第78話:カーマの不満
「はーい。ご命令頂きましたー」
そうして夏休みは少し過ぎ。俺はメイド喫茶に来ていた。カーマがやっているところだ。もちろん指名は闇のカルマちゃん。俺としては彼女に会いに来たも同様で。
「ご主人様。こちらオムライスになります」
「美味しくなる呪文をお願いします」
「わかりましたー。では美味しくなる呪文を唱えさせていただきまーす」
そうして昼飯のオムライスを食って、そのまま喫茶店でダラダラ。さすがに席を占領しているので、ちょくちょくコーヒーを頼んでいて。そのたびにミルクを混ぜ混ぜしてもらっていた。もちろん闇のカルマちゃんから。指名をしているので、やっかい粘着の客だと思われるかもしれないが、あながち間違っていないのが。
「闇のカルマちゃん。フヒヒ。拙者にもよろしくお願いしますぞ」
「はーい。承りましたー」
今日のバイト二時で終わるらしい。それまで店内でグダグダして、それから会計を払って清算する。店の外で待っていると、カーマが現れた。
「よ」
「お待たせしました。先輩」
そうして二人そろって帰路につく。
「その……先輩?」
「どうかしたか?」
「その。恋人繋ぎというものをしてみませんか?」
「恋人繋ぎ……ですか。俺はアキラじゃないぞ?」
「知ってますけど。言わせるんですか?」
「ああ、言ってくれ」
「その……先輩のこと……好きだなって」
「トラウマについては大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですけど、ちょっと危機感を覚えていまして」
「危機感?」
「先輩……アキラ先輩とイチャイチャし過ぎです」
「アイツが好きだと言ってくるからな」
「私だって……先輩のこと」
「マジで言ってる?」
「却下ン視でわからないんですか?」
むしろわかっているから聞いているんだが。だってあのカーマがだぜ? 俺のことを好き? アキラではなく? たしかにそういう関係を目指していることは悟れていたが、今日のカーマは確定的に俺を誘惑している。
「それで恋人繋ぎ……」
「先輩となら……いいかなって」
そんなわけで俺とカーマは手を握った。互いに指を絡めあって、ギュッと握る。
「ちょっといいですねコレ」
「俺は最高潮にいいが」
「先輩も……私と手を繋いで嬉しいんですか?」
「もちろんだ」
「その……本当に?」
「疑う要素があるならキスしてみせようか?」
「その……お願いします」
「え、ガチで? 冗談のつもりだったんだが」
「先輩が言ったんですよ?」
ギュッと手を強く握られる。その手の平から受け取った体温が俺にとってはまぁドキドキで。そのままカーマの頬に手を添える。彼女を見てみると、その瞳は濡れていて、ぼーっと俺を見つめていた。熱に浮かされている、というそのままの意味で。そのまま二人の距離が近づいて。
「ん」
「ちゅ……は」
そのまま二人でキスをする。その事を自覚すると、俺はちょっと興奮した。
「先輩。キス上手ですね」
「アキラとかとやってるからな」
あとレアスとエリ。
「もっと欲しいって言ったらしてくれます?」
「いくらでも」
そうして俺たちは、駅までの道のりで、何度も何度もキスをした。
「アキラ先輩はこんなことを感じていたんですね」
「こんなこと?」
「男の人にキスを捧げるという」
「ああ、そういう」
「ハマりそうです。ていうかハマりました。なので今後は私ともキスしてくださいね。せーんぱい♡」
キスするのはいいんだが。お前が刺されても俺は知らんぞ。茶色い髪のボブカットの美少女。米糠高校曰く「恋堕の天使」……人を恋に堕とす天使と言ったところか。
「先輩のためなら私、何だってしますからね?」
「エッチなことも?」
「が、頑張ります……」
「ジョークだ。そういうのはお前の症状が解決したらな」
「アキラ先輩とはしないんですか?」
「だから出来ないんだって。呪術誓約でそういう風になっている」
「なんで?」
「会いたい奴がいるんだ」
「恋人ですか?」
「いや。妹」
「離れて暮らしている……とか?」
「すでに死んでいたりして」
「笑えませんけど」
うん。俺も笑えない。でもだからってあきらめる理由にもならず。
「つまりその妹さんをどうやってか蘇生すると?」
「蘇生……ね」
「私を助けてくれたみたいに」
アレはまぁサービスみたいなものだ。
「妹さん。お好きなんですか?」
「過去までの俺の中で俺史上最高に愛してる」
「アキラ先輩が残念でなりません」
「お前も見切ってくれていいからな」
「知ってました? 先輩? 私、こう見えて重い女の子ですよ?」
「こう見えても何も、アキラの愛を獲得するために俺を刺しただろうが」
「そうでしたね♡」
テヘッ、と笑えない誤魔化し方をするカーマ。実際に殺傷事件なのだが、俺が立件していないから問題になっていないだけで。そうして駅まで着いて電車に乗る。
「ねーぇ。先輩……キスしませんか?」
「ここでか?」
電車の中だ。彼女は恋堕の天使だけあって電車でも視線を集めている。
「この場で私が誰のモノなのかを皆さんにお伝えしたくて」
「…………」
俺は彼女の頬に手を添えて、その逆の頬にキスをした。ちゅ、と一つ。
「先輩のヘタレ」
「勘弁してくれ。この情報化社会だとSNSにアップされる可能性も無いではない」
「先輩ってその辺魔法でどうにか出来ないんですか?」
「そんな便利なもんじゃないんだよ。魔法って」
もう一回彼女の頬にキスをして。目をトロンとさせている彼女を見れば、お前だって蕩けているじゃねーか、とツッコみ。そして俺たちは車内でも恋人繋ぎを解かなかった。




