三話 勇者の成れの果て
「ワレはリヴェル・マーフィー。偉大なる魔王の娘なのだ!」
「はあ!?」
「まさかとは思ったけど……」
リヴェルはいつも通り元気よく挨拶をし、爆弾を落としていく。
かつての勇者、ラージュ・アルティネスは驚きのあまり声をあげた。
そりゃそうだろう。人間にとっての魔王は恐怖の象徴であり、敵だ。その魔王を倒すためにたくさんの人間が死力を尽くして討伐を図った。しかし、討伐できたものは誰一人としていない、圧倒的強者。
その娘が目の前に。
こんなもフレンドリーに。
女子高生の方は頭を抱えていた。
「オレは元勇者のラージュ・アルティネスだ。」
「元治癒師、シルディア・クラーク。」
とりあえず敵意がないことがわかった二人はリヴェルに昔の名前を名乗る。
「うむ、ラージュにシルディアだな!……ところで二人とも、父上に殺されていなかったか?なぜ生きているのだ?」
「……転生した」
シルディアが呟く。
しかし、転生などと言う言葉、元の世界にはない。
リヴェルが言葉の意味を理解しようと頭をひねるが、答えは出ない。
それを見かねたラージュが自分たちの状況を説明した。
「お前の父に殺されて、気が付いたらこうなっていたんだ。こっちの世界では死んでよみがえる事を転生と言う。こちらからしたら異世界転生だが、こっちの言葉的には現世界転生か?まあ、死んだら別の世界で生き返ったってことだ。……幼馴染と親子と言うオプション付きで。」
「ゲンセカイテンセイ?かっこいいのだ!テンセイ?なんて言葉があるということはこの世界では生き返るのは普通の事なのか?どんな魔法なのだ!?」
リヴェルは目をキラキラさせ、二人に詰め寄る。
シルディアは目を逸らしながら言う。
「……発達してたのは妄想力。この世界の妄想は恐ろしいわ。」
「この世界では魔法を使わずに人を生き返らせれるのか!?ますます興味深いのだ。」
「……ええ、興味深い。どうしてあそこまで入り込めるのか……」
すれ違っている二人の会話をラージュが正す。
「いや、こっちの世界でも生き返るなんてことはできない。オレたちは原因不明の状態だ。シルディア、余計なことを吹き込むな。」
「間違ったことは教えてない。娘を疑うの?おと~さん」
二人の会話にリヴェルは疑問を覚える。
「二人は親子なのか?でも、パーティーメンバー同士だっただろう。なぜ勇者だけ老けたのだ?」
「オレだけ変なことになってるみたいに言うな。オレだけじゃないからな。」
「体系が変わったのはラージュだけ。」
「体の構成が丸ごと変わったやつもいるだろ!」
「なに!?他にもテンセイした奴がいるのか!?」
ラージュが自分だけかつての美貌が消え失せ、どこにでもいるおじさんになったことを否定したことにより、いよいよ収拾がつかなくなってきた。
「ふふ、今日はにぎやかねぇ~」
そこに救世主のように現れたのは一人の女性だった。女神のように優し気な表情とおっとりしたしゃべり方、整った顔立ち。彼女はにっこりと笑い、近づく。
彼女はどこから出てきたのだろうか?
そんな疑問も持たせない程、相手の思考をくぎ付けにしてしまう女性。
しかし、この悪魔には通じない。
魔王に精神の成長を止められてから、考えるより直感を使った戦い方を使ってきたからだ。
「ほう、大した暗殺者だな。」
リヴェルは言う。憧れの父のように、言う。その言葉に宿るのは、強者の余裕と幼い好奇心。
一方『暗殺者』、そう呼ばれた女性は動揺を見せることなく話しかける。
「あら?フフフッ、面白い子ね。そんなわけないでしょう?」
「覚えているぞ?魔王城でのこと。すごい戦いだったのだ。それに、調理用ナイフか?持っているではないか。」
元パーティーリーダーとしてラージュが口を挟む。
「メリー、そいつに敵意はない。それに、戦ったとしても、今のオレたちじゃ、また負けるだけだ。」
「わかっているわ、バカじゃないもの。でも、やらなきゃいけないでしょう?前のように。」
メリーと呼ばれた暗殺者の目に映るのは、リヴェルか、魔王か。
メリーは懐から調理用ナイフを取り出し、カウンターに置く。
ラージュは平和のために魔王と戦った。そして、大切な仲間を失った。けれど、また会えた。この奇跡を、経験を無駄にするつもりはない。
戦ってはいけない。この平和な場所に争いを持ち込むのも、仲間を失う可能性のある行動も、もうしない。繰り返さない。
だから、この幼い悪魔に敵対視されてはいけない。
「それで殺されたら何の意味もないだろ。死んだら、何も残らない。そうだろう?」
「けれど……」
「失礼だな!ワレは殺さないのだ!」
リヴェルに対し、シルディアがぼそりとつぶやく。
「悪魔ほどの力があれば、意図せずとも殺せてしまう。」
「殺すわけないのだ!ワレは力加減を父上から学んでいるのだぞ!?」
「なおさら不安」
「ひどいのだ!!」
悪魔と人間、その二つの間には埋まることのない大きな溝があった。
それぞれに違う正義と常識があり、互いが悪だと世界に教えられた。
それを鵜吞みにしたものたちが、戦って、戦って、戦って。
その果てに、不幸だけが積み重なっていく。
どちらも間違ってない、どちらも正しくない。
なのに、誰も気が付かない。
そんな世界だった。
なら、この物語は______
「不安ならば、ワレが誓おう。ラージュ、シルディア、メリー。ワレは貴様等とその仲間には絶対に手を出さない。この地に住まうものも、向こうから戦いを挑まれぬ限りは何もしない。」
「その言葉が信じられるという、根拠は?」
「ワレは誇り高き魔王の血族だ。この様な些細な事で嘘をつき、父上の顔に泥を塗るような真似はせぬ。」
「それは、お前に何のメリットがあるんだ?いくら何でも怪しすぎる。」
「ふむ、ならば交換条件だ。」
その言葉で、元勇者パーティーの間に緊張が走る。
悪魔はかわいらしくウィンクをし、言う。
「ワレが元の場所に帰れるまで、衣食住を提供してほしいのだ!貴様等はワレを監視できる、ワレはおいしい物を食べられる。互いにメリットがあるではないか!」
______ならば、この物語は、勇者と悪魔が共存する物語、とでも言おうか。
平和と自由の保障と、美しい文化のある、日本でなら、不可能ではないだろう。それは、今そこにいる貴方もよく知っているのではないか?




