第79話:お前のヤンデレを俺が配慮する必要はないぞ
そうして我が家に帰ると。
「おかえ……り……」
現れた安藤先輩が俺とカーマを見て、そのまま絶句。その後ろでアキラもちょっと引いている。エリは一人キャラキャラと笑っているが。
「えー。じゃあ飯にするか」
すでにご飯が出来ていることは安藤先輩から聞いている。五人でご飯を食べて。もちろんあっさりとエリも参戦している。米は炊いてあるし、スープは独自に、おかずも共有して食べるモノであればあまり問題はない。ちょっと個人個人の分配量は変わるのだが。
「それで。ネバダくん?」
飯を食いながら、アキラが問題を提起した。
「何か?」
「なんで……須藤さんと?」
「好きだから」
俺の意見はあっさりしたものだった。カーマのことを好きだから。それ以外に理由はない。実際に恋堕の天使は魅力的だし、好きにならない理由もない。
「須藤さんに……恋をしている……と?」
「そうだな」
「じゃあ……私のことは好きじゃなくなったんですか?」
「好きだぞ?」
「え? でも……」
「なんでカーマのことを好きな俺がアキラのことを好きじゃなくなるんだ?」
「それは……でも……不誠実じゃないですか?」
「俺がいいって言ってるのに?」
「先輩。それはちょっと上級者過ぎません?」
「お前らが何を懸念しているか知らないが、一応俺も恋は知ってる。その上で別に問題になるようなものでもないと思うんだが」
「先輩はそれでいいんですか?」
「ネバダくんはいいの?」
「だって最初から手放す気ないし」
アキラもカーマもとても好きだ。今更俺に手放せと言われても納得できるはずも無く。
「じゃあ、どっちの方が好きですか?」
「同じくらい好き」
「あうー……」
「先輩って私に好意的……だったんですねぇ」
「…………」
その俺の隣でデレデレしているカーマと、平然と飯を食っている安藤先輩。
「……嫌です」
だからポツリと聞こえたアキラの言葉に、俺たちは何を言っているのかちょっとわからず。けれどどん底から這い上がってきたような奈落の主のごとく、その声は響いた。
「ネバダが私以外を好きになるのは嫌です」
「ご愁傷さまだったな」
「殺せばいいんですか? 須藤さんも安藤先輩も、全員殺せばいいんですか?」
「それやった場合、俺から軽蔑されると思うんだが、それについてはどう思う?」
「それでも、ネバダくんの愛を独占できるなら」
「ま、とはいえ今のところ意味がない思考だがな」
「ネバダ先輩、蘇生できますもんね」
「自分にも使えるんですか?」
「不可能ではない……程度だな」
「殺す。殺さなきゃ。私が……ネバダくんの唯一」
ボソボソと物騒なことを言っているが、思い詰めているというより、何か別のことに囚われているような。
「せんぱーい。アキラ先輩が怖いです。助けてください」
「命は保証するよ」
「えへー。だから好きですよ? 先輩」
「惚れた女くらいは守りたいからな」
「ネバダくん! そんな奴に勘違いさせるようなこと言わないでください!」
「だから好きなんだって」
俺にとってはそれが全て。恋堕の天使は可愛いし、俺を好き好き言ってくる後輩ムーブがとても愛らしい。惚れない方がどうかと思うんだが、それについては如何に?
「ソイツは移り気ですよ? 男をからかっているだけです」
「知ってるけど。からかわれたいという願望もあるわけで」
「先輩ってからかわれたい願望あったんですか?」
「そういう意味ではカーマの空回りは結構好き」
「むぅ。そう言えば先輩って私に乗りませんでしたよね?」
「あの頃は俺も若かった」
「須藤さん?」
「なんですかー? アキラ先輩?」
「後で殺しますので。お覚悟だけは」
「やーん。ネバダ先輩。恐いですぅ」
「俺が助けてやるからな」
「男らしくて素敵です♪」
「殺す。殺す。絶対殺す……」
ボソボソと物騒なことを呟いているアキラには悪いが。
「お前が血を流しても、それは意味のないことなんだ」
おかずを食べながら、それだけは言う。
「ナイフを握って。血を流して。敵を殺して。何かを手に入れようと思うことそのものが俺にとっては傲慢だ」
「先輩、非暴力主義ですもんね」
「ああ、俺は力にだけは絶対に頼らない」
「じゃあ私はどうすれば……」
捨てられた子猫のように、シュンとするアキラ。
「まずは対話だな。俺のことを好きにさせてみせろ。血を流すんじゃなくて。お前の魅力で俺を篭絡してみせろ」
「じゃあ、してくれます?」
何を? というかナニをだろう。
「そこまでは俺も責任が持てん」
「魅力ないですか?」
「十分魅力的だよ。お前は」
「でもおっぱい……」
「Cカップもあれば十分だろ」
そもそもカーマが大きすぎるだけ。安藤先輩に至っては神懸り過ぎるだけ。
「お前が俺を独占するために刃物を振り回すのはご結構だが」
「結構じゃないですよー」
カーマにとっては死活問題だ。
「その意味をちゃんとお前は理解しているか。俺にどう思われるかまで考えているか?」
「でも……私はネバダくんを独占したい」
そのために人を殺しても……か?
「ヤンデレって呼ばれる女の子の属性があるのは知っているが」
「分かりまーす。アキラ先輩ってヤンデレですよね」
カーマも人のことを言えんと思うが。
「だからって、お前のヤンデレを俺が配慮する必要はないぞ」
刺されたら蘇生すればいい。生きていれば丸儲け。そのための手段を俺は持っているしだから何の心配もいらない……と言うほどではないが、少なくとも最悪の事態には陥らない。それと分かって刺すのなら、俺から言うことは然程ない。
「俺に嫌われて終わりたいならどうぞいくらでも刺せばいい」
思い詰めているアキラにそうとだけ言って、俺はニコリと微笑む。別にそれで何かが変わるわけでもないんだし。カーマにしろ安藤先輩にしろ、俺の女に相違なく。




