第96話:アンデッドの殺し方
「……昨日……近くで銃撃事件が」
「ああ、巻き込まれたからな」
「……ネバダが?」
「というか当事者」
ヒラヒラ~と手を振って、俺はニッコリ。時間は昼。場所は学校。俺は文芸部室でパイプ椅子に座ってホケッとしていた。
「それで、どうやってネバダ先輩を殺すんです?」
部室にいるのは俺とレアス、それからカーマとエリ。アキラはまだ立ち直っていない。
「……殺す……って?」
「銃撃事件の犯人が俺を狙ってんの」
「……大丈夫なの?」
「一応不老不死なんで。普通に生きる分には問題ないな」
「……何言ってるの?」
「まぁ現実が突飛だなって話で。これでも不老不死だったりするのよ」
「…………」
信じる信じない以前に、俺の正気を疑っているらしい。別に納得しろとも思っていないからソレはいいとして。
「まぁレアス先輩が信じるかどうかはどうでもいいので。どうやって不死の先輩をリンカさんは殺すんです?」
それなんだよなー。
「アイツが持っていたパイルバンカーは、正確にはセイントネイルバンカーって分類なんだけど。ちなみに商標はイモータルキャンセラーな」
「……イモータルキャンセラー」
で、小説を趣味にしているレアスが食いついた。日本語訳で不死殺しってところだが、正確にはちょっと違う。
「まぁ言ってしまえば聖釘って呼ばれる聖なる……とは違うが魔術処理を施された釘で、これに刺されるとアンデッドは死ぬのよ」
「……聖釘の神聖さが不死を打ち消す……とか?」
「説明を放棄すると、それでもいいんだが。レアスはもうちょっと詳しく聞きたいんじゃないか?」
「……是非」
だろうよ。
「あくまで魔術の基礎を押さえた上で必要最低限の話をするとなると……」
教師が生徒に分かりやすく授業をする。その過程の難しさを、俺は今思い知っていた。魔法も魔術も知らないパンピーに分かりやすく魔術を教える……ね。
「端的に言って。魔法ってのは何でも願いを叶える万能の法則なんだ」
「「「…………」」」
そしていきなり講義が頓挫した。
「魔法ってファイヤーボールとかエターナルフォースブリザードとかのアレですよね?」
「そ。前提条件として、この世に存在する物質、現象には必ず相応の理由があって存在し、その理由を解明して再現すれば真似できないモノは宇宙には無いっていう前提で魔法は成り立っている。あくまで再現であって、オリジナルとは違うがとりあえず一番目か二番目かの違いだけで、人形を無くして泣いていた子供に新しい人形を買い与えれば問題が解決するように、この際オリジナルという言葉は排斥していい。だから魔法に出来ないことはそもそもこの宇宙では存在しないし起動しない。そういう意味で理想論を語った場合、魔法は万能なんだ」
「でもそれだと矛盾しますよね? そもそも何でも願いが叶うなら、ネバダ先輩はツクモさんを蘇生できてる」
「そゆこと」
俺がここにいる意味もないし。リンカが俺を殺す理由もない。
「この魔法という法則を人の技術まで貶めたものを魔法技術……略して魔術と呼称するんだが……様々な人間がいるように、魔術師にも様々な得手不得手がある。大工が楽譜を読めないように演奏者も建物の設計図なんて意味不明だろ? 理論上魔法という法則に基づいて行われる魔法技術……つまり魔術は万能だがノーベル賞とオリンピック金メダルとカリスマファッションデザイナーを兼任できる人間はいないわけだ。全くいないわけじゃないのが面白いところだがな」
「えーと」
「……魔法は万能で……魔術も理論上万能だけど……人間個人の制約により……万能ではない……と」
「そゆこと。俺はツクモを蘇生する魔術は使えない。なんで別の方法を模索しているわけ」
「じゃあその魔術で、どうやって不死の先輩を?」
「うーん。まぁ。そこが議論になるわけだが。そもそも魔力って何だと思う?」
「魔術の燃料」
「……同じく」
「その不思議で素敵な魔力とやらが存在するとして、火にも水にも風にも土にも金属にも雷にも人間にも太陽にもブラックホールにもなれるエネルギーってなんだ?」
「「…………」」
カーマとレアスが沈黙した。エリは分かっていて黙っているのだろう。
「とまぁ。こういう議論が現代魔術では論じられていて。俺が今のところ信仰しているのは素粒子燃料仮説。つまり魔力とは宇宙を構成する最小単位である、という仮説なんだが」
「量子とかクォークとかスーパーストリングとか?」
「そそ。超弦理論のヒモの振動を操れれば理論上何でもできるだろっていう話」
で、だ。
「この素粒子を脳という量子コンピュータで演算して望む結果を得るのが魔術だとして。つまり望めば望むだけ魔術で出来ることは万能とする。ここで問題になるのが素粒子を魔術に定義している意思決定機関なんだが……」
「……クオリア」
「構成不変の原理って知ってるか?」
「「「知らない」」」
だよなー。
「ざっくり言ってしまうと。同じ複雑さで構成された回路であれば、それがどんな物質で出来ていようが同じ意思を持つ……という理屈でな。つまり脳細胞だろうがシリコンだろうが半導体だろうがただの石だろうが、同じ複雑さの回路さえ持っていれば同じ意識を持つという話で。詳しいことは意識のハードプロブレムって検索してくれ」
「で?」
「つまり魔術を使っている魔術師の思想を無機物で再現すれば、その無機物も魔術を使える理屈になるわけ。で、リンカ……神威装置の威力使徒は聖釘という名前の自壊の魔術を思想している釘を生成して、それを電磁パイルバンカーに仕立て上げている……という」
「え? でも自壊の魔術を思想しているなら……」
「そもそも聖釘がそのまま自壊するだろって話だよな。ここで問題になるのが魔力の有無。つまり魔術行使の演算だけを聖釘は思想していて、魔力の調達は思想していない。つまり電池の切れたリモコンみたいな感じ。その電池……つまりエネルギー……ここでいう魔力をどこから調達するかというと」
「……アンデッドの……不死魔術」
「なわけで魔力を無尽蔵に生んで常に自己修復をかけている不死のアンデッドにイモータルキャンセラーを打ち込むと、その術式をクラッキングされて不死の魔力が自壊の魔術に転換。結果全身が自壊して塵に変わるとそういうわけ」
本来魔力を調達する魔術師の隙をついて殺す武装だったのだが、常に魔力を調達しているアンデッドにはほぼ特攻攻撃となり。作られた理由は唯神教による魔術師殺しの技術だったが、教会固有のアンデッド殺害手段に昇華されているわけだ。
「じゃあリンカさんは持っていたあのパイルバンカーを撃たれたら」
「俺は自家中毒で死ぬことになるな」
「……死ぬ……の?」
「まぁあくまで聖釘を受ければだが」
そんなわけで世の中はままならないなぁという話。この魔力を別個から持ってきて魔術を行使するアーティファクトをチャーマーズアクチュエータというのだが、これは流石に言わなくていいだろう。要するに聖釘でアンデッドが死ぬことさえ分かれば。




