ep004:その口づけ、人外につき
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Scene009【事件】
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ある日、晴道が職員室へと訪ねてきた。
「花音先生、小泉晴道です。ご相談したい事があります」
その言葉には、強い気が込められていた。
これは何かある。
そう理解した私は、すぐに話を聞くための準備をすることにした。
教頭の所へと向かい、声を掛ける。そこに強い気の力を使い、命令を埋め込んだ。
「教頭先生、生徒と話したい事があるので、指導室を使っても良いでしょうか」
(部屋の予定を空けなさい。監視カメラも止めるのよ)
教頭はまるで夢遊病のように立ち上がると、監視カメラの端末を操作し、部屋の鍵を私に手渡した。
そう、強い気を言葉に乗せると、催眠術に近い効果を得られるのだ。
「1時間で良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
私がそう答えると、教頭は夢から覚めたような顔をして、自分の席に戻っていった。
「さあ、行きましょうか」
私は晴道を促した。
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指導室は生徒のプライバシーを守るため、防音が徹底されており、窓も無かった。
何かが有った時のため、普段は24時間監視カメラで録画されているが、それも今は教頭に止めさせた。
つまり、ここは密談に最適な空間だった。
「晴道君、貴方がそんなに慌てるなんて、何事かしら?
あんな気の力を使ってまで、合図をして」
「すみません、あれが一番早く花音さんに伝わるかなって……」
珍しく晴道が焦っている様子だ。
「それで、相談って?」
「気を使った、怪我を治す術の使い方を俺に教えてください」
何が有ったのか知らないけれど、これは本気を出さなきゃいけなさそうね。
私は体内に留めておいた気を、一気に解放する。
その様子に気付いた晴道が、驚きに目を見開いた。
「それは、貴方の秘密を全て話す気になったって事?」
「ごめんなさい、それはまだできません」
そう問う私に、晴道はまだ答えない。
……まぁ、それは仕方ないわね。
「まぁ、それは良いわ。
それで、私が貴方に術を教えて、私にはどんなメリットがあるの?」
私は晴道とは対等な関係を結びたいと思っている。
一方的な教授はダメだ。
「あの、それは……。
術を教えてもらえれば、花音さんのお願いをなんでも聞きます」
「あら、何個でも?」
「いや、あの……それは、できれば一つで」
私はおかしくなった。
「ふふ、良いわ。
乗ったわよ。
貴方に気の使い方を教えてあげる」
「ありがとうございます!」
晴道は今、油断をしている。ここが試すチャンスね。
私は言葉を発さず、気に自らの思いを乗せて放った。
『私とデートをしなさい』
さあ、どうなる?
「えっ、デートですか?」
やっぱりね。
「ふふ、やはり貴方は、気に込められた言葉を“見る”事ができるのね」
「えっ、ええっ!?」
「今の“デート”は私は言葉に発してないの。
気にそれを乗せて発しただけ」
「あっ……」
やられた、って顔をしている。可愛い。
「ふふ、デートはどこに行きましょうか?」
「えっ、それって本気なんですか?」
「当然じゃない」
楽しみすぎる。
私は頬が緩むのを抑えきれなかった。
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Scene010【解放】
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「それじゃあ、始めるわね」
私は準備を始める。
「はい、お願いします」
「貴方は気の力を知っている」
まず状況確認。
「はい」
「そして、貴方は私の遠い親類」
少し揺さぶりを掛けておく。
「えっ!?」
「なによ。
それくらい調べるに決まってるでしょ。
貴方は私たち一族の正体すら知っていたのだから」
もう一度状況確認。
「貴方は気の治療を使った事があるのね。
……でも、今はまだ使った事がない、と。
あら、矛盾しているわね」
これって……。
私は先日私に浮かび上がった、ある筈の無い記憶を思い出す。
「貴方、転生でもしているの? 二度目の人生とか?」
でも、最終的な事は、晴道が話してくれるのを待とう。
「気の術はね、イメージさえ出来ればもう完成したも同然なの。
貴方にはもう、そのイメージがあるんでしょう?」
「はい」
「あとは、今は閉じている気の回路を全開にするだけね」
「どうするんですか?」
「本当なら、深く深く気の交換をするんだけれども」
「それは……」
「セックスよ。
貴方の気を私の中に注ぎ込んでもらって、私の気を貴方に返す。
それで気の循環を起こして、気の回路が全開になるわ」
自分で言っておいて、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
だって、私はセックスはおろか、キスだってした事が無いのに……。
晴道がごくりと唾を飲み込んだ。そして彼の思いが気に乗って伝わってくる。
「あら、貴方は私の身体を知っているのね」
「なっ、なっ、なんで……!?」
「ふふ。貴方が想像した私の身体が、あまりにも正確だったから。
貴方、結構考えている事がだだ漏れなのよね」
間違いない、彼と私は深く深く愛し合った事があるんだ、
それは前世の記憶なのだろうか。
「貴方が漏らした気に、私の身体の記憶が乗っていたのよ。いつ私と交わったのかしらね?」
「あの、それはまだ言えないんです」
「良いわよ、約束ですもの。
デート1回で、術を伝授してあげる」
「あっ、あの、デートは2回でも3回でも良いです!!」
「本当!?」
えっ、嬉し過ぎる!!
「じゃあ、早速始めましょ」
「えっ、セックスですか!?」
なっ、なっ、何言ってるのこの子は。
「ばっ、バカじゃないの!? さすがにここじゃダメでしょ!」
いや、でも、いつかきっと。
というか、デートしたらきっと!
でも今は――。
「こうするのよ!」
私は晴道の唇を奪った。
私のファーストキス。
それに渾身の気を流し込む。
晴道との間にすさまじい気の交換が行われる。
「なによ、この爆発的な気の本流……。
貴方、本当に人間なの……?」
それが私の素直な感想だった。
私は一体、何を解放してしまったのだろう。
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Scene011【実践】
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「ふふ、そんな人外の力があるなら、治療の術なんて簡単よ」
私はそう確認していた。
「そうなんですか?」
だから、袖口から護身用に隠し持っていた暗器を取り出すと、自らの腕を切り裂いた。
もちろん、血管を切らないように気を付けている。
見た目ほどの傷じゃない。
それでも、トクトクと鮮血が流れ出す。
「なっ、何するんですか!?」
その腕を差し出すと、晴道は懸命に手をかざして気を送り込んできた。
――それは、奇跡の光景だった。
流れ出した血が逆流するかのごとく、体内へと戻っていく。
ナイフで引き裂かれた皮膚が、みるみる繋がっていく。
あっという間に、傷は“消えた”。
しかし、晴道はそれに気付かず、必死に気を送り込み続ける。
っ、あ、なにこれ……気持ちよすぎる……。
これ以上、こんな濃密な気を送り込まれたら私、おかしくなっちゃう……!!
「はっ……晴道、もう良いわよ……」
私の声に、晴道がやっと我に返った。
私は自分の腕をじっくりと観察してみる。
「傷どころか……出血も消えたわ」
「えっ?」
「これじゃあ治療じゃなくて、まるで時間逆行よ」
私は思わず呟いていた。
「晴道、貴方……世界の理すら超えているわよ」
それは、愛おしさと同時に、恐怖ですらあった。
「花音さん、本当にありがとうございます!
俺、今から由美子の所に行ってきます!」
晴道はそう言って、勢いよく指導室を飛び出していった。
「由美子って……里塚由美子!?」
私が声を掛ける間もなく、彼は走り去ってしまった。
一ノ瀬の血筋を持つ由美子が、この晴道の気を直接受けたとしたら。
晴道と同じく、何かに目覚めてしまうのでは……?
私はその不穏な予感に、ただ驚愕するのだった。
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花音が指摘した過去の経験は前作での経験になります。
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