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騒ぎの収まった村で (2)



目が合ったことに驚いて固まっていたのも束の間。


独り言を聞かれていたという事実に、思わず顔が真っ赤に火照った。誰も聞いていないと思ってシャワー室で思い切り歌っていたら、実は筒抜けだった……というような気まずさだ。目の前にいるのが正体不明の存在だとしても、羞恥心を感じずにはいられない。


「あ、ええと。あの、ジン? いつから見てたの? 昨日はいつ戻ったの? 服を着せてあげようと思ったんだけど。……もしかして、独り言、聞いてた?」


動揺した私が支離滅裂に言葉を繋ぐと、彼はゆっくりと瞬きをしてから窓の外を眺めた。……私の話、聞いていなかったのかな?


いっそ聞いていなければいいという思いと、このまま外に出てもいいのかという思いが同時に込み上げてきた。


無言の彼を黙って見つめていると、ジンの目が細められた。軍人のように体格の良い彼が、何かを睨みつけるように鋭い眼光を向けるので、思わず背筋が凍りついた。


「あの、ジン? 外に何か……あるの?」


ただ彼を見つめているのも居心地が悪く、ジンに従って窓に視線を向けると、雪の積もった窓の向こうには白い庭と、うねうねと続く広大な山脈が見えるだけだった。いつも見ている日常の風景のはずなのに。ジンがそうしたように、目を細めて窓の外の景色を眺めた。その時だった。


「え?」


白く青みがかった山脈に、何かが通り過ぎるのが見えた。家から山までの距離を考えれば、何かが見えるはずなどなかった。しかし、雪のように白く長い毛を持つ何かを、私は確かにお裾に捉えた。その残像を確認しようと、窓に一歩歩み寄った時だった。


「……わっ!?」


腕を掴まれる感触がしたかと思うと、凄まじい力で体が引き寄せられた。瞬く間にソファの、正確にはジンの膝の上に座らされた私は、驚きで激しく鼓動する心臓を押さえながら言った。


「ジ、ジン? どうしたの?」


問いかける私の目に、山に向けられていた彼の黒い瞳が向けられた。充血一つない透明な白目と真っ黒な瞳孔は、人間味を全く感じさせず、表情が読めない不気味さをいっそう際立たせていた。


(な、何? 私が窓を塞いだから邪魔だったのかな……?)


当惑しながら瞬きを繰り返していると、真意の読めない黒い瞳で私を射抜くように見つめていたジンは、私を抱きかかえたまま立ち上がった。


身長差のせいで足が地面に届かず、不安定な姿勢がひどく窮屈に感じられた。こんなことなら話しかけなければよかった。余計なお節介を焼いたばかりに。


バクバクと鳴る心臓を落ち着かせようとジンの行動を注視していると、幸いなことに彼は私を別棟の入り口に下ろしてくれた。


私を下ろしたジンは、依然として私を自分の腕の中に閉じ込めたまま、しかし妙に距離のある中途半端な姿勢で見下ろしてきた。


意志の読めない視線を浴びていると、不安が込み上げてくる。いっそ離れてほしいと思い、その腕を解こうと手を伸ばした瞬間だった。


腕を解いた彼が私の背後に手を伸ばすと、そのまま別棟の扉を開けた。角度的にジンがすぐに見える位置ではなかったが、開いた扉の向こうに母が立っているのが見え、背後から抱きしめられた時よりも驚いてしまった。


「雪奈、ちょうどよかったわ」


別棟に立つ私を確認した母が、足早に近づいてきた。私は目を見開き、慌ててジンの方を振り返った。ジンは開いた扉の隙間から近づいてくる母を眺めていたが、ゆっくりと身を翻してソファへと向かった。そして母が別棟に到着すると同時に、彼の姿はいつもの人形の姿へと戻った。


(ちょっと……)


人を驚かせないで、言葉で表現してよ! 本気で筆談用のタブレットでも買わなきゃいけないかしら? 文字は書けないのかな。書けなくても教えるしかない。そうでもしないと寿命が縮まってしまう。心の中で決意を固めた私は、不測の事態に備えて母より先に別棟を出ながら尋ねた。


「お母さん、どうしたの?」

「そろそろ松山へ戻らなきゃいけないから、呼びに来たのよ」

「え? もう帰るの?」

「急いで来たから、二人とも有給を取れなかったのよ」

「あ……」


どうやら娘を心配して、翌日の仕事のことも考えずに駆けつけてくれたようだ。両親の状況は理解できるが、すぐに帰ると言われると、どこか名残惜しい気持ちになった。本心を言えば、私も一緒に帰りたかった。


(でも、ジンを置いていくわけにはいかないし……仕方ないわね)


松山までは少し距離があるけれど、行けない距離でもない。いつでも会えるじゃないか。


「そうなのね。すぐに出発するの?」

「ええ、すぐに。雪奈、あなたも帰るわよね? 早く荷物をまとめて。雪のせいで山を降りるのも大変なんだから」

「え? 私が、なんで?」


私の問いに、母も同じように不思議そうな顔をして尋ねた。


「なんでって……ここに残り続けるつもり?」

「当然でしょ。どこへ行くっていうのよ」

「この子は……あなた、殺人犯に襲われたんでしょう!? こんなところに一人でいられるわけないじゃない!」

「えっ? なんでそれを知ってるの?」

「警察の方がおっしゃってたわよ! 雪奈、あなた本当に、お母さんに隠し事はやめなさい。その話を聞いて、お父さんとお母さんがどれだけ驚いたと思ってるの?」


(あ……。私だけ別に呼ばれたから、事件の話は伏せられていると思ったのに、いつの間にか両親に話していたのかしら?)


「お母さん。あの人は死んだんでしょ。もう大丈夫よ」

「大丈夫なわけないでしょう。いいから、すぐに帰るわよ。早く準備して」


このまま松山へ連れ戻されたら、規則を破ることになり、非常に困ったことになる。私は必死に頭を回転させ、母を説得する言葉を考え出した。


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