第10話:アキラの追及
「ネバダくん!」
バンッと俺の机を叩いて、アキラが睨んでくる。もちろん俺はライトノベルを読みながら平然としたものだ。
「何か。気に障ることをしたか?」
「須藤さんとデートしたって本当ですか?」
「誰から聞いた?」
「一緒に下校したとSNSで出回っています」
「まぁ。デートはしたな。一緒にクレープ食ったし」
「く、く、クレープ~~~~~!?」
そこまで驚くことか? そのままスマホで検索かけて、須藤さんのアカウントを見るアキラ。
「これですか!」
「ちょっと端っこに映っている肩が俺。いいねとリポストもよろしくな」
「ネバダくんの浮気者!」
そもそも恋人がいないから浮気が成立せんのだが。
「浮気だってよ」
「月影の女神を差し置いて?」
「いやでも恋堕の天使が相手だろ?」
ヒソヒソと教室がさざめく。どうやら俺は月影の女神と恋堕の天使を同時に相手取っている鬼畜に見られているらしい。どっちとも付き合ってはいないのだが。
「デートしたいのか?」
「ネバダくんは私以外の女子と会話しないでください」
「ヤダ」
「即決ぅ……。なんでですか!」
「そもそもお前。彼女面が酷いぞ。付き合ってないだろ。俺たち」
「じゃあ好きです! 付き合ってください!」
「お断り」
「そこを何とか!」
「謹んでごめんなさい」
「貯金全部下ろしますので」
「お前って男に引っかかって地獄を見るタイプだな」
ホストにハマりそう。あるいはDV彼氏。私が悪いの、とか言って男を恨まないタイプ。
「ネバダくん? 転校してばかりで右も左も知らないでしょ?」
「まぁ。だな」
「私が案内してあげます。ですから放課後は空けてください」
「バスケはもうせんぞ」
「スポーツお嫌いですか?」
「好きな方だが、自分でやるとなるとな」
ちょっと躊躇がある。
「恋堕の天使に惑わされないでください! あの子はネバダくんをからかっているだけです!」
「知ってるよ。俺に惚れてないよな。アイツ」
却下ン視で何となくは察している。無論それ以上のことも。
「私だけが愛してあげます。ネバダくんも私に愛されたいですよね」
目をギラギラさせながら、彼女は演説を続ける。俺的にはイエスともノーとも言えんのだが。ここでどうでもいいっすとか言える自信はまぁ無いわけで。
「俺と付き合いたいの?」
「恋人にしてほしいです。金は私が稼ぎますから」
あのな。だからそういう捨て身が男を引かせる最大の要因であって。
「ここでキスしましょうか?」
「生徒指導の対象になるから止めてくれ」
「ネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくんネバダくん」
呼び過ぎだ。
「あのー。月影の女神……さん?」
常闇アキラに二つ名で呼ぶ奴がいるのか。
「何か?」
「伏見くんが好きなの?」
「愛しています」
「そ、そっか……」
若干女子は引いていた。こうまで二年生で一番可愛い月影の女神が俺にベタ惚れと言う恋愛事情が不可思議でしょうがないのだろう。俺も不可思議でしょうがない。
「恋堕の天使に惑わされないでください。私がネバダくんを世界で一番愛しています」
「なぁエリ」
「どうかした?」
「何でお前は俺にキスしてるんだ?」
「好きだから」
「生徒指導の対象だろ」
「どうせ誰もボクの行動は認知してないし」
今、教室で、月影の女神に問い詰められている俺が、砂漠谷エリとキスをしていることだけは不自然に認知されていなかった。
「お前も俺が好きなの?」
「ていうかボクが見えるのってネバダだけだから選択肢なくない?」
たしかに。
「ネバダさえ望むなら、学内セクロスもありだよー」
謹んでごめんなさい。
「聞いていますか! ネバダくん!」
「まったく聞いていなかったんだが」
「恋堕の天使に誘惑されても乗っちゃいけませんよ? 世界でネバダくんを一番愛しているのは私なんですから」
「へー」
アッテンボロー的に言えば「それがどうした」でしかない。確かに最強の言葉だ。
「ネバダくんも血を見たくないですよね?」
「もちろんだ」
そもそも流血沙汰はありなのか? 警察が動かないか? 柳原で警察がどのように定義されているのかは知らんが。
「とにかく。じゃあ。放課後は私との予定ですね」
「さっさーい」
教室のざわめきは酷くなっていく。あの月影の女神が転校生の御執心。そのことが噂になるらしい。で、秒で学内に拡散される。
「悲報。月影の女神が転校生のベタ惚れ」みたいな。
「月影の女神と恋堕の天使を相手取ってるって」
「前世でどれだけ徳を積んだんだ」
「俺恋堕の天使推しだったのに……」
一年代表、恋堕の天使。
二年代表、月影の女神。
「ん? 三年は?」
「んちゅ♡ ネバダのキスは甘いね」
「アキラの前でよくもできるな」
「これって寝取られかな?」
むしろ寝取りじゃね? 実際に情熱的なキスをしているエリに、アキラは気付いていないわけで。俺のことが好きで好きで愛していて、それ故にネバダくんは私と付き合うべきですと言ってはいるが、その言われている俺が現在進行形でエリとキスしているなど思いもよらない。
「ところでナース服なんだな。今日のお前」
「コスプレだけどね」
色んな服を持っている奴だ。それでコスプレ登校しているというだけでエリの精神性は怪物に他ならない。
「ちなみに三年代表は高嶺の唯華って呼ばれてるよ」
さいですか。
唯一つの高嶺の花、か。




