二話 おじさんたちの苦労
変な娘に出会った。
いつも通り、警察官として地域の為にパトロールを行ってた時の事だった。
「おい佐藤、あの子大丈夫か?」
「あの子ってなんだよ。」
「ほら、あそこ」
同僚の鈴木が声をかけてきた。
彼の指す方向を見ると小学校低学年くらいの女の子が目に入った。
毒々しい紫色の長い髪をツインテールにしていた彼女は、不自然に辺りを見回していた。
周りの人たちは彼女を見て、一瞬足を止めるが、声を掛けずに去ってゆく。
そんな様子を見て、俺と鈴木は念のため声を掛けるべきだと判断した。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
少女はこちらを見た。藤色の目が二人を映す。
思わず息をのむほど美しい娘だった。
真っ白な肌に、紫の目と髪。先程、毒々しいと表現した色だが、彼女と合わせると、とても美しい色になる。
彼女は桜色の唇を開く。
「なんのようなのだ?」
「お名前を聞いてもいいかな?」
「ワレはリヴェル・マーフィー、偉大なる魔王の娘なのだ!」
リヴェルはフフン、と胸を張ってどや顔をした。
一方佐藤は、鈴木と顔を見合わせて苦笑いをした。
どうやら彼女は何らかのアニメに影響を受けているらしい。
「じゃあ、リヴェルちゃんは迷子かな?」
「マイゴ?何なのだそれは?」
「お父さんかお母さん、どこにいるかわかる?」
「バカにするな、そのくらい知っておる!」
「どこか、聞いてもいいかな?」
「そ、それはぁ~、」
その質問をするとリヴェルは罰が悪そうな顔をして、斜め上を見る。
((あ、これ迷子だな。))
二人の心の声がぴったりそろった。
どうしようか悩んでいると、リヴェルは急に眼を細めて言った。
「なぜそんなに詳しく聞くのだ?」
「え、だって・・・」
「ワレは騙されんぞ、不審者め!」
「いや、警察・・・」
「意味の分からん言葉を使うのはやめるのだ!」
リヴェルは力強く言い放つと、背を向けて走る体制に変える。
「え、ちょっ!!」
鈴木は思わず手を伸ばした。
俺は追いかけようと走る準備をした。
今日はなんか、非日常的だなぁ、なんて考えながらも、佐藤は平常心だ。こんな日もあるだろう、と軽く考えている。
一つだけ誤算があった。
それはリヴェルを普通の人間の娘だと思い、子供だとなめていたことだ。
いや、その誤算がなかった場合『いい年した厨二病』になってしまうのだから、逆に良かったのかもしれない。
リヴェルが地を蹴る。次の瞬間、そこには誰もいなかった。
彼女の向かった方角を見渡してみる。しかし、どこを探してもいない。
その後も、迷子の女の子を放置することはできず、リヴェルを探しまくった。
けれど見つからない。
背中を汗が伝う。冷たい汗だ。疲れたから、ではないだろう。
「こんな派手なホラー体験、期待してねえよ。」
誰にも聞こえない声量で、吐き捨てるように言った。歩道のド真ん中で、突如消えた美しすぎる女の子。
佐藤は思う。そういう不気味なのに出くわすときは大雨の夜の裏道か、廃ビルの中にしてくれ、と。普通のホラー体験ならそういうものだ、と割り切れるし話のネタにもなる。
何が何だかわからず、判断できない恐怖よりはましだろうに。
結局、俺たちは疲れていた、と判断し、その日は帰宅した。
* * *
変な娘に出会った。
それは、いつも通りにラーメン屋をやっていた時に現れた。
ガラッと音を立てて開いた扉の音と同時に彼女は言った。
「それをワレにも食わせるのだ!」
扉の前にいたのは全身紫のロリータ少女だった。
頭の回転は速い方だと自負しているが、こんなに混乱したのはいつぶりだろうか。情報量が多い。
「それはいいが……君小学生だろ?親はいないのか?」
「う、うるさいのだ。そんなことはいいから、早くそれをよこすのだ。」
彼女はツンと顔を持ち上げて催促をする。
オレはラーメンの準備をしている間に彼女はカウンターの椅子に座った。
「んん、なんだこれは。座り心地が悪いのだ……」
文句、と言うより独り言に近い感じで言う。
「結構普通の椅子なんだが……」
「そうなのか!ふむ、少し硬いが問題ないだろう。そんなことより、早くそれを出すのだ!」
「今作ってるから少し待ってくれ。」
「わかったのだ!」
そういうと彼女は鼻歌を歌いながら足をプラプラと揺らす。
オレはラーメンをゆでながら店にいる少女に視線を向ける。この店はお世辞にも繁盛しているとは言えない。お昼時や夜は多少客もいるが、今は彼女だけだ。
彼女は明らかに普通の人とは違う。
どこかのお嬢様だろうか。服や小物はとても高価なものだろう。所謂ロリータ系の衣装だが、布の品質がとても良い。特に耳に付けているイヤリングについている青い宝石は高級店でもそうそうお目にかかれない程の代物だった。
そんなよそ行きの服を着てそんじょそこらのラーメン屋に来た少女。謎である。
そして彼女には妙な雰囲気がある。威圧感とも呼べる何か。本能が彼女から離れるように訴えかけてくる。そんな気がする。
「はい、できたぞ。」
そういってラーメンを渡す。箸も渡したが、念のため子供用のフォークも付けておく。
「わぁ~!とっても美味しそうなのだ!」
彼女はそういうとフォークを手にとりラーメンを食べる。
「んん!むぐぐ。」
彼女はラーメンを食べると目を輝かせて反応した。その時に何か言っていたが、食べながらしゃべっているため、聞き取ることはできなかった。
少女が夢中でラーメンを食べている中、ガラガラ、と控えめな音を立てて扉が開く。
「……帰った。」
学校終わりの娘が帰宅したようだ。
近くの女子高の制服を身にまとった、ツリ目の少女が店に入る。
少女は肩にかかるくらいの髪を耳にかけ、こちらを向く。
彼女の瞳に少女、リヴェルが映る。
彼女はリヴェルを目に映したまま固まった。
* * *
変な娘がいた。
変な娘だった。
どこかで見た気がした。
その娘はこちらを向いた。
彼女と目が合った。
どこかで見た気がする目だ。
紫の目。アメジストのようなきれいな瞳。
どこで?
大きな、不気味な場所
どんなふうに?
憎かった?
なぜ。
彼女の目を凝視する。
若干、色が違った。
見間違いだろうか?
分からない。
右の目が左より少し、赤が強かった。
このオッドアイのような目。
そうだ、この目……
忘れない。
あの時……
「悪魔……」
小さく呟く。
気が付けば私は、戦闘態勢をとっていた。
いつ攻撃されても、大丈夫なように。
「は……?」
「お前。ワレを知っているのか?」
* * *
リヴェルはじっと観察する。
女子高生の方ではない。
ラーメン屋店主のほうを、だ。
一見、どこにでもいる小太りのおじさんだ。
悪魔と言う単語にも驚きを示した普通の人、のはずだ。
しかし、その目に宿る熱いなにかには、見覚えがあった。
「……なっ!お前、あの時の勇者か!?」
かつて魔王に挑み、敗れた勇者パーティー。
パーティーリーダーの勇者であり、剣士でもあった彼。
名を、ラージュ・アルティネス。
魔王をあと一歩のところまで追いつめた若き英雄……で、あったはずだが……。
リヴェルは言う。かつて父を追い詰めた相手に。
「勇者よ……老けたのだな。」
「まだ42だ!!!!」




