第73話:問題の崩壊
座っている俺の視界下でエリが犬の服従ポーズをしていた時。レアスは俺の要望通り衣服を買っていた。さすがにこのまま監禁生活も限界だろうということで、使い魔のハエを彼女に張り付かせている。
「……なんでネバダを見てイライラするんだろう? ……昨夜もあんなに可愛がってもらったのに」
無意識下で認識している誰かが原因だが、そんなことをレアスがわかるはずも無く。
「シャツは……やっぱり綿がいいかな? 汗吸いそうだし」
そういう基準で選んでんのか。
「……はぁ……ネバダ……好きぃ」
俺の着せるシャツを眺めながら恍惚な表情になるレアス。シャツとズボン。それから男性用の下着を買って、そのまま店外へ。そうしてマンションまで帰ると、エントランスに知っている顔が。
「……アキラ。……カーマ」
「お久しぶりです。安藤先輩」
「ちょっと用事があってきちゃいました」
ニコリ、と微笑むアキラとカーマ。二人にも使い魔を付けているので、彼女らの動向は俺も把握していた。
「何買ったんです?」
「……衣服をちょっとね」
「とりあえず話は中でしませんかー? 私も安藤先輩待つの疲れちゃって」
「……じゃあ喫茶店にでも」
「ここまで来てそういう悪足掻きするんですか? 大丈夫ですって。全部バレてるから」
「須藤さんもそうだけど、私も安藤先輩の部屋に上がりたいです」
「……わかりました」
そうしてレアスは諦めた様に消沈して、そのまま部屋に案内する。網膜認証で部屋を開けて、そのまま屋内に通すと。
「お」
俺がパンツ一丁でタオルを頭にかけているところだった。
「はわぁ……ッ」
「ふわわぁ……ッ」
ちょっとエロすぎたか。
「大丈夫でしたか? ネバダくん?」
「大丈夫も何も。危機的なことは何もないぞ?」
「ネバダ先輩監禁されてたんでしょ?」
「いや? 宿題合宿」
「だったらなんで私を呼んでくれないんですか」
「面倒」
バッサリ斬りつける。
「じゃあ安藤先輩に監禁されていた……わけじゃないんですか?」
「そんなことしないよな? 安藤先輩?」
俺はあえてレアスとは呼ばなかった。
「うん。ちょっと宿題と創作の合宿」
俺と話を合わせた方がメリットが大きいと判断したのだろう。固い笑顔でレアスはそう言った。
「せめて既読くらいつけてくださいよ」
「ああ、すまん」
そうして既読をつける。アカウントに関してはエリを通して以前のスマホを継承している。面倒が嫌いなので未読スルーしていたが、それもすでに過去のこと。
「よくここがわかったな」
「安藤先輩の親御さんが心配していましたよ」
「暴走も大概にしてください、ですと」
「ふーん」
俺はガシガシとタオルで髪の水気を拭いながら、気の抜けた返事。
「ネバダ。先輩帰ってきた?」
「おう」
で、こっちも下着姿で肩にタオルをかけているエリが脱衣所から現れる。
「あれ?」
「えーと?」
「……伏見くん?」
違和感。無意識。不快感。
どうせエリはわざとだろうけど。
「新しいシャツくれ。着替える」
「……あ。……どうぞ」
そうしてユニシロの服を着て、そうして一段落。
「監禁されてた……んですよね?」
「いや? 好待遇を受けていたぞ?」
「セキュリティかかっている内部構造に、スマホまで奪われて?」
「俺が外に出たいって言えば出してくれたから問題ないだろ」
そういう事実はないのだが、別にアキラとカーマが真実を知る必要はないし。
「ちなみになんですけど。一緒に寝ました?」
「ベッドは一つしかないしな」
「……」←アキラ
「…………」←カーマ
「……ちょっと一緒しただけだから」
「羨ましいか?」
「「羨ましい」」
さいですかー。
「ていうか、先輩も不用心です。女の子は怖いんですから、ホイホイついていかないでください」
「ホイホイ男についていく女もいるしな」
「皮肉ですか」
「いっやー……べつにー……」
「結局監禁については言わないんだ?」
下着姿のままタオルで水気を拭いながら、そんなことを聞いてくるエリ。
「言っても面倒だろ」
「それは確かに」
「でも六日かぁ。もうちょっとゆっくりできると思ったんだが」
「監禁されたいの?」
「されたくはないが、こういうのもありかなって」
「実は本意とか?」
「いや。外には出たいな」
「と・に・か・く。帰ってきてください。ネバダ先輩」
「心配かけたな。カーマ」
「先輩がいけないんですよ。私を惚れさせて放置とか」
「にしては発電が盛んだったような?」
「なんのことかわかりません!」
「ネバダくんは不用意すぎます」
「アキラにも心配かけたな。でも死ぬわけじゃないんだし」
「安藤先輩に付き合う必要もなかったでしょ?」
「付き合わない必要もないがな」
揚げ足取りであることを承知で。
「じゃあ今日は先輩は私と寝てください」
「その前に私」
「……伏見くん」
「ボクはどうすればいい?」
「まずはアキラとカーマ優先で」
レアスとエリから不満の声が上がったが、エサをやらないというのも気が引けて。よくよく考えると何でコイツ等って俺が好きなんだろうな?




