一話 ロリコンの執念
「失礼いたします、お父様」
愛娘のリヴェル・マーフィーはペコリとお辞儀をして部屋を去った。
リヴェルはここ数年で精神的にとても成長した。
ある程度の礼儀作法も身についたし、敬語も使えるようになってきた。そしてカワイイ。何よりカワイイ。
娘のことを考えてると、自然と口角が上がっていく。幼い少女を思い浮かべてニヤニヤしてるこの不審者。その正体は悪魔を束ねる王、魔王だ。
この世界にはたくさんの種族が存在している。その中でも魔法と武力に長けた悪魔、団結力に優れていて、個々の能力もある人間の二種族がこの世界での強者とされている。
それでも、戦闘において一番強いのは悪魔だ。魔王は悪魔のトップ。当然、誰より強い。魔法に関しては世界一と言ってもいいだろう。遠距離から攻撃しても、魔法で打ち破り、近距離戦に持ち込んでも、圧倒的な身体能力でねじ伏せる。絶対的強者であり、数々の勇者を一人で滅ぼしてきた伝説だ。
そんな魔王様にも悩みはある。娘に関してだ。
悪魔は長寿だ。故に精神的発達は遅い傾向にある。だから油断していた。
わがまま言ったり甘えたりしてくれる時間がまだ続くかと思っていた。
確かに今のおとなしい感じもカワイイ。それは認めよう。
それでも、まだ子供っぽい姿を見ていたい!
魔王は悩んだ。戦闘の時間も、食事の時間も、夢の中ですら悩んでいた。
その結果……
(あ、時間巻き戻せばいいじゃん。)
異次元の力と考えを持った魔王だからこそ実現させられた神業。
何年も魔法に向き合い続けた魔王の集大成。
努力の末に
「ワレは偉大なる魔王の娘、リヴェル・マーフィーなのだ!」
永遠のロリを手に入れた。
このイカれた中年男は、のちに『ロリータ・コンプレックス』、通称ロリコンと呼ばれることになる。
* * *
(ワレの父上はとってもすごい、魔王なのだ!人間どもが挑んできても簡単に吹っ飛ばせるのだぞ!
そんな父上の娘であるワレが弱いはずなどあるまい!
20になる時にはあらゆる属性の魔法が扱えるようになったのだ!(人間で言うと4,5歳)
今や使えぬ魔法などない!と、思っていたのだが……)
リヴェルは足元の魔方陣を見る。
「なんなのだ、この魔法はー!?!?」
見たことのない魔方陣は半径5mくらいの大きなものだった。リヴェルは魔王城の一階にある長い廊下をスキップしながら鼻歌交じりに歩いていた。今日のおやつはリヴェルの大好物の焼き菓子だった。だからいつもの時間より早く食堂に向かった。護衛はいない。この城に、リヴェルより強い者は魔王しかいないからだ。彼女は護衛候補の悪魔たちよりよっぽど強かった。それに、この城の安全性を考えればちょっとした移動に護衛は必要ないのだ。
そう、この城の警備は完璧だ。本来は虫の一匹も見逃さない。
なのに、これほど大きな魔術が入り込めたことにリヴェルは驚く。
(こんな魔法…、いや、これは魔法……か??いやまずは、父上に報告を……!)
リヴェルがあたふたしてる間に魔方陣は光始めた。
術が発動したのだろう。
回避は難しいと判断したリヴェルは、ぎゅっと目を瞑った。
* * *
暖かい風を感じた。リヴェルは魔王城の室内にいた。風が吹くような環境ではないだろう。
転移系の魔法は研究されていた。しかし実現することはできなかったはずだ。
魔王でも使えなかった魔法、それを使えるものなど、いるはずがない。
悩んだ末にリヴェルは目を開いた。
目に入るのはビル、車、ガードレール。
リヴェルにとって未知の物であふれかえっていた。
「ここは、人間の国、なのか?いや、でも前見たときはここまで奇怪なものばかりではなかったぞ!?」
違和感は他にもあった。魔法が使えないのだ。うまく制御ができない。多分、小さな炎とかなら使えるだろう。この状況を無理に例えるなら、普通に計算はできるのに九九が言えなくなったようなものだ。
つまりリヴェルは、いままで普通にできていたことができなくなってしまった状況なのだ。
突然のことに混乱していると声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな」
特殊な服を着たおじさん二人組に声を掛けられた。
「なんのようなのだ?」
「お名前を聞いてもいいかな?」
「ワレはリヴェル・マーフィー、偉大なる魔王の娘なのだ。」
二人組は苦笑いした。が、リヴェルは全く気付かなかった。人の顔色なんて気にしたことが無いからだ。
「じゃあ、リヴェルちゃんは迷子かな?」
「マイゴ?何なのだそれは?」
「じゃあ、お母さんかお父さんがどこにいるか、わかる?」
リヴェルは頬を膨らませ、プイっとそっぽを向く。
「馬鹿にするな、そのくらい知っておる」
「どこか聞いてもいいかな?」
「そ、それはぁ~、」
リヴェルは魔王城の具体的な場所は覚えていなかったし、この場所からどう行けばいいのかもわからない。そんな中リヴェルは父の言葉を思い出した。
「なぜそんなに詳しく聞くのだ?」
「え、だって・・・」
「ワレは騙されんぞ、不審者め!」
「いや、警察・・・」
「意味の分からん言葉を使うのはやめるのだ!」
おじさん二人組は何か言っていたが、リヴェルは背を向けて走り去った。
リヴェルは魔法の扱いは突出していたが、体術は平均程度だ。
体格差のある大人と戦闘をするのはいくら何でも分が悪いと判断した。
とは言え、人間の何倍も高い身体能力を持っているリヴェルにとって、人間二人から逃げきることなど朝飯前だった。
大人相手の近接戦闘で分が悪いのは前の世界ならの話だ。この世界なら相当鍛えてる人じゃない限り、一瞬で倒せるだろう。
しかし、戦闘をしなかったのはいい判断だった。子供でも警察に暴力はまずい。本当にまずい。
リヴェルはおじさん二人組から逃げた後、呑気に散歩していた。
理屈はわからないが、とんでもなく面倒なことが起こっているのは確かだ。しかし、焦ったところで何も変わらない。
ひとまず何も考えないようにした。
そんな中、リヴェルのお腹からグゥ~…と音が聞こえた。
(お腹すいたのだ……)
おやつを食べる為に、食堂に向かおうとしてた途中、知らない場所に飛ばされた挙句、町中を走り回る。
空腹になる要素しかない。大体、昼食から三時間近くたっているんだ、お腹すいて当然だろう。
しかしここは知らないところだ。リヴェルは食事をどうするか、結構真面目に考え始めた。
そんな中、食欲をそそる匂いが鼻腔をくすぐる。
リヴェルはカッと目を見開き、その匂いのする店の扉を思いっきり開いた。
「それをワレにも食わせるのだ!」
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