第98話:朝起きると
「むぐ」
背中に柔らかな感触があって。顔に柔らかな感触があって。起きてみると俺はベッドでカーマとレアスに挟まれていた。カーマが俺を背中から抱きしめていて、レアスが俺の頭部をその胸に抱擁していた。まるでというか事実そのものでかき抱くように。
「大きいな」
さすがに頭部が埋もれそうなPカップの超乳が俺の顔を挟んでいると呼吸の有無より心地よさが先にあって。
「……むに……ネバダ」
「うへへぇ。先輩」
いい夢見てそうだな。お前ら。
「あ、起きた?」
で、俺が独り言を呟くことで、それを聞いたエリが俺に声をかけた。昨夜色々としたのだが、それはそれとして添い寝の権利はカーマとレアスに譲ったらしい。
「じゃあ寝汗を流そっか」
それは。つまり。その。
「一緒にね?」
エリがニコニコと微笑む。拒否する権利は俺には無いらしい。ていうか、そのためにカーマとレアスに譲ったのだろう。
「お前はさぁ」
「小賢しい?」
「いや。好きだけど。そゆとこ」
「ボクもネバダが好きだよ」
脱衣所で服を脱いで。けどエリは見苦しくない。綺麗な身体をしていることは前から悟っているけど、本当にエリは美しい肢体をしている。
「にしては興奮してる?」
「健康快男児の朝の宿命だ」
それ以上の理由はない。
「あのね。リンカが襲ってきたらさ」
「ああ」
「ボクが殺そうか?」
「お願いできるなら……それもいいかもしれないが」
「昨日の話を聞く限り、基礎スペックではリンカの方が有利なんだよね?」
「それも否定は出来んが」
「嫌だ……」
先にシャワールームに入った俺。その俺の背中に抱き着いて、エリが切なげに言う。
「ネバダが殺されるのは……ボクが嫌だ」
「じゃあ助けてくれ。威力使徒は一般人を攻撃できない。だから、お前が守ってくれ」
「うん。ボクが守る。ネバダを誰にも殺させない」
「あー……うん……だな」
「興奮してる?」
しないわけねーだろうが。エリの爆乳を背中に押し付けられて、どうやって鎮めろと。
「ネバダも男の子だね」
「童貞以外は真摯な紳士でな」
「惜しいなぁ。呪術誓約は……」
「お前がツクモより魅力的になればいい」
「分かっては……いるんだけど」
俺の心の楔になっているツクモへの愛を疑う真似は出来ないらしい。実際に俺にとって認識している時空で最も愛しいのはツクモだしな。
「そもそもパイルバンカーを持って街中徘徊するのはいいの?」
「警察にどうにか出来る存在でもないし。そもそも治外法権だしなぁ」
「え?」
「あー。言ってなかったな。そういえば」
俺は背中でエリのおっぱいを味わいながらシャワーを浴びる。彼女の手が誘うように俺を撫でて、そのたびに少し痙攣する。
「ここは所謂……異世界なんだよ」
「異世界って……」
あのー。出来ればな。その誘うような手つきを止めないか?
「俺がここに来たのは異世界そのものの危険性の有無を確認して報告するため。そういう仕事には結構向いているから」
「東京二十五区の柳原区だよ? なんでそれが異世界っていう話になるの?」
「そもそも東京は元ある二十三区と、その後に定義された庵宿区。これで二十四区しかないんだよ。二十五番目の柳原区なんて存在しないわけ」
「だって電車だって通ってるし。スマホも使える。国民も疑問を抱いてない」
「半村良って知ってるか?」
「小説家……だっけ?」
「そ。その作家が小説を作るとき、地図にカッターで切れ目を入れて、広げた内部の空白を舞台にするっていう手法を語ってな。もっとわかりやすく言えばガオガ〇ガーのディバイディ〇グドライバー」
「ああ。あれ」
「陰陽省は半村領域って呼んでるが。いわゆる空間的に矛盾を起こさないで、けれど現実と繋がっている異世界をそう呼ぶんだよ。この空間が発見されたのは半年前くらい。つまり結構新規の異世界だ」
「え? でも……ボクは」
「世界五分前仮説」
「うわ」
記憶がどうあれ。柳原区の人間には物理的存在が半年程度しか歴史が無い。
「そっかー」
「なわけで、俺にとってはお前らは純然たる日本国民じゃねーの」
「アンデッドがそれ言うの?」
まぁ俺も戸籍は抹消されているが。伏見ネバダも適当に登録した名前だし。
「危険だってなったらどうなるの?」
「別にどうも。陰陽省が敵視して、半村領域が閉じるまで警戒態勢」
「閉じる……の?」
「こっちも語ってなかったな。現代魔術では魔法検閲官仮説っていう理論があって、魔法的認識は人類から検閲されるんだよ。まだ柳原区については疑問を持たれていないが、それにだって綻びはある。黒子迷彩のお前が俺にバレるようにな。そういうことが積み重なって違和感が大きくなると、そもそもの世界のつじつま合わせのためだけに半村領域は閉じて消えるんだよ」
「……その……ボクは?」
「一緒に消えたくなかったら、外に出ていればいいじゃねえか」
「柳原区のってこと?」
「別に半村領域と心中する理由もないだろ」
「それは……そうだけど。でも、言ってしまえばボクも異世界の存在なわけで」
「別に異世界そのものは悪でも何でもない。妖精郷や黄金郷、ムー大陸にバミューダトライアングル。この世に認知されている半村領域なんて幾らでもある。ただそれらが根本的に人類史にとっての事実になっていないだけで。液体に浮かぶ泡のようなものだ。ちょっとだけ浮かんで、弾けて消える。そこに善悪はないし、その異世界から現実に残ったファンタジーの存在も無いではない。言ったろ。そもそも黒子迷彩は妖精や妖怪の持つ能力だ。あれらが現実に存在する以上、お前だって別に全否定されるべき存在でもない」
「ネバダは……どう思ってるの?」
「別に……ぅ……そこで弄るのは反則じゃないか?」
「ネバダの意見を聞いてるの」
「都合のいい女にはそのまま居てほしい」
「ボクが必要?」
「示威行為の延長としてはな」
「そっかー。そっかー。そっかー。えへへぇ」
っていうかエリは都合のいい女でいいのかって話ではあって。多分いいんだろうな。




