第9話:非暴力主義
「俺らは悪くねえ! 先にあっちが挑発してきたんだ!」
「言い訳は署で聴くから。はい行こうねー」
もちろん衆人環視の前での暴力。警察が動かないわけも無く。お兄さん方は連行された。俺は警察官の一人に心配されて、救急車を呼ばれる寸前まで行っていた。丁重にお断りしたが。
「しかし……大丈夫なのかい?」
「鍛えてますから」
正確にはそう言う問題じゃないのだが。
「身体に異変を感じたらすぐに病院に行くんだよ?」
警察から最後まで心配されて、そうして解散。
「先輩……」
「別にお前のせいじゃないだろ」
「なんで反抗しなかったの?」
「暴力は好きじゃないのよ。非暴力主義って奴」
「ガンジー?」
「まぁ俺の理想ではある」
「殴ったら勝ってた?」
「多分俺が警察のお世話になってたんじゃないかね」
「本当に大丈夫?」
「ああ、実は俺は吸血鬼だから。不死だったりする」
「冗談が下手だね」
「次からは精進しよう」
「でも……ちょっとカッコよかったかも」
「お……」
そこで俺は感動詞を呟いた。
「どうかした?」
「いや、須藤さんからカッコいいって言われたから」
「今日何回も言ってたよね?」
「心のこもったカッコいいはさっきのが初めてだろ」
「そんなこと……ないよ?」
「このデートで俺を見極める気だったのかもしれないが、俺は別に隠すことも無いからな? どこにでもいるモブ三号だぞ?」
「モブ三号が真盛先輩にワンオンワンで勝つの?」
「バスケは趣味だから」
「もしかして色々とバレてる?」
「根本的な理由は分からん。だが何かお前が俺を敵視していて、不機嫌ながら敵情視察気分でデートに誘ったことは知っている」
「冤罪だよ」
「ちょっと察しが良くてな。色々腹に抱えていることがバレたくなければ俺には近づかん方がいいぞ」
「先輩ってもしかしてタラシ?」
「口説いてはいない」
「でも常闇先輩にベタ惚れされてるじゃん」
「別に俺がコナかけたわけでもねーし」
なるほどね。却下ン視が大体悟った。
「じゃ、解散するか」
「え、もう?」
「概ね目的は終わった。俺としてはこれ以上お前といても生産性が無い。お前にはあるのか?」
「ゲームセンター行きませんか?」
「それは他の連中と行ってやれ」
「先輩がいいんですけど」
その言葉が本心なら俺も付き合わんじゃないんだが。
「じゃあ送るが。家どこだ?」
「教えると思います?」
「もちのろん」
「はあ……先輩と話していると疲れます」
「よかったな。苦労は若いうちにだ」
「先輩は楽しくなかったんですか? 私と一緒にいて」
「腕を組んでおっぱいを押し付けられたのは幸福だった」
「さいてー」
大いに引け。俺にとってはその程度。
「そんなんだから彼女出来ないんですよ?」
「そうなんだよなー」
「私はカッコいいって思ってますけど」
「こんなにも嬉しくないカッコいいは久方ぶりだ」
「前にも経験あるんですね」
「俺にも色々と人生はあるわけで」
じゃ、帰るか。
「せめて最寄り駅まで送らせろ。家の場所は教えなくていい」
「じゃあそこまでは一緒しましょう。ちなみに先輩も電車通学?」
「さいですな」
「どこ駅ですか?」
「――――――――」
正確に駅を教えると。
「え?」
と須藤さんが驚いた。
「もしかして先輩ってお金持ち? そこの駅で、駅近マンション?」
「いや。親戚が不動産やってて。泣き落としで良心的な値段で融通してもらっただけ。偉いのは親戚であって、俺の金銭事情じゃない」
「はー。それはまた」
「じゃ、行くか」
そうしてスマホでダイヤを確認しながら庵宿駅に戻る。
「でも先輩の非暴力主義はカッコいいと思いますよ」
「殴る労力に割く俺のリソースが無いだけだ」
どうせ死ぬわけでもないんだし。暴力なんて使わないならそれに越したことはない。
「でもそれで私がレイプされたらどうするんです?」
「残念会をやろう」
「もうちょっとこう……その……先輩は私を歓待してもいいと思うんですけど」
「恋堕の天使なら惚れてる男はいっぱいいるだろ」
「今。私は。伏見先輩と。お話してます」
「そうですか」
まさに打っても響かない俺だった。
「こんなところアキラに見られたら」
「先輩? ここで他の女の名前出しますか? 普通……」
「嫌なら耳でも防いでろい」
「私とのデートなんですから私だけを見てください」
「はいはい」
「あとSNSのアカウント教えてください」
「ほい」
俺はあっさりと見せる。
「じゃ、登録しましたんで。返事は三分以内ですよ」
「そこはせめて三日以内で」
「マジでおっさんじゃないですか。先輩の思考って」
「失敬な。これでもピチピチの男子高校生だぞ」
男子高校生にピチピチという枕詞をつけていいのかは知らないが。そのまま駅まで送って「また明日ですね」という須藤さんと別れた。結局俺ってクレープ食って殴られただけ?




