二人の声が完全に揃う。
「何言ってるのよ、晴道違うわよ」
(晴道知らないんだ)
少し調子を取り戻したかに見える梨子お姉ちゃんが、笑いながら言う。
((そっ、そうだよね))
千紗と由美子の心の中の声が揃う。
「この建物が重要文化財に登録された時に、一緒に国宝と重要文化財に指定されてるって」
「「「ええええ」」」
「そんな、Webページには何も書いてなかった」
俺は心底驚いた。
「まぁ、特に宣伝や自慢するような事でもないですから」
花音さんもしれっと言った。
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Scene016【挨拶】
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部屋に葉月さんが挨拶に訪れた。
「ようこそ、霞の宿へお越しいただきました。私は女将の葉月と申します」
俺が前世で葉月さんと初めて出会ったのは今から二年半後。
あの時、どう見ても三十代前半で、花音さんのお姉さんかと思った。
なので、今は三十歳位に見えてもおかしくはないのだが……。
しかし、今の葉月さんは……二十代前半にしか見えないのだ。
花音さんと並んだ様子は、どう見ても姉妹。
しかも葉月さんの方が長身なのに、花音さんの方が姉だった。
見た目年齢バグってんだろ!
そこで、千紗が恐る恐る尋ねた。
「あの、葉月さんって、花音さんの……」
「ええ、母よ」
花音さんが答える
「ですよね……」
(((どう見てもおかしいだろ)))
俺たちの心の中の声が綺麗に揃った。
そして言うまでもないが、壮絶な美人だ。
先ほど花音さんが見せた凛とした姿を、もっと洗練させた感じだった。
そこに、由美子の心の中の声が届く。
(ねぇ、晴道、これで脱いだら凄かったりしないよね!? ねぇねぇ)
俺は、涙目でしがみ付く由美子を幻視した。
そして、前世でこっそりと写真で見せてもらった、葉月さんのミニスカサンタ姿を思い出す。
(ごめん、由美子、本当にごめん)
俺は由美子には伝わらないと思いつつ、心の中で平謝りするのだった。
だって、今思い出してしまったその葉月さんの姿が、
俺の脳裏から離れないのだから……。
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Scene017【提案】
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花音さんが一度退出し、葉月さんが淹れてくれたお茶をいただいた。
お茶菓子は上品で味わい深かった。
やがて花音さんが戻ってくる。
カジュアルな装いに着替えていた。
「みんな、準備は良いかしら?」
「はい」
実は花音さんから、事前にこの昼の間に、今夜、天体観測をする場所を見に行かないかと誘われていたのだ。
宿の庭先でも十分観測できるけれども、せっかくなのでまったく灯りの無い山の中で行わないか、という提案だった。
花音さんは、少し恥ずかしそうに言った。
「あのね、人数分のお弁当を作ってきたの。
下見ついでに、みんなでピクニックはどうかな?」
(お友達の為のお弁当なんて、初めて作った)
「それイイ!! 行こう行こう!!」
千紗が騒ぐ。
もちろん、他のみんなからも反対意見が出るはずもなかった。
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宿を出ると、俺は守さんに呼び止められた。
「晴道君、少し良いかな?」
「あっ、守さん。こちらに戻られていたんですね」
「まあな、俺は姫さまの専属護衛でな」
「そうなんですね」
「それで、すまないがこれを持って行ってくれ」
俺は守さんから、小さな袋とスプレー缶、それに鈴の付いた杖のような物を渡された。
袋の中を覗くと、あの花音さんと千晴さんの救出作戦の時に使った“ナックルダスター”が入っていた。
「山で熊の目撃情報があってな。
この辺りでは珍しくもないのだが、念の為だ」
「この辺りだとツキノワグマで、これは熊スプレーですね」
「詳しいな」
前世の記憶では、日本中で熊問題が大きくなるのは四年後。
まだそんな騒ぎになっていない時代だ。
ただ、日本中で騒ぎになっていないだけで、
実際には熊との遭遇事件はこの時代でも数多く発生していたはずだ。
「杖の柄の下に、隠しボタンが付いている」
柄。それは日本刀の握る部分だ。
「それを押すと鞘が外れるようになっていて、中には、君があの時に使った日本刀が仕込まれている。
鍔は外してあるが大丈夫か?」
鍔。それは日本刀の刃の根本に付いている防御の金具。
本来の用途は、相手の刃から柄を握っている手を防御し、
激しい突きを行った時に、手が滑って自らの刃に当たってしまわない為のものでもある。
こんな物を使う機会などあって欲しくないが、守さんはプロだ。
常に実戦を前提に話をする。
だから、俺も真剣に答えなければいけない。
杖の状態のそれを強く握り、力一杯に振ってみた。
ズギュン、と空気が震えた。
「はい、大丈夫そうです」
守さんが、あっけにとられたような顔をしていた。
「えっ、どうかされましたか?」
そう聞いた俺に、守さんは呆れたように答えた。
「いや、君なら刃など出さなくとも、その状態で熊を倒せそうだなって思ってな」
そっか。なかなか頑丈そうな鞘になっているし、それも有りかもしれないな。
「ありがとうございます。
それでは気を付けて行ってきます」
俺が守さんに挨拶をして、花音さんたちを追いかけようとしたが、
「山には実践部隊の猛者を二十人ばかり配置しているが、もしもの時は姫さまの事をよろしく頼む」
守さんは、拳を強く握り締めた。
「熊だろうが何者だろうが、姫さまのデートは二度と邪魔させない!!」
ちょっ……過保護過ぎませんか!?
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Scene018【閑話】
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転生をし、二度目の人生を歩み始めた俺は、
ある程度身体ができた所で、自衛の手段を考える事にした。
前世の俺は、頭のおかしな奴にナイフで腹を刺されて死んだ。
どんな技を持っていても、懐に入られたら終わりだ。
事実、俺はそいつを殴り倒したが、もう手遅れだった。
だから俺は剣道を選んだ。
これならば、相手を懐まで近づけさせずに済む。
もちろん竹刀を持っていない時には無防備だが、
傘、棒切れ、伸縮式の特殊警棒――いざとなればなんとでもなるだろう。
俺は鍛錬を惜しまなかった。
そうして中学になる頃には、有段者となっていた。
俺の突きは重く鋭いと、大会でも一目置かれる存在になっていた。
こんな技が、本当に必要になる日など来ない事を祈りながら。
今回思い出した前作の各シーンになります。
〉俺も一晩だけ肌を重ねた事の有る、美由さんだった。
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〉優香が行った『美由由美Web』の写真履歴での検証では
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〉この茶碗国宝級だし、そっちの掛け軸は重要文化財級だよ」
〉俺が前世で葉月さんと初めて出会ったのは今から二年半後。
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〉そして、前世でこっそりと写真で見せてもらった、葉月さんのミニスカサンタ姿を思い出す。
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