第95話:世界で一番愛してる
「ただいまー」
あのまま逃げに逃げて、リンカを巻いた後、俺は家に帰っていた。さすがに居場所まではバレていないだろう。というかリンカには使い魔を付けているので、これからは避ける方向で。
「ネバダ先輩!」
「ネバダ!」
家に帰ると、カーマとエリが出迎えて、そのまま不安げな顔をされた。俺がいきなり電磁加速武装で襲われたのだ。そのまま死なれても困るだろうし、杞憂が杞憂じゃないというか。俺はヒラヒラと手を振って二人を安心させる。アイツの索敵を振り切って、そのまま電車で帰ってきただけなのだが。
「その……なんというか……」
「アレって……ネバダの敵?」
「敵かぁ……」
俺はすっ呆けたようにそう言うが、確かに敵対はしているんだよな。
「アレ……誰?」
「名前はリンカ。俺の双子の兄」
「ああ、それで」
納得したようにカーマは頷く。俺にそっくりというか。俺が成人したらあんな顔、みたいな。
「年齢差が酷いですね」
「今の俺は不老不死だからな。十七歳で肉体年齢が止まってんの」
「…………」
俺が不老不死、ということはカーマもエリも知っている。正確には不死身であることを知っているのだが、不老だという情報でも驚きはないのだろう。エリは会話に加わらなかった。色々と聞きたいだろうが、情報の共有を考えると、カーマに喋らせないと話が二度手間になる。なわけで、夕飯の準備をしつつ、俺は語った。今日は焼き飯だ。
「その……なんで双子のお兄さんから命を狙われているので?」
「うーん。家庭の事情というか。痴情のもつれというか。その両方というか」
「その二つが並列するのが凄いんですけど」
わっはっは。あー……。
「俺が生きていた中で一番愛している女子を、名はツクモっていうんだけど」
「女の子ですか?」
「そ」
「家庭の事情で痴情のもつれ……というと、そのリンカなる人物もツクモさんを好きになった……と」
「まぁ」
そういう話に落ち着くのは自然で。
「アキラ先輩のことを一番好きとかほざいてませんでした?」
「その口でボクを世界で一番好きだとも言ったね」
「エリが世界で一番だよ。今の世界にはツクモはいないからな」
「???」
「カーマが一番好きなのは、今この世界にツクモがいないから言えることってこと」
エリとのコミュニケーションはカーマには無かったことになるのでフォローがややこしい。
「死んで……いるんですか?」
「そ。自殺」
「蘇生は?」
「あの頃の俺は出来なかった。火葬されて骨になって墓の下」
「リンカさんから寝取ったとか?」
「まぁそういう話になるんだが。カーマって俺のことどう思ってるの?」
「女の子には簡単に好きっていうケダモノかと」
「嬉しいだろ」
「すっごく嬉しいです♡」
そりゃよかった。焼き飯を皿に盛って、そうして三人分の夕餉を用意する。モシャモシャと焼き飯を食いながら、話の続き。
「で、寝取った先輩はどうしたんです?」
「お前を世界で一番愛してる。だから俺と一緒に生きよう、と」
「微妙に演劇含んでません?」
否定も難しい。
「で、リンカさんの怒りを買ったと」
「そ。で、リンカがツクモを強姦。俺に処女を捧げられなかったツクモは自殺しました。とっぴんぱらりのぷう」
嫌な沈黙が漂った。笑えないのはその通りなのだが。
「今でもツクモさんを愛しているんですか?」
「この時空で一番愛してる。だからアイツの生まれ変わりを捜してるの」
「生まれ変わりって……」
魂論の話は胡散臭いのだろう。
「本気で信じているんですか?」
「正気を疑うのはもう慣れた」
「同じ人間が二人いると?」
「まったく同じじゃなくていい。ただ同じ設計図で出来ていれば、俺にはそれ以上言うことがない」
「同じ設計図って……」
「要するにツクモMk2がこの世界に生まれれば、俺は彼女を今度こそ愛する所存」
「リンカさんも同意見で?」
「アイツはちょっと違う。俺が不死になって、ツクモとの再会を熱望しているから、俺を殺すことでその可能性を破却しようとしているわけ」
「それだけを理由に、双子の弟を?」
「まぁ実妹を愛して強姦する男だから」
「実……妹……」
「俺とリンカとツクモは血が繋がってんの」
「それで家庭の事情で痴情のもつれ……」
さいですさいです。
「何というか」
「はいはい」
「生産性が無いですね」
耳が痛いがその通りなんだよなぁ。
「ていうか殺せるんですか? 先輩を?」
「お前も見たろ。あのパイルバンカー」
「まぁ」
「アレが所謂マジックアイテム。魔道具。アーティファクト。何と言ってもいいがアンデッド殺しの武器だ」
「そっちについての説明は?」
「してもいいが明日な」
「何故に」
「おもろい話だからレアスも巻き込もうぜ。小説のネタになるかもしれんし」
「先輩ってたまにわけわかんないですよね」
「ま、死なない身でよく生きたとは思うよ」
「どうしてもツクモさんを求めるんですか?」
「俺と再会することを条件に死んだからな」
「そのツクモさんがオリジナルじゃなくても?」
「量子場において完全に同一のものは存在しない。とはいえだ。同じ川に二度入れなくても川で水浴びすることを否定するものでもないだろ」
「一番目だろうと二番目だろうと斟酌しないと」
「イエスアイドゥー」
俺は魂の設計図がツクモであれば、それ以上を求めない。仮にスワンプマンでも哲学的ゾンビでもツクモが世界に再設計されればそれ以上を望まないのだ。




