第99話:最悪と災厄と
「で、なんで学校なんですか?」
「特に意味は無いんだが」
「……拙は別にいいんだけど」
そんなわけでガタンゴトン。電車に揺られて、俺とカーマとレアスは米糠高校に向かっていた。ついでにエリもだが。一応常識的な格好はしている。一応。
「ところでアキラ先輩って今何してるんでしょうね?」
「さー」
感知するのも面倒なので、使い魔は外してあった。もし自殺したら墓の前でカーマを抱く。そう宣言してしまって、それでも死ねるなら大したものだ。
「ところでリンカ氏の件だけど」
「どこから襲ってくるかね」
「不意打ちですか?」
「こっちには却下ン視があるからな。正々堂々は通じない」
「それもそれでなんだかなぁですね」
「ついでに監視用の使い魔も潰されたしな」
「そういえばベルゼバブって呼ばれていましたよね?」
「まぁ」
「たしか唯神教が定義した魔王じゃありませんでしたか?」
「俺はハエを扱えるからな」
「アンデッドで魔王って。属性モリモリな気が……」
わっはっは。正確には百体いるアンデッドの一体のコードネームがベルゼバブで、特に属性としては統一されているのだが。電車を降りて米糠高校へ。そのまま校門を目に映すと。
「ネバダくん!」
月影の女神……常闇アキラが俺に微笑んだ。校門で待っていたらしい。住所は知っているんだから直で訪ねて来いよとは思うが。
「御健勝でしたか?」
「健康に関しては俺より上はそういないぞ」
「フグ毒でも死にませんもんね」
「アキラ先輩……まさか」
「冗談ですよ。ね? ネバダくん」
「冗談の類ではあるがな」
事実を事実のまま言っても生産性が無い。
「大好きです。ネバダくん」
ギュッと俺を抱きしめて、縋るようにアキラは言う。ジトーッと見つめているところ悪いがカーマもエリも安藤先輩も似たような事してるからな。
「ネバダって本当にさぁ」
「何も悪い事してないだろ」
「あー、それ言っちゃう? ネバダってそういうところあるよねー」
「で、とりあえずは俺にも抱きしめる権利があって」
「はい。私を抱きしめてください」
そのままギュッと抱きしめて、押し倒す。重なるように俺とアキラが倒れると、その背後で、ズドォォオオンッッッ!!! と砲撃にも似た音が響いた。聖釘のパイルバンカー。イモータルキャンセラーだ。
「相も変わらず空気が読めんな。お前様は」
「神敵を殺すのが俺の使命だ」
「いつ俺が神と敵対した?」
「不死というだけ殺すに値する」
「じゃあ先にベニクラゲを絶滅させろ」
「お前を殺した後にな」
さらに砲撃音。空気の壁を打ち破って、電磁加速式杭打機が俺を襲う。もちろん躱す。
「じゃ、そんなわけで」
抱きしめていたアキラを解いて、俺はリンカと距離を取る。
「四人とも。今日は女子だけで文芸部を運営しろ」
「「「四人?」」」
「はーい。ボクもだぞ」
なので、俺は一目散に逃げだした。その速度は完全にオリンピック選手を超えている。俺の全開は人間の領域を超えているのだが、それに追随するリンカの異能も、それはそれで異常で。俺は学校の路から跳んで、とある民家の屋根に足を置いた。そのまま逃走に移るのだが、そこを平然と襲い来るリンカ。あっさりと二十メートルをジャンプして、俺に追いつくそのスピードたるや。
「封ッ!」
さらに砲撃音。傍迷惑もここに極まる。イモータルキャンセラーを一回撃つだけでも騒音公害に相違ない。日本ではありえない武装だが神威装置のアンデッド敵視は異常を極めているので、例え人目が有ろうと容赦しないのだろう。だから殺されていいにはならんのだが。
「さっさと死ね」
「お前にだけは殺されんよ」
「俺以外の誰がベルゼバブを殺すってんだ?」
「さてね。そもそも死ぬ気が無いから」
そんなことを言った俺の皮膚から無尽蔵にハエが生まれ、数千匹にも達するハエがリンカに纏わりつくように飛び出した。
「邪魔だ」
チャフのつもりだったが、生憎と俺が攻撃手段を持っていないのはバレている。その隙をついて、あっさりとハエの大群を振り切るリンカ。
「じゃあな」
そのリンカが離別の宣言をし、またイモータルキャンセラーを撃つ。その一撃を俺はギリギリで避けた。却下ン視があれば難しい話ではないが、それはそれとして俺も冷や汗くらいはかく。一撃でも受ければ、聖釘の術式、つまり自壊によって俺は崩壊する。防ぐも無し。俺に出来ることは躱すだけだ。特に呪術誓約があるわけではないが、非暴力主義を掲げる俺に攻撃手段がないことを、コイツは分かった上で殺しに来ている。
砲撃音。それによる超音速の一撃。だが俺はそれを避けた。相手のトリガーを引くタイミングさえ熟知していれば、たとえ攻撃が超音速でも躱すことは難しくない。
「ちぃ!」
さらに跳躍。俺は民家の屋根から屋根へ跳び移る。ソレを追いかけて威力使徒リンカも。
「いい加減死に晒せ!」
「それで、はいわかりました、っていう人間がいるか!」
「お前は人間じゃねえだろうが」
一応構成する成分は人間と変わらないんだが。あくまで人体を無限に溢れる魔力で治癒しているだけで。
「ちぃ!」
ズドォォオオンッッッ!!!
本気で警察が動きそうだが。
「逃げるな!」
「だから無茶言うなって話でだな」
そのまま民家の屋根を疾走して、駅につく。あっさりと改札を抜けて、電車に乗る。さすがのリンカもイモータルキャンセラーを握ったまま電車に乗る勇気は無いらしい。まぁ威力使徒は神敵を殺す能力を持つ代わりに墓穴効果で一般人には敵わないからな。
「ふい」
今日は帰るか。心配している女子たちにはスマホで連絡して。別に死んではいないが、アキラにしろカーマにしろレアスにしろエリにしろ。心配くらいはしている……はず。
「「「「大丈夫?」」」」
「大丈夫です」
SNSにそう打って、俺は吐息をつく。リンカが俺を殺すために手段を択ばないのは重々知っているんだが、ここでアキラたちに助力を求めるのも違って。まさかリンカを殺せとか頼むわけにもいかず。ま、まずは行方をくらますところからだな。




