第92話:テトロドトキシン
「あ。ネバダくん」
そうして夏休みも後半に入り。俺はアキラとデートに望んでいた。今日のアキラは涼しげな服装をしており、夏らしいというかなんというか。俺はシャツとジーンズ。あと少し派手な薄手のジャケット。
「どこに行く?」
「須藤とは何処に行ったんですか?」
「ラブホ」
「…………」
「すんません。冗談です。」
このままここで刺そうか。そう思い悩んだアキラを見て、俺は謝った。
「ナイフは持ってきているんだな」
「一応心中の予定は常に備えようかと」
「死にたいなら勝手に一人で死ね」
「ネバダくんは私のために死ねないんですか?」
「死ねると思ってるなら、お前の皮算用だぞ」
「でも私を助けてくれたじゃありませんか」
「あの時嫌がらせだって言ったよな?」
「それでも私はネバダくんに救われたんです」
そうして俺の隣を歩きながら、彼女はムスッと俺を見やる。
「で、須藤さんとは何処に?」
「ゲーセン」
「意外と俗っぽいですね」
「俺はゲーム苦手でなぁ。あんな反射神経を使う娯楽はちょっと」
「バスケは上手いじゃないですか」
あれは反射神経とは別個の能力だ。却下ン視とか言っても理解できないだろうけど。色々とあるんだよ。色々と。
「じゃあスポーツのできるところに行きますか?」
「まぁそれなら」
というわけでスポーツアリーナに出向く俺とアキラ。さすがにアキラにバスケの手段を求めるのは酷なので、バトミントンで妥協。それでも却下ン視をもってすれば上回るのは容易いのだが。
「ふ!」
「ほ!」
「は!」
相手がラケットを振った瞬間、どこに羽が行くのかは読めてしまう。とはいえストレート勝ちしても冷めるし。ちょくちょく相手にも花を持たせてやる。
「本当に運動上手いんですね」
「器用貧乏程度にはな」
「むー」
「言いたいことがあるなら聞くぞ」
「ネバダに弱点は無いの?」
「ある意味でお前」
「それは……私がウィークポイントってこと?」
「間違った解釈じゃないが」
「私のこと好きですもんね」
「そーですねー」
「愛がこもっていません!」
込めているつもりもないしな。
「ここだけでいいから言ってください。須藤さんより私が好きですよね?」
「同じくらい好きだ」
「女たらし! 女の敵!」
「今更だろ。何言ってんのって感じ」
「そんなことを言うなら考えがありますからね?」
サ〇バトロンの首領程度の説得力しかないんだが。そもそもあのネタはネットの虚偽情報だが。
「ふう」
で、適度に汗を流し、施設のシャワーで快適に。今日はそのままアキラの家で食事だ。一応前にアキラの料理は食ったことがあるのでメシマズでないことは知っている。
「夏ということで素麺にしてみました」
「ああ、夏バテの胃には最適だな」
「あと、こっちは私が作った煮物です」
どうも。
「ところで親御さんは?」
「今日の帰りは遅いです。夫婦仲良くデートしていますから」
「じゃあ二人きりか」
「ですからエッチなことも大歓迎ですよ?」
「生憎とそっちの方面は得手じゃない」
「私もしたことは無いんですけど」
「示威行為も?」
「それは…………まぁ……ゴニョゴニョ……」
じゃ、そゆことで。
「ネバダくんはあるんですか?」
「ないぞ?」
「あんなに須藤さんとイチャイチャしておいて? 同居までしてるのに?」
「アイツもアイツで拗らせてるからな」
「須藤さんの何を知っているんですか?」
「お前のことを好きだってことと、俺のことを好きだってことは知ってる」
「百合……でしたか」
そゆことそゆこと。
「で、俺をどうやって殺す気だ?」
「そんな物騒なことしませんよ」
「目が言ってるんだよ。この場で俺を殺して、自分のモノにしようって」
「虫の報せ……ですか?」
「似たようなもんだな。で、俺が食事に手を付けたところで安堵したところを見ると、毒でももったか?」
「フグ毒を少々」
フグの内臓の取引は法律で禁じられているんだが……それを言うのも今更か。
「たしか神経毒だよな?」
「ええ。あと一時間もすれば身体が動かなくなりますよ? そ・の・ま・え・に……」
「セクロスはしないぞ」
「童貞のまま死ぬんですか?」
「それもいいだろ」
「じゃあ私も後を追いますから。生まれ変わったら仲睦まじい夫婦になりましょうね」
「そうだな。そうなれたら……どんなにいいだろう」
「大丈夫です。ちゃんと私たちは巡り合いますよ。私がきっと……忘れませんから」
アイツもそう思ってくれているといいんだけど。
「げ――ぐ――」
で、フグ毒……テトロドトキシンが俺に作用する。いくら不死身と言っても、毒の作用を無効化する術は持ち合わせておらず。
「ああ、好きぃ。ネバダくん。大好きぃ」
その俺を恍惚とした表情で見つめて、俺を毒殺したことを毛ほども理解していないアキラが、そのまま俺をかき抱く。まるで俺の最後を自分の胸の中で果たすかのように。きっと俺を抱きしめて、俺を殺すことをこの場で肯定しているのだろう。フグ毒で死んだ俺が腕の中で息絶える。それこそ毒を飲んで死んだロミオを想って、自分を刺したジュリエットのように。俺がコイツと心中するなんてマジでゴメン被るが、ソレを言える感覚もすでになく。フグ毒は神経を犯して、呼吸が止まる。であるから神経や筋肉が停止して、そのまま息絶えるのだ。これが自分の最後であったなら、どんなに滑稽か。




