第86話:闇のカルマちゃん議論
「き~さ~ま~」
夏休みも終盤。学業が始まるとシフトを入れるのも難しくなる。ということでカーマのメイド喫茶シャングラリでのバイト活動も活発になる。俺は送り迎えを申し出ており、快諾したカーマによって許可を受け。ついでに店の側にも説明をしており、コーヒーを飲みながらグダグダと時間を潰す毎日。カーマこと闇のカルマちゃんの人気はすさまじく。学生であることはバレてるので、夏休みにシフトを入れていることはシャングラリの常連には認知され。結果闇のカルマちゃんの客対応は熾烈を極める。
「何故ふてぶてしくもここにいる!」
俺は店の隅っこでコーヒーを飲んでいたが、客としてきていた喪武タロウが相席。この前のカーマをタクシーでお持ち帰りが響いたのか。俺を恋敵として認識したらしい。
「闇のカルマちゃんの送り迎えを担当しているから」
他に理由が必要か? と聞いてみるが、相手も恋に理屈が通用しないのは認識しているらしく。
「闇のカルマちゃんは拙者のものだぞ」
「そうですか」
いまさらそこを論じる気はなく。俺は肯定という名の無益で答えた。
「闇のカルマちゃんを守れるのは拙者だけ。つまり拙者こそが闇のカルマちゃんの隣に相応しい」
「前もそんなこと言っていたな?」
「実際にそうだろう? 少なくとも貴様はナンパ男を制しえなかったのだから」
「それは確かに」
「そんな貴様に聞こう。闇のカルマちゃんの自宅は知っているか?」
俺と同居している、と言うのが悪手なのは俺も悟っていて。
「さあ? 駅までは送っているが、そこから先はな」
「どこの駅で降りるんだ?」
「プライバシー故に黙秘」
「拙者は闇のカルマちゃんの想い人なんだから知っていて当然だろう!」
「本人に聞けよ」
俺はメイド喫茶で東奔西走している闇のカルマちゃんを指差す。
「ご主人様。ご注文はお決まりですか」
「えーと」
何とかという正気を疑う名称のオムライスと紅茶を頼む喪武タロウ。
「美味しくなる呪文付きで」
「承りました。誠心誠意ご奉仕させてもらいます」
「は、はわー」
営業スマイルで微笑むカーマに、ガチ恋で惚れこむ喪武タロウ。このままだと悪循環だと思う俺は間違ってんのか?
「やはり闇のカルマちゃんは神。あの子は誰にも渡さない」
「結構指名が入っているみたいだが」
闇のカルマちゃん目当てで来訪している客が四割くらい。指名制度もあるのでカーマは大忙しだ。他のメイドさんの仕事を取っている気もするが、カーマが可愛いロリ巨乳であるのは事実なので、人気のほども覚れる。実際可愛いしおっぱいも大きいし、男が幻想を持つのは事実というかなんというか。
「貴様如きが触れていい女の子じゃないぞ」
「性的に興奮しているならそう言えばいい。実際お前の闇のカルマちゃんを見る目はエロイぞ」
「貴様がソレを言うか?」
「俺はエロイからな」
裸も見たことあるし。
「拙者はピュアな気持ちで闇のカルマちゃんを……」
「じゃあ婚前交渉はしなくていいんだな?」
「それは闇のカルマちゃん次第だと……」
「ふーん。へー」
「何か意見がありそうだな?」
べつにー。俺としてはカーマのおっぱいをガン見するくらいが自然だと思っただけで。
「そもそも貴様は闇のカルマちゃんのどこを気に入ったんだ?」
「可愛いところ」
「結局顔か」
「他に判定対象あるか?」
「拙者は拙者を真摯に愛してくれるその心意気に惚れているのでござる。あんなに愛らしい闇のカルマちゃんが拙者にピュアな気持ちを向けてくれる。それだけで拙者は真実の愛を手に入れてござる。貴様のように顔だけで女性を判断する愚鈍とは立っている場所が違うのだ」
「じゃあ闇のカルマちゃんが超絶ブサイクでも同じことが言えたか?」
「も…………もちろんだ……」
躊躇っている時点でアウトな気がするんだが。
「とにかく。これからは拙者が闇のカルマちゃんを送り迎えする。貴様は手を引け」
「嫌だ」
二文字三音で俺は否定した。
「闇のカルマちゃんも好きでもない男に送り迎えされても苦痛なだけだと何故わからぬ?」
「じゃあ闇のカルマちゃんは誰を愛しているんだ?」
「拙者にござる」
「あー。さいですか」
「その面倒だから議論の余地がないみたいな態度は何だ?」
分かっているなら聞く必要ないだろ。
「はーい。ご注文の品です。では美味しくなる呪文を唱えさせていただきます」
いいタイミングでカーマが介入した。そのまま喪武タロウにご奉仕して、彼のテンションを上げる。
「闇のカルマちゃん!」
「は、はぁ。なんでしょう?」
「闇のカルマちゃんは拙者のことを愛しているよね?」
「ご主人様には尊敬をしておりますよ?」
遠回しにフッたつもりなのだろうが。
「ほら。やっぱり闇のカルマちゃんは拙者のことが好き。お前のしゃしゃり出る余地はないのだよ」
俺に憐れみを向けるように、そう言う。そうしてオムライスを食べて嘲るように俺を下に見る喪武タロウに、少しだけイラついた笑みを向けながら、お客様は神様です精神で、何の抗議もしないカーマ。
「これから闇のカルマちゃんの送り迎えは拙者がするからね。心配しないで。チャラ男がナンパしてきても拙者が撃退するから」
「いえー。遠慮します」
「そんなこと言わないで!」
「先輩に送ってもらえれば安全なので」
「じゃあそういうことで」
カーマのシフトが終わって。俺も会計を済ませて店の外へ。合流して、カーマと帰路につくと。
「ッ!」
誰かの呼気が聞こえて。
ガツンと殴られる俺の頭部。それが金属バットによるものだと、認識したのは後刻のことで。俺の意識がエラーを起こして。そのまま倒れ伏してしまう。
「先輩!? 先輩!」
遠くに聞こえるカーマの声。そして悪意のある声がする。
「ひゃはは! こんなことで金が貰えるなんて軽い仕事だぜ」
「サラリーマン狩るより簡単な依頼だな」
「ていうか死んだんじゃね? コイツ。まぁ俺らには関係ないか」
嘲笑うように男たちの声が聞こえて。そのまま俺としての意識は手放さざるをえず。俺に寄り添って心配の声をかけるカーマがその後どうなったのかを、今の俺では認識も難しく。なので今はおやすみなさい。




