第91話:どうしようもないほど君に狂って
「せーんぱい♡」
デレデレで俺に抱き着くカーマと。それを制止しないエリと。二人に振り回されている俺と。
「何してるの?」
コイツ等をどうしてくれようと思っていると、マンションの前にアキラがいた。こっちを見る目は鋭く。シルクのように揺れているロングの黒髪はカラスの羽を思わせて。底冷えのする声で、俺を糾弾する。
「ねえ? 何してるの?」
答え方次第では血が流れる。そうと直感はできるのに、何も言い訳が思い浮かばない。
「何しているように見える?」
あまりうまい返しが思いつかず。俺はそのように返していた。
「須藤さんとデートしてるように見えます」
だいせいかーい。
「私と先輩はラブラブですので♡」
「だから彼女面するなと何度言えば……」
「いいじゃないですか。恋堕の天使が全部差し上げますよ?」
「嘘だよね? ネバダくん……私のこと好きだもんね……?」
「まぁ好きだが」
カーマと同じ程度には。
「そこのメスブタが悪いんでしょ? ネバダくんを篭絡してるんだよね? その胸についた脂肪で誘惑してるんだよね」
「そうだな」
「えー。先輩意識してたんだ♡ ス・ケ・ベ♡」
「お前の身体よりはエロくないぞ」
「私の身体がドスケベってことですか?」
まぁ率直に言えば。
「ちなみにアキラ」
「何ですか? ネバダくん……」
「その隠してるナイフは抜くなよ。面倒なことは御免だ」
「大丈夫ですよ。ソイツを終わらせるだけですから」
「蘇生する俺の身にもなれ。どうせ失敗に終わるんだから、いちいち手間をかけさせるな」
「先輩の傍にいれば死ぬことがないってチートじゃないですか?」
「だからって死んでもいいとはならんのだぞ」
「愛してますよ。せーんぱい。ちゅ♡」
「ッッッッ」
見せびらかすようにキスをするカーマに、瞳孔を開くアキラ。隠し持っているナイフに手が行くが、俺はそれを差し止めるように言う。
「刺してもいいが、濡れた血のクリーニングはお前に請求するからな」
「ねえ? なんで? ネバダくん私のこと好きでしょ? 私だけいればいいよね? なんでそんなダッチワイフにこだわるの?」
「抱き心地がいいから」
およそ最低と罵られてもしょうがない結論だったが、事実だし。
「やっ……たの?」
「いや? まだ」
あくまで、まだ。このあとのことは知らない。
「先輩のアレ楽しみだなー。さぞかしご立派なんだろうなぁ」
だから自慢できるものじゃないって何度言えばだな。無茶ブリが過ぎる。
「ねえ。ネバダくん」
で。全ての憎・恨・怒・忌・呪・滅・殺・怨の感情を押し殺し、ニッコリとアキラが微笑む。口の端が引きつっているが、一応淑女として振る舞おうというその心意気は買う。
「何か?」
「今度デートしない? 私がお茶代出すからさ」
「それはカーマ抜きか?」
「ボクもダメ?」
エリ。お前はちょっと最近フリーダムすぎるぞ。
「うん。二人だけで。駅に集合してデートして。お茶飲んで。夕餉は私が家で手作りの料理を振る舞ってあげる」
「あー……」
だいたいそれで悟れた。こういう時却下ン視は厄介だ。知らなくていいことまで知ってしまう。相手が何を考えているのか。何を狙っているのか。そこから根拠のない予測をはじき出す。
「別にいいけどさ」
「先輩。私を差し置いてデートとか」
「お前は自重しろ」
「しませんよぅ。私の全ては先輩のモノなんですから」
「それもそれでなんだかなぁ」
「何なら油性ペンで身体に書いてもいいですよ?」
そういう特殊プレイはちょっと。
「ネバダくん? いいですよね?」
「何もしないって誓えるか?」
「天地神明に誓って」
虚偽って簡単に口にできるよなぁ。だから、何度も言うが別にいいんだが。
「じゃ、そういうわけで。デートするか」
「そう言ってくれると思っていました。ネバダくんは私が好きですもんね」
「彼女面はするなよ?」
「好きですもんね?」
あー、さいですね。
「じゃ今日のところは失礼」
俺は両腕にカーマとエリを抱き着かせたまま、家に帰る。アキラが強制的に家に上がる可能性も考えたが、流石に遠慮したらしい。
「先輩。本当にアキラ先輩とデート……」
「しなくちゃあのまま刺されていただろ」
「私のため?」
「ある意味で」
「やだ…………好き♡ 先輩♡」
あーそりゃよーござんして。
「それよりアキラだよな」
「アキラ先輩のこと。好きなんですか?」
「お前が好きな程度にはな」
「安藤先輩のことは」
「お前が好きな程度には」
「喜ぶべき悲しむべきか」
それが問題だな。
「もちろんボクが一番好きだよね?」
「ソレは間違いない」
うんうんと俺は頷いた。
「何かすっごい不本意な間があった気がしたんですけど」
「気のせいだろ」
エリが俺とチュッチュすることなんてもう当たり前だ。今更アキラやカーマに申告する義理もない。
「ちなみに先輩って私のことどれだけ好きなんですか?」
「今のところは世界で一番」
「アキラ先輩と安藤先輩も?」
「そゆことになるか」
「じゃあ私しか考えられないようにしてあげます♡」
どうやって、と聞くのも無粋で。俺がシャワーを浴びていると突撃してくるカーマがいて。ついでにそこにエリがいたものだからシャワールームはぎゅうぎゅうで。南無三。




