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第8話:不良さんは暇らしい


「やってきました。庵宿区」


 東京二十五区の一区。庵宿区。原宿や新宿とならんで最新のトレンドが集まる街。ここでは東京民にとっての勝負の場で、情報の発信地でもある。


「ま、別にいいんだが」


 俺と須藤さんは庵宿駅で降りて、そのまま駅の広場まで歩いた。


「超イケのクレープ屋さんがあるらしいです」


「奢らんぞ」


「むしろ私が奢りましょうか?」


「いや。自分の分は出す」


「なんか先輩って打っても響きませんね」


「生来のさがでな」


 いまさら何を言われても、別に痛痒も覚えないのだが。茶髪のロリ巨乳美少女に、腕に抱き着かれて喜ばない男子がいれば、そいつは終わっている。


「おい」


「なんですかー? いいですよね? デートですから。イチャイチャしましょう」


 こんなザ・モブと腕組みして楽しいか?


「マジで先輩のこと推しにしようかなー。先輩はどう思います?」


「好きにしろとだけ」


「もっとこう喜んではくれませんかね。これでも結構プライドがボロボロなんですけど」


「可愛いとは思っているよ」


「学校で私のこと聞かないんですか?」


「恋堕の天使だとは聞いたな」


「これでも結構男の子をからかうのは得意ですよ?」


 だろうよ。


「先輩も~……私のおっぱいに夢中ですよね?」


「心地よくはある」


「もう照れちゃってー。そうやって紳士ぶらなくてもいいんですよ」


「揉んでいいんだな?」


 確かめるように俺が聞くと、瞬間須藤さんが葛藤した。


「セクハラですよー? せ・ん・ぱ・い?」


「だよなー。残念」


「残念なんだ」


「揉めるなら揉みたいのが息子心」


「男心ですらないんですね」


「ま、喪男だから。女の子のおっぱいは好物ですよ」


 んなことを言いながら、俺はクレープ屋に。えっらい長い呪文のような注文をする須藤さんに便乗して、「同じものを」とだけ注文する。クリームと甘いソースとクリームと果実とチョコチップがふんだんに乗った、なんのお菓子か分からないようなクレープを渡されて、昼食が食えそうな値段を請求される。訴訟していいか?


「じゃ、撮影しましょう。イェイイェイ」


「あー、俺は映すなよ」


「なんでです?」


「色々と都合がありまして。ネットに顔上げたくないの」


「賞金首とか?」


「左翼のテロ集団でもあるまいし」


 で、クレープを齧りながら味を批評し、そのまま食いつくす。駅の広場には椅子も用意されており、多くの学生が目的のクレープ屋で注文して、画像がバエるのどうのこうの。俺にはわからない世界。


「先輩って中身おっさんだったりします?」


「エロくて若い子が好みで流行りに疎い。たしかにおっさんだな」


「認めるんだ……」


「で、デートしたんだから、このままラブホだろ?」


「えー。行きたいんですかー? 先輩のド・ス・ケ・ベ♡」


「そういうところは恋堕の天使だな」


「不名誉な二つ名ですよねー。ま、私を見て恋に落ちるのは仕方ないですけど」


「どっちかってーと小悪魔を気取りたいのか?」


「先輩の童貞をからかってもいいんですよー?」


「あー……はい」


 他に何も言えねえ。


「ていうか。真面目に考えてください。私は先輩いいなって思ってます。先輩は?」


「もしも明日が晴れならばって思ってる」


「最悪の答えなんですけど」


「だって、お前……」


「?」


 俺が何か言うより先に。


「あっれー。君、可愛いじゃん。何々? デートですかー? 羨ましい~」


「でもちょっと彼氏さん冴えないね。お兄さんたちと一緒しない?」


 俺が本質を突くより先に、事態が推移した。パンクなファッションの大学生っぽいお兄さん方二人が須藤さんにナンパする。もちろん俺が傍にいることを承知で。ここで俺から女をかっさらって、寝取られビデオレターで脳破壊するまでが一連の流れ。


「彼氏さ~ん。ちょっと彼女借りるね? ちゃんと明日の朝には返すからさ~」


「というわけでお兄さんたちと一緒しようねー。ハイ決まりー」


 俺はモグモグとクレープを食べている。


「せ、先輩……」


 ニヤニヤと須藤さんにエロい目を向けているお兄さん二人と。クレープ食ってる俺と。怯えているような雰囲気の須藤さん。


「助けてほしいならそう言え」


「…………助けてください」


「というわけだ。ナンパ諸氏。そいつは俺の女だ」


「あっれー? ちょっと調子のっちゃってる? 彼氏くん?」


「下品な勧誘をしているモテないお兄さん方に相応しい女じゃねえよ」


 その一言で。


「あ?」


 お兄さん方は一気に不機嫌になった。


「なんつったテメェ」


「女を抱くことしか考えていない発情期のサルに、その女は相応しくない……と言ったんだ」


 その場でテンションが沸騰。お兄さんの一人が俺の胸ぐらを掴む。


「調子乗ってる? それとも女の前でカッコつけてる?」


「どちらも正解。ただその批評はブーメランじゃないか?」


「暴力沙汰になってもいいんだな?」


 まさにこっちのセリフなんだが。


「周り見ろよ。こっちにスマホのカメラ向けてるぞ」


「それで怯むとでも思ってんのか」


「思ってるぞ? どうせセコセコと女をナンパするしか能がない非モテ陽キャさん?」


 言った瞬間殴られた。すでにクレープは食べ終えていたので、勿体ないことにはならなかったが。


「……ふむ」


 そして殴られた俺は、その殴られた頬を拭って、何も思わない。


「もう一発殴られたいか?」


「いくらでもどうぞ」


 言われてさらに殴るお兄さん。


「ちょっと! 止めなさいよ」


「ああ? テメェは俺らの相手してりゃいいんだよ。コイツ殺したらラブホに連れて行ってやるから……」


 殴られた衝撃でタイル床に倒れた俺を、サッカーボールキックで追撃するお兄さん。そのまま俺の腹部を遠慮なく蹴って、衆人環視の中でボッコボコにしてくれる。


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