ep002:その予約、特急案件につき
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Scene007【知らなかった】
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梨子お姉ちゃんが全てを暴いた後に、あっけらかんと言い出した。
「ねえ、これから食事なんでしょ?
私も一緒に行ってもいいかな?」
「えっ、ええ、勿論よ」
花音さんが答える。
拒否できる筈も無かった。
「あとね、これだけ天体観測部のメンバーが集まっているんですもの、千紗ちゃん達も呼んじゃいましょ」
「そっ、そうね」
花音さんが答える。
拒否できる筈も無かった。
「だって、一学期はろくに活動できてないんでしょ」
うん、天体望遠鏡の使い方を少し勉強したくらいだ。
「だから、天体観測部の活動って事で、顧問の奢りね!」
「もっ、勿論ね」
花音さんが答える。
拒否できる筈も無かった。
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花音さんに呼ばれた千紗が、すぐに上がってきた。
「花音さん、ご飯奢ってくれるんですって!
美優お母様にもちゃんと許可取ってきました!
晴道と由美子も一緒なんでしょ?」
そこで、千紗は部屋の雰囲気に気付く。
「あれ、梨子姉さんに……えっと、こちらの方は?」
(どこか、晴道に似てる。晴道ほどイケメンじゃないけれども、モテそう)
「私の従兄弟の上嶋和也兄さんよ」
由美子がさらっと答えた。
……って、えっ? えーーーっ!?
知らなかった。
と言うか、前世ではそんな関係は無かったはずだ。
あっ、そういえば前に花音さんが言っていた、由美子も一ノ瀬の血筋っていうのは、そういう事だったんだ!
俺はふと気付いて声を上げる。
「でも、この前……」
「ああ、あの時は由美子、ずっと仮面を着けてたしね。
頑なに“赤影”って名乗っていたから、
気付かないふりをしておいた方が良いのかなと思って」
和也さんはそう答えた。
(私は知ってたけれどね。知ってて知らないふりをしてるのかと思ってたわ)
花音さんが心の中の声で伝えてくる。
(守さんに『和也さんの素性は知っていますよね?』って言ってたから、晴道も気付いているのだと思ってた)
由美子も同じく心の中の声で伝えてくる。
あー……前世の記憶があって、心の中の声が聞こえるからって、自分は知らない事なんてない、みたいな気になっちゃっていたけれども。
そんな事、全然ないんだな。
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Scene008【予約】
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武と優香に連絡を取ると、二人はデート中だった。
夕食も二人で済ませる予定だったらしく、ちょうどいいからと合流する事となった。
これで、花音さん、和也さん、梨子お姉ちゃん、由美子、千紗、武、優香、俺――合わせて八人になった。
「八人が一度に顔を合わせて食事するとなると……中華のコースにしましょうか。
梨子さんはお幾つなのかしら?」
「あっ、私は来月末で二十歳です」
「あら? 晴道と誕生日が近いのね」
「生徒の誕生日を覚えてて、名前を呼び捨て。やっぱり怪しい」
(私の晴道なのに)
梨子お姉ちゃんの突っ込みが激しい。
っていうか、俺いつの間に梨子お姉ちゃんのものになったんだ?
花音さんはそれを華麗にスルーした。
慣れたというより、そうでもしないと身が持たないのだろう。
もし心の中の声を聞いていたら、そうはいかなかっただろうけれども。
「じゃあ、予約取るわね」
「お願いします」
花音さんは携帯電話を取りだし、どこかに連絡した。
「あら、この電話は支配人か店長しか持ってはいけない筈だけれども?」
・
「そう。支配人は総理と打ち合わせ中で、
店長はお手洗いで、少しだけ携帯電話を持たされたと」
花音さん、わざと会話を復唱して、
周りの反応を楽しんでいる。
「じゃあ、貴方が支配人に伝えて」
・
「大丈夫。『一ノ瀬の特急案件と聞きました』と言えば、貴方は総理に感謝されるわよ」
・
「ええ、それじゃあお願いね」
周りのみんなの顔が引きつっている。
俺はこういうのに直面するのが二度目だから、
もう慣れたけれども。
すると、すぐに折り返しの電話が来た。
「あら、支配人。早いわね、ありがとう。
総理に割り込んで申し訳ありませんって伝えておいて」
・
「えっ、店長をクビに?良いわよそんな事。
それより、今日のディナーをお願いしたいのだけれども」
・
「八人。お酒は二人だけで」
・
「えっ、ここまで迎えを寄越すって?
そうね、時間と駅は……」
花音さんはお店との通話を終えると、俺たちに向かって言った。
「さあ、出掛けましょ。
武くんと優香ちゃんと合流しないと」
そして、唖然とする俺たちを見て首をかしげる。
「あら、みんなどうしたの? 出かける準備は大丈夫よね」
「あの……ドレスコードとかって大丈夫ですか?」
呆然とそう尋ねる梨子お姉ちゃんに、
花音さんはにっこりと微笑んだ。
「何言ってるの、ただの中華よ」
((絶対、ただの中華じゃないだろ))
俺たちの心の中の声が、見事に一つに揃った。
(ちょっとは仕返しできたかしら)
そんな花音さんの可愛らしい本音が、
心の中の声からぽろりと漏れていた。
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Scene009【到着】
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武と優香と合流し、駅前で待っていると、迎えのクルマが来た。
ストレッチリムジンだった。
((やっぱり、ただの中華じゃないだろ))
花音さんと、事情を知らない優香、武以外の心の中の声が完璧に一致する。
「ダックスフンドみたい」
優香のぽつりとした呟きに、全員が深く合意した。
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車内は向かい合わせのソファ席になっており、八人が座ってもまだ十分な余裕があった。
「ホテルのラウンジみたい」
優香のぽつりとした呟きに、全員が深く合意した。
車内には、簡易的ながらバーカウンターまで準備されていたのだ。
俺は、周りに黒塗りの護衛車が数台併走しているのにも気付いていた。
雰囲気からすると、霞の者ではなさそうだ。
ちなみに、運転手からは一切の心の中の声が聞こえてこない。
『なぜ、こんな子供たちが?』そんな風に思っていても不思議じゃないのに。
あの花音さんと泊まったホテルのスタッフと同じ、超一流の人間なのだろう。
そして、四十分ほどの道のりで、目的地に着いたようだ。
“ようだ”と言うのは、門構えがお店には全く見えなかったからだ。
看板どころか、案内板すら無い。
高級ホテルか、いや、むしろ大使館のような場所だった。
千紗が小声で俺に問いかけてきた。
「ねえ、ここ本当にご飯食べるお店? Google mapに何も情報無いんだけれども」
千紗が見せてきたスマホの画面によると、場所は赤坂・霞が関の境界あたり。
きっと紹介が無いと入れない、完全予約専用の場所なのだろう。
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案内された部屋は、むしろシックで落ち着いた装飾の部屋だった。
大きな丸いテーブルを座席が囲んでおり、その中央にはあのよくある回転テーブルが設置されていた。
「ねえ、知ってる? この回転テーブルって、実は日本発祥なんだよ。
それが今では、台湾を経由して、本場の中国にも逆輸入されているんだって」
(みんな萎縮しすぎ。せっかくなんだから楽しもう)
千紗のそんな優しい心の中の声が聞こえる。
「へえ、そうなんだ。日本人らしい、細やかな工夫だよね」
俺がそれに応じたのをきっかけに、部屋の空気がほぐれ、会話が賑やかに盛り上がり始めた。
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Scene010【計画】
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やがて、花音さんと和也さんには食前酒、他のメンバーにはお茶が配られた。
その香りだけで、この場がとてつもなく高級な場所なのだと納得させられる。
「ねぇ、みんな聞いて」
うん、こういう時の梨子お姉ちゃんは、きっととんでもない事を言い出す。
それを良く知る由美子、千紗、優香に緊張が走る。
ちなみに武は、それを知っていてもなお、平然とお茶を飲んでいる。
豪胆なのか、それとも何も考えていないだけなのか……幼馴染として、
前者という事にしておこう。
「天体観測部としての合宿をしてみない?」
よかった、意外とまともな提案だ。
「うん、良いんじゃないかな!」
俺はほっとしてそう答える。
「八月十二日の夜から十三日の明け方が、ペルセウス座流星群のピークなのよ。それをみんなで観測するなんて、どう?」
「ちょっと急だけれども、凄く良いと思う!!」
(いい、いい、それイイ、絶対やりたい!!)
千紗も目を輝かせて喜んでいる。
だから、俺もさらに話に乗る。
「場所はどこが良いかな? 学校に許可を取って、泊まり込みで屋上とか?」
しかし、それに対する梨子お姉ちゃんの提案は、やはりというか、とんでもないものだった。
「都内の夜空じゃ、灯りが多すぎてろくに観察できないわよ。
顧問の実家に泊まらせて貰えば良いじゃない!
だって、花音さんの実家って、会津若松の老舗旅館『霞の宿』なんでしょ。
福島県の山奥、これ以上天体観測に適した場所なんて無いって!!
八月十二日から十四日の二泊三日くらいでどう?」
「問題は人数ね。みんなの予定はどうかしら?」
花音さんも意外と乗り気だ。
「俺は、サッカー部の合宿と被るから無理だ」
武が残念そうに答える。
「私も無理なの」
優香も続けてそう言った。
「えっ、優香も? それって……」
千紗が不思議そうに確認すると、優香はえっへんと胸を張った。
「私ね、サッカー部に入ってマネージャーになろうと思うの!」
その瞬間、その場にいた全員の心が一つになった。
(絶対に合ってる。ただし有能なマネージャーとしてではなく、癒やしのマスコットとして)
優香のドジっ子ぶりを考えたら、部員たちの手間はむしろ余計に増えるかもしれない。
しかし、それを補って有り余る癒しを連れてくるだろう。
武という絶対的な彼氏が居るから、部内での不穏な取り合いに発展する心配もないしな!
「それじゃあ、和也さん。
これも何かの縁よ、貴方も千晴さんを連れて、どうかしら?」
花音さんがそう提案するが、
「いえいえ、とんでもない!
そこまでお世話になる訳にはいきませんよ!!」
(無理無理無理)
和也さんはなんだか、とても恐縮していた。
俺はこの時、このところ超VIP待遇が続いたせいで、
自分の感覚が麻痺している事に気付いていなかったんだ。
「そう? あんな事に巻き込んでしまった、
お詫びも兼ねてだったのだけれども」
花音さんはそう言って、それ以上は引き留めずに諦めた。
「俺はインターハイが終わったばかりなんで、参加できます」
「私もです!」
(晴道と旅行!!晴道と旅行!!!)
由美子はあえて強い心の中の声を聞かせてくる。
すると、梨子お姉ちゃんも身を乗り出した。
「私はOGとして参加しても良いですか!?」
(これをきっかけに、晴道との仲を進めるの!!)
「それはもちろん歓迎よ!」
花音さんは快諾した。
もしも梨子お姉ちゃんのこの心の中の声を聞けていたら、
そうじゃ無かったかもしれないけれども……。
そう、梨子お姉ちゃんは、俺の肩で泣いたあの日から、俺の事を好きなんだ。
俺が高校に入るまでは自重していたらしいけれど、
最近になって段々とスキンシップが増えてきた。
でもさ……俺だって嫌じゃないんだ。
だって、幼い頃からの憧れのお姉ちゃんなんだから!
「それじゃ、参加は晴道、千紗ちゃん、由美子ちゃんに梨子ちゃんね。
四名ならなんとでもなるわ。
全部無料招待よ!」
花音さんは、俺にも、みんなにも良いところを見せたかったのだと思う。
こうして、俺たちの合宿計画は始まったのだった。
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Scene011【閑話】
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その後の会食は、大いに盛り上がった。
運ばれてきた中華料理のコースは、ごく普通だった。
特に凄く珍しい品が出るわけでもなかった。
ただし、皿が出てきた瞬間に香りだけで虜にさせられる。
一口食べただけで、最高級の食材が使われているのだと素人の舌でもはっきりと判ってしまう。
それを普通というならば、だが。
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帰りは、マンションの前まであのストレッチリムジンで送られた。
和也さんは別の車で送ると言われていたのだが、
なぜかまるで懇願するかのように必死に辞退していた。
帰宅した後、俺は住所を元にして、ネットで今日の店の噂を検索してみた。
判明したのは、政府高官のみならず、皇室御用達という事実。
今回のようなコース料理だと、一人最低でも二十万円。
送迎や護衛の費用まで考えたら、そんな物では済まないかもしれない。
俺はふと我に返り、今度は合宿の費用を計算してみる事にした。
カジュアル向けの新館を使えば、前世の記憶だと一泊三万円前後だったから、そこまで高い訳じゃ――。
調べてみて固まった。
新館なんて作られていなかった。
そうだ、前世の記憶と違って、今世の霞の宿は衰退する事なく絶頂期のままだ。
それなら、新館を建築する理由なんてどこにも無い。
そして、本館は前世での記憶では有形文化財だったけれども、今世は重要文化財で登録済み。
しかも別館は、前世の記憶にあるようなモダン建築ではなく、厳かな木造建築だった。
えっと……宿泊費、一体いくらになるんだろうか。
画面に表示された検索結果は、
■別館
ら・一泊 三十万〜四十万円
■本館
・一泊 四十万〜六十万円(特別室除く)
前世の記憶からすると、およそ倍の値段だった。
更には、現在の霞の宿は重要文化財に登録されたことで人気に拍車が掛かり、別館は半年先まで予約で埋まっており、例え常連客であっても例外なし。
本館も通常予約は半年先まで埋まっており、
常連や“やんごとなき方々”で、ようやく二週間前くらいまで予約が取れるんだとか……。
今って、もう合宿まで二週間切っているよね。
これって、もう特別――いや、言うまい。
口にしたら、本当に実現しちゃいそうだ。
今回思い出した前作の各シーンになります。
〉前世の記憶からすると、およそ倍の値段だった。
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