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騒ぎの収まった村で (3)



「お母さん。私は松山には帰らないわ。ここで一生暮らすと約束して譲り受けたんでしょ。忘れたの?」

「こんなところで、あなた一人でどうやって暮らすっていうの。こんな縁起の悪い家、すぐに売ってしまうから、準備なさい」

「だから……この家を売っちゃダメだってば!」

「雪奈」

「……お母さん。今の世の中、安全な場所なんてどこにあるっていうの。いっそここの方がマシよ。ほら、警察の人たちも捜査のために当分ここに留まって巡回してくれるって言ってたし」

「殺人事件が起きたなんて近所に言いふらすのが、何がいいっていうのよ」

「いや、それは……あ、そうよ。私は一度殺人犯と出くわしたの。下手に人の多い場所へ行って、PTSDにでもなったらどうするの。私、本当に怖かったんだから」

「人が多ければ助けも求められるでしょうに!」

「幽霊より人間の方が怖いって言うじゃない。そもそも、このまま帰ったって怖いのは同じよ。ずっと怯えて暮らすくらいなら、この家で早く立ち直る方がいいわ」


私の言葉に、母は納得がいかないという表情を浮かべた。理解はできる。もし自分の娘がこんな的外れなことを言い出したら、私だって真っ先に怒鳴りつけていたに違いない。


けれど、どうしようもないのだ。ダメなものはダメなのだから。私の必死の答えに、母が眉をひそめた。


「あなた、雪奈と外で何をそんなに話しているの?」

「あなたからも言ってやって。雪奈が松山に一緒に帰らないって言うのよ」

「雪奈が動けるのは早くても九時過ぎになるから、僕たちが先に帰ろうと言ったじゃないか」

「いくらなんでも、それはないわ。殺人犯に襲われた家で、どうやって一日中過ごせっていうのよ」

「それでも、ダメなものはダメなんだ。そういう規則なんだから」


父の断固とした説明に、母の眉が跳ね上がった。考えてみれば、ここは祖父母が一生を過ごした場所であり、父の故郷でもある。


当然、父もかつては御人形様と共に暮らしていたはずだ。父なら話が通じるかもしれないと思い、私は説得のターゲットを母から父へ変えて言った。


「お父さん。私、明日も帰れないわ。お父さんも知っている通り、規則が結構厳しいじゃない」

「……家は売りに出すから、少しだけ辛抱してくれ。今週は無理だが、来週からは颯真もここにいさせるようにするから」

「えっ? お父さんもこの家を売るつもり? 変な人が入ってきたらどうするのよ」

「お父さんも、この家で君が一人で暮らすのは反対だ。何があろうと娘の安全が最優先だからね」

「いや……」


両親が心配してくれるのは本当に嬉しいことだ。けれど、このまま松山へ向かったら、うちの家系が物理的に滅びてしまうのだ。


どうすればここに留まることを許してもらえるか頭を回転させていた私は、おずおずと言葉を継いだ。


「一人なのが心配なら、同居人を呼べばいいじゃない」

「同居人って、誰のことよ。ここで暮らしたいなら颯真と一緒に住みなさい。それ以上は譲歩できないわ」


何? 颯真と住めって? いっそ山に入って小屋でも建てて暮らす方がマシだわ!


しかし、両親の視線が厳格さを通り越して冷ややかに感じられたので、的確な説得材料がなければ話を続けるのは難しそうだった。


必死に知恵を絞っていると、頭の中にある一つの考えが浮かんだ。浮かんだ当初はかなり説得力のある計画に見えたので、私はそれを検証する間もなく両親に告げた。


「颯真がいいってことは、近い男の人ならいいってことでしょ? じゃあ、彼氏を呼ぶわ」

「彼氏? あなたに彼氏がいるの? そんな気配、全くなかったじゃない。いつから付き合ってるのよ」


一瞬で私の嘘を見抜くなんて。やはり母は鋭い。けれど、勘が鋭いからといって真実が明らかになるわけではない。


「私だっていい年なんだから。彼氏くらい当然いるわよ。付き合って少し経つし、結婚まで考えているから。その人を呼んで一緒に住むようにするわ。それでいいでしょ?」

「結婚もせずに同居から始めるだと? 雪奈、この父さんが君をそんな風に育てた覚えはないぞ」

「お父さんが、心配だから誰か男の人と一緒に住めって言ったんじゃない」

「それはそれ、これはこれだ。雪奈、詳しく話しなさい。いつから恋人がいたんだ?」

「いや……」


ああ、もう。心配してくれるのはありがたいけれど、二人ともそんなに深掘りしないでよ!

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